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第十二章(2):畏怖と憧憬、魔王になった一番星


ガイア様の、世界の根源を揺るがすような神聖な光が、私たちに容赦なく降り注ぐ。


アルドロンさんの絶対障壁は砕け散り、ローゼリアちゃんの光の祈りは掻き消された。


私の聖剣技も、カスパール君の渾身の魔法も、神の力の前には無力だった。


どうあがいても、勝てない。


絶望が、私たちを覆い尽くす。


世界の終わりが、すぐそこに迫っていた。



そして、ガイア様の神光が、ローゼリアちゃん、そして彼女を護ろうと自己犠牲を試みたカスパール君を飲み込もうとした、まさにその直前。





開かれた異界の扉が、咆哮を上げた。




魂に響くような、世界の根源が揺れる音。



異界の扉は、ガイア様の神光を嘲笑うかのように、さらに大きく、驚くほど安定して広がっていく。


カスパール君の自己犠牲、私たちの宝珠の力が、異界の扉を完全にこじ開けたのだ!


神の力に抗った、私たち五光の勇者の命の輝き……それが、異界への道を拓いた!





そして、そこから、想像を絶する圧倒的な魔力の奔流が、逆巻く嵐となって吹き出した!


世界の理が悲鳴を上げ、空間が歪むほどの途方もない力!


それは、神聖なガイア様の光とは全く異なる、深淵の闇!


おぞましく、しかし抗いがたい、魅惑的なオーラを放つ絶対的な力だった!


その力の中心で、何かが形を成そうとしている……!


私たちの絶望を、カスパール君の犠牲を、ガイア様の神光さえも、全てかき消すように現れた、未知の、そして何よりも強大な存在。


その存在から放たれる気配は、かつてルシアン様がヴェクスを異界へ送った時の魔力に似ている……!


いや、あの時よりも遥かに強大だ!



そして、どこか懐かしい、私の「推し」の気配がする……!



まさか……!?



魔力の嵐の中心で、ゆっくりと、その姿が形を成していく。


銀白色に輝く、長く伸びた髪が、深淵の闇の魔力の中で揺れる。


漆黒の、世界の闇を纏ったかのような、優雅で威圧的な衣。


そして、頭の両脇からはピカピカな黒曜石のような角が一本ずつ伸びている。


精悍で、以前よりもさらに大人びた、美しく、見間違えるはずもない、あの、ルシアン様の顔立ち……!


彼の瞳に宿る、透き通るような、だけど異界の深淵を映すかのように冷たい、蒼い光……!





ルシアン様だ……!



ルシアン様が……!



異界から……!



その衝撃と、ルシアン様との再会への歓喜で、私の心臓は爆発しそう!



三千年の時を超えて、探し求めて、諦めずに願って、宝珠に導かれて、やっと……!



やっと、ルシアン様と再会できたんだ……!



会いたかった……!



ルシアン様!



でも、同時に、彼の纏う圧倒的な魔力、深淵の闇のオーラに、私の体は本能的な畏怖を感じていた。


ゾクリと肌が粟立つような感覚。


この力……

かつてヴェクスが放っていた邪悪さとは違うけれど、それは確かに、人間の理解を超えた、「魔」の気配。


そして、私の目の前にいるのは……かつての魔法使いの王、ルシアン様であると同時に……



「魔王……ルシアン……!?」



アルドロンさんが、絞り出すような、現実を受け入れられない震える声で呟いた。



魔王……



そう、彼から放たれる圧倒的なオーラは、かつて伝説で語られた魔王のそれだ。


ルシアン様が……魔王になった……?



混乱。


困惑。


悲しみ。


そして、本能的な畏怖。


私の心の中は、途方もない喜びと、これらの感情がぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。



ルシアン様!


私の推し!


やっと会えた!


会いたかった!


生きていたんだ!


でも……


どうして……


どうして魔王に……?


異界で、一体何があったの……?



それでも、魔王としての圧倒的な存在感を纏い、創造神ガイア様と対峙するルシアン様の姿は……



(…………っ!! カッコいい……っ!!!!!)



畏怖と困惑の中でも、私の「推し愛」は決して揺るがない。


むしろ、世界の脅威である魔王となった彼でも、こんなにも圧倒的に美しく、力強く、


そして……


どこか孤独で、悲しいオーラを纏っている姿に、私の胸は締め付けられ、そして、彼の全てを肯定したいという思いが溢れてくる。



ヤバい……


新しいルシアン様の魅力が、情報量が、多すぎる……!


脳内語彙力が完全にキャパオーバーだ……!



魔王ルシアン様……


新しい推し……


いや、かつての推しが、最強の姿になって帰ってきたんだ……!



尊い……



無理みが深い……!



(ルシアン様……魔王になっちゃったんだ……異界で、すごく苦労したのかな……でも……でも、ルシアン様は、ルシアン様だ! どんな姿になっても、私の、私のルシアン様だ!)



畏怖は確かにある。


でも、それよりも、三千年の時を超えて再会できた喜び、そして、魔王となっても、こんなにも圧倒的に「尊い」私の推しへの愛が、私の心を占めていた。



魔王ルシアン様……



この姿、脳内に焼き付けて、後で推しノートに詳細に記録しなきゃ……!



傍らでは、アルドロンさんが、魔王となったルシアン様と、天空に君臨する創造神ガイア様を、驚きと、そして賢者としての探求心に満ちた瞳で見つめていた。



「ルシアン……一体、異界で何が……その力は……」


彼は、ルシアン様が纏う規格外の魔力と、その存在そのものに、深い関心を抱いているようだった。


ルシアン様は、アルドロンさんにとっても、常に理解を超えた存在だった。



ローゼリアちゃんは、ルシアン様が現れたことに安堵しつつも、彼の魔王としての姿と、彼の纏う魔力に、戸惑いを隠せない様子。


桃色の宝珠のペンダントを、不安げに握りしめている。


「ルシアン様……無事だったのね……でも、その力は……大丈夫なの……?」


彼女の優しい心は、ルシアン様の力に宿る、少しだけおぞましい異界の気配を感じ取っているのだろう。


心配性のローゼリアちゃん、可愛い……。



そして、カスパール君。


ローゼリアちゃんを護ろうと自己犠牲を試み、消滅しかけていた彼の体から、ガイア様の神光が退いていく。


彼は、目の前に現れた存在がルシアン様であること、そしてその圧倒的な魔力に、目を見開いた。


自己犠牲の痛みと、ルシアン様への執着が混ざり合った、複雑な表情だ。



「ルシアン様……あんた……! なんで……! なんでそんな力に……!」


彼の紫色の宝珠のピアスが、ルシアン様の魔力に呼応するように、微かに震えている。


ルシアン様が、彼の目標であり、追いかけ続けた存在。


そのルシアン様が、自分の予想を遥かに超えた、魔王という姿で、圧倒的な力と共に現れた。


驚き、安堵、嫉妬、そして、彼に追いつかなければ、という執着心が、カスパール君の心の中で渦巻いている。



私たち三人は、ガイア様の神光と、ルシアン様の深淵の闇の魔力が対峙する、その間に立ち尽くすしかなかった。


世界の根源を揺るがすような二つの力のぶつかり合い。


その圧倒的な規模は、宝珠の力を覚醒させ、かつての力を取り戻した私たちでさえ、再び自分たちの無力さを痛感させられるものだった。


私たちの力が、どれだけ強くなっても、神や魔王といった存在の前には、まだまだ遠く及ばない……!



ガイア様は、ルシアン様を冷たい瞳で見下ろしている。



「ルシアン……世界のバグよ……なぜ、まだ存在している? そして、その力……不快な歪みだ……私の完璧な秩序を乱す……」



彼女の声は、世界の全てを否定するかのような冷たさだった。



ルシアン様が魔王となった理由。


異界で、一体何があったのか。


ガイア様がなぜ彼を「バグ」と呼ぶのか。私たちにはまだ何も分からない。



ただ、ルシアン様が、異界で想像もつかない苦労をして、この力を手に入れたのだという予感だけが、胸を締め付ける。



ルシアン様……っ。



私たち、それぞれの宝珠が、まるでルシアン様と私たちとの絆を示すかのように、あるいは彼の魔力に呼応するように、温かい光を放っている。


魔王となっても、ルシアン様は、ルシアン様だ。


私たちの知っている、あの、ルシアン様だ。


そう信じたいという願いを込めて、私は赤い宝珠を握りしめた。


この宝珠は、私たちとルシアン様を繋いでいる……!



魔王ルシアン様と創造神ガイア様。


二つの絶対的な力が、静かに、しかし凄まじい緊張感を放ちながら対峙している。


世界の命運をかけた戦いが、今、始まろうとしている。


私たちは、その戦いを、為す術なく見守るしかない状況で。



ルシアン様……!


今度こそ、あなたの力になりたい……!

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