2 木の影から魔女? ~レディは絶体絶命~
森の中に少女が一人。
童話の世界って、どれも危険がいっぱいですよね。
さてさて、赤いずきんのシャルマントは、果たして森の中でどんな危険な目に遭うのでしょうか。
むかし、むかし、ある森にシャルマントと言う赤いずきんを被った女の子がやって来ました。
「やっと着いたわ。家よりも森の方がきっと安全ね。」
シャルマントは自分の家の方を振返り、あの母親の謎の微笑みを思い出し、ブルブルっと少しだけ身震いしました。
(森の中ならこの耳の様なハネ毛も誰にも見られないわよね。)
そう思ったシャルマントは森に入ると直ぐに赤いずきんを肩に掛けたまま、頭をおおっていた布を背中の方へと落としました。
(やっぱり暑かったわ、これでスッキリ。)
そう思いながら森を通り抜ける気持ちのいい風を感じるために頭を振ると、ずきんで押しつぶされた髪の毛がほぐれ、押さえ付けられていた耳のようなはね毛が“ピコっ”っと立ち上がりました。
その時です。
一本の大きな木の影から老婆が現れたのです。
見るからに怪しく、みすぼらしく、少し怖い感じのその老婆は、シャルマントが絵本で見たような『悪い魔女』そのものの姿でした。
黒っぽいローブをまとった身体は痩せ細り、曲がった背を杖で支え、ワシのくちばしに似た「わし鼻」には大きなデキモノがあり、右目よりも幾分か大きい左目は鋭い眼光を放ち、以前は金色の髪だったことを思わせるそれは白髪になり、切ったのはどれ程前のことなのか、その長い髪はお腹に届くほど伸びていた。身体を支えているその杖は古木の枝か根か分からないほどにまっ黒でクネクネと曲がっていた。
(ヒヤッ! あ、これ終わったわ・・。)
そう思ったシャルマントは気を失ったかのように白目をむいて立ちすくんでいます。
「これこれ、お嬢さん。」
老婆が声をかけました。
思った通りのやや高音のしわがれた声です。
「・・・・・」
シャルマントは呆然と立ちすくんでいるだけで返事もしません。
「これこれ、お嬢さんや。」
再び老婆が話し掛けます。
やっと正気を取り戻したシャルマントがあわてて答えます。
「・・あ、はい。スミマセン、スミマセン・・・、どうかお助け下さいヴォルデモート様。」
老婆は不機嫌そうに答えます。
「はっ? ヴォルデモート? わたしの名はそんなおどろおどろしい名前じゃないわっ。」
シャルマントは幾度も頭を下げて謝りながら言います。
「スミマセン スミマセン 名前を間違っちゃって、許してください バートリ様っ。」
「誰が、吸血の魔女じゃ。血なんか吸うても美味しく無いわっ。わたしの名は『オリビア』じゃ。」
「ぷぷっ! ま~た魔女様ったら、私を笑わそうとして、まぁた、そんなご冗談を・・」
そして心の中で思います。
(オリビアだって? そんなに可愛らしい名前の訳ないじゃない。)
するとシャルマントは急に何かに気付き、再び引き攣った表情を浮かべました。
(はっっ! もしかしたら私を笑わせて、緊張を解き、硬くなった体がほぐれて柔らかくなったお肉を狙って食べるつもりなのねっ。・・・・・やっぱり、何とかして逃げなきゃ。)
シャルマントが硬直している事など気にもしていないように魔女っぽい老婆が言います。
「ほれ、わしの名は言ったぞ、お主も名をなのれ。」
そしてシャルマントは再び思います。
(分かったわ、私が名前を言ったら、その名に呪いをかけるのね。いつも読んでいる本にも書いて有ったから・・。そうよ、本当の名前を言ったらダメ。)
「私は・・・『デアーグ』・・・です。」
(アイツに呪いがかかるのならいいか・・・。)
「デアーグ? やけに男の子っぽい名前じゃな。 本当にお主の名か?」
「は、はい。 私の名前は『デアーグ』です。何と言われても『デアーグ』なんです。」
「そうか・・・。」
魔女っぽい老婆のオリビアはシャルマントに疑いの鋭い視線をむけながらつぶやいた。そして、
「ところで、こんな森の中に何の用じゃ。」
そう、シャルマントに問い掛けた。
「は はい、この森の中にお婆様が住んでいて会いに行くところです。」
すると怖そうな魔女はシャルマントが持っているカゴを覗き込むように聞きました。
「それはおみやげか?」
「はい、そ そうです。」
シャルマントは震える手を我慢しながら持っていたカゴの中をオリビアに見せながら答え、
(そうだ、コイツにお菓子でもやって、食べているうちに・・)
「オリビアさま、お菓子があるので、お一ついかがですか?」
「おぉ、お菓子と・・・小腹が空いておったのじゃ、ぜひに。」
そうして、シャルマントはカゴからお菓子を一つ取り出してオリビアに恐る恐る手渡しました。それをオリビアは老婆とは思えない程の速さで奪い取ります。
モグモグ・・・
オリビアはそれを美味しそうに食べはじめました。
その時、
「エイっ。」
シャルマントは森の奥に向かって駆け出します。
(早く逃げなきゃ。出来るだけ遠くに行かなきゃ。木に隠れて怖い魔女から逃げなきゃ。)
心の中で叫びながらシャルマントは走っています。すると、後ろの遠くの方からオリビアの声が聞こえました。
そうです、オリビアもシャルマントが駆け出したのをみてすぐに走り始めたのでした。
「こぉら、待て~~・・!」
シャルマントの後ろからオリビアの声が響いて来ます。
(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ・・・・・)
シャルマントは必死になって、今までに無い速さで走っています。
ハァ ハァ ハァ
息を切らしながらも、恐る恐る振り返ると、オリビアが物凄い形相で駆け寄って来るではありませんか。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
思わず叫んでしましました。
「こぉら、待たんかーーーー!」
オリビアは叫びながら迫って来ます。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
シャルマントも叫び声を上げながら逃げています。
「こぉら、待てーーーー!」
「待たんかーーーー!」
「待てと言っとるじゃろーーーー! この・・・・」
童話の定番、『魔女』の登場です。
本家の「赤ずきん」には登場しませんでしたが、童話に魔女を登場させないなんてモッタイナイ。




