表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/81

第25話「見ている」

放課後の森の小屋。

子供たちは、いつも通り集まっていた。

でも、その日は少しだけ違っていた。


笑いはある。

遊びもある。


それでも――

どこか、足りない。

レインは、気づいていた。

“動かす”だけじゃ、足りない。


これは、その一歩先。

――“見せ方”の話。

放課後。

森の小屋。

その日は、いつもより静かだった。

子供たちは集まっている。



でも、どこか様子をうかがうように、少し距離を取っていた。

「……今日はやらないの?」

誰かが、小さく聞く。



レインは、何も言わなかった。

テーブルの上。

一枚の布がかけられている。

その奥に、ぬいぐるみがひとつ。



「レイン?」

ミレアが覗き込もうとする。

「まだ?」

短く、止めた。

一拍。

レインは、布の向こう側に回る。



手を入れる。

見えない位置。

深く、息を吐く。

(……見せ方)

(……動きじゃない)



指が、ゆっくりと動く。

――ぬいぐるみが、顔を上げた。

「……!」

小さく、息を呑む音。

今度は違う。

ぬいぐるみが、少し間を置いて――



ゆっくりと周りを見渡す。

まるで、自分で状況を確かめているみたいに。

「……ズンチャン?」

ミレアの声が、自然と小さくなる。

ぬいぐるみが、そちらを向いた。



一拍。

「……こんにちは」

レインの声は、少しだけ変わっていた。



子供たち

「ぬいぐるみが喋ったみたい」



ぬいぐるみの口が、わずかに動く。

遅れない。

無理もない。



ぴたりと、合っている。

「……!」

空気が、変わった。

誰も、すぐに笑わない。

ただ、見ている。 



ぬいぐるみが、首をかしげる。

「ズンチャン、だよ」

カイ

「……ぷっ」

サリア

「ちょっと待って、それ誰の声?」



間。

「……あ」

誰かが、声を漏らす。

ぬいぐるみが、一歩前に出る。



――違う。

歩いているように、見える。

「え、待って……」

子供の一人が、思わず身を乗り出す。

「動いてる……」



その声に、重なるように。

「ははっ……!」

笑いが、こぼれた。



一人。

また一人。

「なにこれ!」

「すごい!」

「ズンチャンしゃべった!」



笑いが、止まらない。

今までと違う。

途切れない。



ぬいぐるみが、手を振る。

「やあ」

子供たちが、一斉に手を振り返す。

「やあー!」

一人が前に出る。

「オレもやる!」



ぬいぐるみを奪い取る。

「やあ!!」

ぶんぶん振る。



別の子供

「ちがう!そうじゃない!」

さらに取り合いになる。

ぬいぐるみの腕が、ぐにゃっと変な方向に曲がる。



一瞬の沈黙。

「……いたそう」

誰かがぽつりと言う。

その一言で、また笑いが起きた。



ミレア

「ズンチャンかわいい!」

「もっとやって!」



カイ

「可愛かったか?今の」

子供たちの声が止まらない。



レインの指が、わずかに震えた。

(……続いてる)

(……止まらない)

ぬいぐるみが、くるりと回る。



少しだけ、よろける。

「おっと」

その一言に。

「はははっ!」

また、笑いが広がる。 



サリアが口元を押さえた。

「ちょっと……なにこれ」

カイも、目を見開いていた。

「……おい」

言葉が、続かない。



ミレアは、ただ見ていた。

目を、輝かせて言った。

「……生きてるみたい」



その言葉に。

レインの手が、ぴたりと止まりかける。

――でも。

止めない。



(……違う)

(……これは)

ぬいぐるみが、もう一度、子供たちを見る。 



レインは劇を始めてた。

「また、あそぼ?」

その瞬間。

「うん!!」

声が、重なった。

笑いが、小屋いっぱいに広がる。



カイ

「意味のないスカスカの会話だけど、スゲェじゃん」

サリア

「会話、全然入ってこなかった」

「……でも、凄いわ」



ミレア

ぬいぐるみに夢中で、聞いていない。



レイン

(……褒めてるんだよな)



外の森にまで、響いていく。

レインは、布の向こうで、静かに息を吐いた。

(……これだ)



胸の奥にあった違和感が、すっと消えていく。

(……作れた)

ぬいぐるみが、もう一度、手を振る。

「またね」

「またねー!」

声が重なる。



笑いが、続く。

途切れない。



レインは、静かに目を閉じた。

(……笑ってる)

その事実だけで、十分だった。



――そのとき。

「皆、何をしているのですか」

静かな声。

いつの間にか。

小屋の入口に、立っていた。



セレナだった。

誰も、すぐには動かなかった。

「……」

セレナは、トーマを睨むように見ていた。

そのまま。



ゆっくりと視線を動かす。

――子供たちへ。

――ぬいぐるみへ。

そして――レイン。

すべてを、確認するように。



「あら」  

「……随分、楽しそうね」

ぬいぐるみに視線が落ちる。

「それは――何ですか?」



一歩。

静かに、近づく。

「……まだ、懲りないようね」

「皆、一度、教室に行きましょうね」

優しい声だった。



――誰も、動かなかった。

だが。

逆らえる空気では、なかった。



子供たちは、顔を見合わせる。

さっきまでの笑いが、嘘みたいに消えていた。

「……はい」

ぽつりと、誰かが答える。

一人、また一人。

ぬいぐるみを抱えたまま、歩き出す。



ミレアも、振り返りながらついていく。

「……ズンチャン」

小さく呟く。



レインは、その場に立ったままだった。

セレナの視線が、こちらに向く。

「あなた達も」

短く言われる。



一拍。

レインは、布の向こうに目を落とした。

さっきまで、“生きていた”もの。

今はただの、ぬいぐるみ。



(……消えた)

(さっきまで、そこにいたのに)

小さく、息を吐く。

そして。

何も言わずに、歩き出した。


ぬいぐるみが“動いた”回です。

正確には、動いたのではなく

「そう見えた」瞬間でした。


レインがやったのは、

技術というより――ズレの調整です。


ほんの少しの間。

ほんの少しの視線。

それだけで、ただの布が

“生きているように”見えてしまう。


この世界にとっては、

それが一番危ないのかもしれません。


次回も読んで頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少しずつ、三カ国の全貌が見え始める。 『笑い』『選別』『価値』が交差する異世界ファンタジー。 (※執筆・画像すべてスマホ1台で制作しています)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ