5 やだ、太ったの? ~レディは布団の中でクスッと笑う~
童話の世界では、困難に直面した主人公に寄り添うのはいつも『小さな動物たち』ですね。
シャルマントの困難に寄り添ってくれる動物さんは・・・
むかし、むかし、あるところに、カチューシャの上からしっかりとあごに向かって強くリボンを結んだシャルマントと言う女の子が眠っていました。
どれくらいの時間が経ったのでしょうか、パッチリと目を覚ますと、辺りはまだ暗く、まだ真夜中の感じです。ふと気が付くと、しっかりと結んでいたはずのリボンは解け、カチューシャの耳が立っていました。でも、昼に聞こえていた多くの声は聞こえて来ません。
(そうか、動物さん達も眠っているのね。)
シャルマントはそう思い、ホッとした気分になりました。すると、何処からか小さな声が聞こえるではありませんか。
「キイテ キイテ チューチュー。」
「キク キク チューチュー。」
「キイタラ ワクワク。」
「キイタラ ワクワク?」
「そうなんだよ。この前さ・・・・」
いつもの様にシャルマントは天井の節を見つめます。
そして思います。
(これって、ネズミ?)
「そうなんだよ。この前さ、ビスケット拾っただろ、その場所にもう一度行ったらさ、また有ったんだよ、ビスケット。」
「え~~! そうなの? 私も欲しかったな~。」
「夜が明けらた、一緒に行こうか。」
「え? いいの? 私にお宝の場所教えっちゃっても?」
「良いに決まってるさ。君は可愛いからね。」
「ありがとう~。好きよ。」
「僕もだよ。一緒にいこうね。」
「うん。」
シャルマントはそんなネズミ達の話を聞いて、可愛らしく思い、布団で口を隠して、声が漏れないようにして、少しクスッと笑いました。
すると、別の所からも聞こえてきます。
「キイテ キイテ チューチュー。」
「キク キク チューチュー。」
「キイタラ ワクワク。」
「キイタラ ワクワク?」
「また、子供が生まれたんだって?」
「へへへ、今度は六つ子です。」
「凄いね~、やっぱり可愛い?」
「そりゃもう、母ちゃんは大変って言ってるけど、ニコニコしてお乳を飲ませてるよ。」
それを聞いたシャルマントは再びクスッと笑います。
しばらくネズミ達の話を聞いていたら、シャルマントは再び眠たくなったので解けていたリボンを強く縛り直して深い眠りにつきました。
シャルマントは夜にネズミ達の話を聞くのが楽しくなり、それからというもの、毎晩、天井を見上げてはクスッと笑っています。
ネズミ達の話を始めるお決まりの言葉も楽しくなって、自分でも口ずさむ様に成りました。
お決まりの言葉を覚えると、より楽しくなるようにとちょっとだけリズムを付け、ネズミ達の会話に合わせて布団の中で小さく口ずさみます。
「♪キイテ キイテ チューチュー キク キク チューチュー
キイタラ ワクワク キイタラ ワクワク?」
(何て楽しいのかしら。)
シャルマントはその度にクスッと笑い、ネズミ達の話を聞いていました。
ある夜の事です。
「キイテ キイテ チューチュー。」
「キク キク チューチュー。」
「キイタラ ワクワク。」
「キイタラ ワクワク?」
ネズミ達が話を始めました。
「ねぇねぇ、あそこのパン屋さー、この頃美味しくなくなっちゃたね。」
「そうそう、僕もそう思っていたんだ。」
「それがさ、解っちゃったんだよ。」
「え? 何、なに? 美味しくない理由が?」
「うん、そう、実はバターの量が減っているんだって。」
「バター? そうか、それで香ばしさが無くなっちゃったんだ。でも、よく解ったね。微妙に味が変わったなってくらいだよ。」
「そうそう、ほんの少しだから判らなかったんだよ。だから、何となく美味しくないねって感じで。」
「そうでしょ。だから、どうやって解ったのさ。」
「それがね、『キキ』って居るじゃない。」
「あ~、いつもパン屋の屋根裏にいる痩せている子?」
「そうそう、そのキキ。」
「パン屋の屋根裏に居るのにどうして痩せてるんだろうって皆で笑ってたよね。」
「そう、そのキキ。アイツ、大食いなのに太らない体質なんだって。ヒヒヒ。」
「残念だね、太れないなんて。ぷっくりしている方が可愛いのにね。ヒヒヒ。」
「そのキキがさ、この頃パン屋から出るゴミにパンの耳が少なくなったって嘆いてたのよ。それでね、意を決して厨房に入ったらしいんだ。」
「お~~、それは大胆だね。すごい勇気だね。」
「そうだろ、それでさ、翌日から「私、太っちゃった。」って皆に言っているらしいんだ。」
「え? この前俺も会ったけど、全然変わっていなかったぜ。」
「そうだろ、他の皆もそう思ったんだ。それでもキキは確かに太ったって言うから、他のヤツと言い争いになっちゃって、それだったら確かめようぜって事になったらしいんだ。」
「ふむふむ、だけどさ、確かめるって?」
「キキはさ、ちゃんと確かめられるって言って、ソイツを厨房に誘ったんだ。」
「ふんふん、それで?」
「そこでさ、キキが秤に乗って連れて行ったヤツに言ったんだ。「ほら、重くなったでしょ」って。」
「本当に太ってたの?」
「前よりも重くなっていたんだって。そこで、ついて行ったヤツもはかりに乗ると、ソイツも重くなってたんだってさ。」
「どうゆう事?」
「つまり、秤が壊れてて、本当は軽いのに重く見せているらしんだ。」
「じゃあ、本当はキキはやせっぽっちのままだったって事?」
「そうそう、だからさ、そのはかりにバターを乗せたら本当は少ないのに、いつもと同じ重さだって信じちゃうんだろうね。」
「へぇ~、それでバターの量が減っちゃったって解ったんだ。」
「そうなんだよ。早くパン屋さん気付いてくれないかな~。いつもの美味しいパンが食べたいのにな~。」
「そうだね、それか、誰かがパン屋さんに言ってくれないかな。」
「そうそう、いつもよりバターが少なくなっちゃったから香ばしさが足りなくなっちゃったてね。」
「うんうん、また、あの美味しいパンが食べたいな~。」
シャルマントは布団の中でネズミ達の話を聞いて、
(美味しいパン屋さんって、きっとアインズ・パン屋さんの事よね。私がネズミさん達の代わりに教えて上げようかしら。)
と思ってみましたが、
(こんな子供の言う事を聞いてくれるかしら・・・。)
(それに、どうしてバターの量が少ないって解ったかって聞かれたら・・・。)
などと考えている内に眠くなってしまい、リボンを強く結び直して再び眠りにつきました。
次の日、シャルマントは意を決してアインズ・パン屋へと行くことにしました。
しっかりとリボンを結んで、しっかりと赤いずきんを被り、誰からも変なカチューシャを着けている事が分らないように、何度も何度も鏡を見ては向きを変え赤いずきんの中が見えないようにして出掛けたのです。
アインズ・パン屋の所まで来ると、シャルマントはどうやって言い出せばいいのかを悩み、お店の前を行ったり来たりしていました。
するとパン屋のご主人が店から出てきてシャルマントに声を掛けたのです。
「お嬢ちゃん、店に入らないのかい?」
シャルマントはどうしたものかと、うなってしまいます。
「う~ん、 う~~~ん。」
それを聞いたパン屋の主人は、
「どうしたのかい? 買うのを迷っているのかい?」
それ聞いて、シャルマントは再びうなってしまいます。
「う~~ん、 う~~~~~~ん。」
パン屋の主人がため息交じりに言いました。
「そんなに悩むのか・・。そうだろうね、この頃うちのパンの味が落ちたって言う人が多くなったからね・・・。」
その言葉で、シャルマントは話し始めます。
「その事なんですけど・・・。あの~・・、お話ししたい事があって・・・。」
「ん? 何だい?」
「その~~、パンの味ですけど・・・、この頃香ばしさが無くなったというか・・。」
「それなんだよ。以前と同じ材料で、同じ分量で、同じ焼き方で作っているんだが、皆が香ばしさが無くなったって言うんだ。私も手間など省いてなく以前のままの作り方でやっているのだがね。」
「それですけど・・・。バターの量がですね、少なくなって・・・。」
「いやいや、バターもしっかりと重さを計って、以前と同じ量で作っているからね。少ないはずは無いんだが・・・。」
「ええ、その~~、秤が壊れているというか・・。狂っているというか・・・。」
「秤が壊れている?」
「ええ、秤が壊れていて、同じ重さだと思っているのが本当は少なくて・・・。」
「本当かね・・。いや、秤が壊れているなんて、なんでお嬢ちゃんが分かるんだ?」
「いえ、その~~、ちょっと小耳にしたというか・・・。」
「・・・・。」
パン屋の主人はいぶかし気にシャルマントを見ます。それでも、
「確かに、香ばしさが無くなったって言うんだから、バターの量が減っているかもしれないし・・・、だが、同じ重さで作っているからな・・・・。」
「あの~、別の秤は無いんですか?」
「うん、他のお店の秤で確かめてみよう。」
パン屋の主人はそう言うと店に入り、小さな袋を持って来ました。それを持って近くの野菜を売っているお店へと行きます。こっそりとシャルマントもその後をついて行きました。
隣のお店の秤にパン屋の主人が持って来た小さな袋を乗せると、
「おやおや、うちの店の秤より軽いぞ。 う~~ん、これは・・・。」
と、しばらく考えた後、シャルマントの所へとやって来て、
「ありがとう、お嬢ちゃん。確かにうちの店の秤は壊れているみたいだ。直せば今まで通りの香ばしいパンが焼けそうだ。ありがとう、 本当に、ありがとう。」
と少し涙ぐみながら大げさなジェスチャーで大きく手を広げ、そのまま、シャルマントを強く抱きしめました。
抱き着かれたシャルマントは、何とか逃げ出そうと藻掻きながら身体をクネクネしているその時、頭の中にある音が響きました。
ピコッ!
(え? なに?)




