3 やめて、何するの? ~レディのおシャレは自分で決めるの~
やっぱり童話には魔女が登場しないとね・・
モッタイナイからもう一人・・
人も魔女も外見だけで判断していけませんよ
むかし、むかし、ある森の中をシャルマントと言う赤いずきんを羽織った女の子が逃げていました。彼女は今、怖い形相をして、物凄い勢いで追いかけてくる魔女のようなおばあさんから逃げているのです。
「こぉら、待てーーーー!」
「待たんかーーーー!」
「待てと言っとるじゃろーーーー! この・・・・」
しばらく走っているとオリビアの声がどんどんと遠ざかって聞こえるようになり、シャルマントは走りながらも恐る恐る振り返って、そこにオリビアの姿が無くなった事にホッとして走るのを止め、歩き始めました。
ハァ ハァ ハァと息を切らしながら思います。
(待てと言われても、待つわけ無いじゃない。)
(最後の、「この・・」は何だったのかしら?)
(まあいいわ、逃げ切れたんだもの。)
(でも・・、またどこかの木の間から出てこないと良いのだけれど・・・。)
(ああそうだ、帰りもあるのよね。居なくなってくれればいいけれど、待ち伏せ?)
シャルマントは色々と考えながらも、再び追いかけて来ないかと思い、その歩みを止めませんでしたが、それでも疲れて立ち止まりまってしまいました。
ハァ ハァ ハァ
息を切らし、恐る恐る振り返ると、やっぱりオリビアは見えなくなって安心しながらも、またどこかの木の影から魔女のようなおばあさんが這い出しては来ないかとビクビクしながら周囲を見回しています。
(今まで何度もこの森に来ているけれど、魔女に会ったのは初めてね・・・。
帰る時には居ないと良いけれど・・・。)
同じ事を何度も考えながら、息が落ち着いたので、シャルマントはお婆様の家に続く道を周りに注意を払いながら再びゆっくりと歩きはじめました。
どれくらい歩いたのでしょうか。しばらく歩いたところは森の木々が開け、そこだけ日の光が差し込んで小さな花畑が広がっています。
(やっとお婆様の家まで半分来たわね。)
そうシャルマントが思っていると、その小さな花畑のそばに、またもや老婆がしゃがみ込んでいるではありませんか。
ヒェェェェ~~~
シャルマントは再び怯え、思わず大声を出しそうになってしまいました。
(イケナイ、イケナイ。大声を出して気付かれでもしたら・・・。でも、う~~ん、ここを通らないとお婆様のお家に行けないのよね~~。)
そんな事を考えて、怖いのをじっと我慢しその老婆をじっくりと観察します。
今度の老婆は身なりもきれいで、ふっくらとした体形でした。
その姿を見たシャルマントは、その優しそうな雰囲気に気軽に話し掛けてみました。
「どうしたのおばあちゃん。お腹が痛いの?」
すると老婆は微笑みながら振り返り、
「おや、お嬢ちゃん。私は平気よ。この花がとても綺麗だったので、近くで見ていたのよ。」
「このお花が珍しいの?」
「そうね、私の家の周りには咲いていないわ。」
「ふ~ん、そうなんだ。遠くから来たの?」
「ええ、そうね。ヴァルプルギスの帰りでね。ちょっと立ち寄ったのよ。」
「『ヴァルプルギス』?」
「お嬢ちゃんは知らないのね。『ヴァルプルギス』って言うのは世界中の魔女が集まる・・、お祭りみたいなものね。」
「って、お婆様は魔女なのっ。」
「ほほほほ、そうよ、ホウキでお空を飛んでここまで来たの。」
「へぇ~~~。すご~い。魔女って本当にいたんだ。」
シャルマントは感心しながら、先程出会った老婆を思い浮かべ、
(やっぱりアイツも魔女だったのよね。きっと悪い魔女だったのよ。逃げられて良かった~。)
そう思っています。そして、
「魔女様、この森には怖いオオカミがいるから気を付けてね。座ってたりしてたら襲われちゃうわよ。」
そうシャルマントが注意すると、
「ありがとうね、優しいお嬢ちゃん。」
「私はシャルマントって言います。」
「そう、シャルマントちゃん。 ところでシャルマントちゃんはこんなオオカミの居る森の中をどこに行こうとしているの?」
「わたしのおばあちゃんがこの森に住んでいるのよ。これから会いに行くところなの。」
「へえ~~、やさしいのね。ところで、シャルマントちゃんにはお耳が4つ有るのかしら?」
シャルマントは、
(あ~~、コレね。)
と思いながら、跳ね上がった髪の毛を手でおさえるようにして、
「コレ、髪の毛がはねてるの。皆にもそう言われるから嫌になっちゃうわ。」
そう答えると、魔女は着ているマントの中からあるモノを出しながら言いました。
「優しいシャルマントちゃんにはコレをあげましょう。」
魔女が手にしていたのは“カチューシャ”でした。それをシャルマントに見せながら魔女が言います。
「これはヴァルプルギスの出店で買ったモノなのよ。あまりに可愛かったから、つい買ってしまったけれど、私が被るのも変でしょ。誰かもらってくれないかな~って思っていたのよ。シャルマントちゃん、もらってくれる?」
「いいのですか? そのー、ヴァルプルギス?・・の出店で買った貴重なモノを・・。」
「いいのよ、さっきも言った様に、可愛らしくてつい買っちゃった物だから。」
魔女のおばあさんはシャルマントの目の前にカチューシャを差し出しました。
「あ、ゴミ付いてますよ。」
シャルマントはカチューシャに付いている灰色がかった2つの小さな塊を指差して言います。
「これはゴミ等ではないのよ。ほら、よ~く見てっ、小さくて可愛いミミよ。」
「ミミ? な~んかゴミみたい。」
「ネズミのミミのようじゃない。」
「グうぇっ、ネズミですか? ネズミのミミって・・・、ミミだけ付いていて可愛いですか?」
「ほれ、良く見てみなさい。可愛いでしょうが。」
「いいえ、私には可愛らしく見えませんが。」
「何言うとるんじゃ。ワルプルギスで売っとった物じゃぞ。可愛いに決まっとる。」
「いえ、こんな大切なモノ、もらえません。 それに、本当に、あまり可愛くないから。」
シャルマントはそれを断りました。すると、優しそうだった魔女は、
「さあ、被れば可愛いくなる。お前さんにぜ~~~ったい似合うから。」
と言いながら更にシャルマント近づいて来て被せようとします。
「え~、その~、カチューシャにゴミみたいなミミが付いているからいやです。それに、それ被ったら本当に耳が四っつになっちゃうから、きっと皆にバカにされちゃうでしょ。」
カチューシャに付いている小さなミミを指差して言います。それを魔女は指先でサワサワとなすりながらシャルマントに見せて言いました。
「コレ? 可愛い耳じゃない。ほら、可愛いでしょ。」
魔女はカチューシャを再びシャルマントに差し出しながら、その隙をみて被せようとします。それをシャルマントは素早く避けます。
「お前さんの様なかわいい子に付けて欲しいのさ。こんなおばあちゃんじゃ似合わないでしょ。」
と、もう一度被せようとします。それをシャルマントが素早く避けると、二人の攻防が始まりました。カチューシャを被せようとする魔女、それを避けながらもその場から逃げれば失礼だとして首だけを振って避けるシャルマント。
「私はもうちょっと大きくて、フサフサな柔らかい毛のある耳があるほうがいいわ。それ、ゴミが付いているようにしか見えないし。」
「そんな事無いわよ。あなたにはこれぐらい小さいのがお似合いよ。」
「いえいえ私は結構ですから、魔女様の家の子に上げてください。」
「こんな私に家族なんて居ないわよ。」魔女は小声で吐き捨てました。
「困ったわねー、私は天涯孤独。たった一人で暮らしているの、貴方みたいにかわいい子供は近所には居ないのよ。だからお願い、コレ、もらって。」
「いえいえ、だったらこの後出会う子に上げてください。私は結構ですから。」
「あなた、そのはね毛が気になるんでしょ。だったらコレを付ければいいじゃない。」
「いえ、いえ、いえ、いえ。こんなはね毛に貴重な、ヴァルプルギスなんて言う特別な日のおみやげなんてもらえません。」
だんだんとシャルマントは怖くなって、何とかしてカチューシャを貰わないように、そしてこの場から逃げようと思っています。
「何だいこの子は。素直じゃないね。」またもや魔女は小声で吐き捨てます。
カチューシャを手にした魔女がシャルマントにもっと近づこうとしたその時、魔女のつま先が小石に当り、ヨロっとよろめいてしまいました。
シャルマントは反射的におばあさんを支えようと手を伸ばし、近づいてしまいした。
その瞬間、魔女はおばあさんとは思えない程の速さでシャルマントにカチューシャを被せようとします。シャルマントも子供とは思えない程の速さで首を振り、カチューシャをよけます。魔女はすかさず、シャルマントがよけた所に向かってカチューシャを振り下ろします。再びシャルマントは恐ろしいほどの速さで首を逆の方向に振ってそれをよけました。そんな事を幾度か繰り返すと、魔女は諦めたのか、ふっとため息を吐くように体を元に戻したのです。
この時とばかりにシャルマントは逃げ出しました。
「カチン コチン カタマレ コンクリート!」
声がした、その瞬間、シャルマントの身体は固まり、逃げられなくなってしまいました。いつの間にか、魔女は小さな魔法の杖を持ち、シャルマントに向けて呪文を唱えていたのです。
「手間をかけさせおって、まったく近頃の子供はすなおじゃないんだから。」
逃げようとして動けなくなったシャルマントの後ろから魔女の声が聞こえます。
すると、魔女はわざわざシャルマントの正面にやって来て、ゆっくりと、その時間を味わうようにシャルマントに例のカチューシャを被せてきます。
魔女は一度カチューシャを乗せると、それがシャルマントの頭にしっかりと被さる様に、何度も押さえ付け、とろける様な笑顔を見せました。
「ふふふふ、似合うじゃない。」
そう魔女は微笑みながら言い、再び魔法の杖を向けて呪文を唱えます。
「はい、ドロン。」
その瞬間でした。シャルマントの身体に自由が戻ったのです。
でも・・・・
「ああああ~~~、いや~~~、きゃぁぁぁ~~~~!」
突然シャルマントは大声を上げ、耳を塞いでうずくまります。
「いや~~~~、やめて~~~~~、えっ、なに、何なの~~~!」
それでもシャルマントの叫びは止みません。
苦しんでいるシャルマントを見下ろすように立つ優しそうな魔女は、さらにとろける様な笑みを浮かべています。
そして、こう言いました。
「さっさと被ればよかったのさ。」
ついにシャルマントに試練が訪れてしまいました
試練を克服し、呪いを解いてハッピーエンドを迎えられるのでしょうか
いくつかの童話には残酷な終わり方もありますから・・・




