第十二章(3):神(創造主)と魔王(バグ)の全面戦争開幕!
異界へのゲートの前。
魔王となったルシアン様と、天空に君臨する創造神ガイア様。
二つの絶対的な存在が、互いの力をむき出しにして対峙している。
その間に挟まれた私たちは、世界の蚊帳の外に置かれたような、ちっぽけな存在に感じられた。
規格外の戦いへの畏怖と、途方もない緊張感が、私たちを飲み込む。
「世界のバグよ……今度こそ、貴様の存在を無に還してやる。私の完璧な秩序を乱す不快な歪みよ……」
ガイア様の冷たい声が、世界中に響き渡る。
感情の欠片もない、異物を排除しようとする神の意志。
私たち人間への、世界への、明確な否定の言葉。
ルシアン様は、その言葉に微動だにしなかった。
ただ、蒼い瞳に深く激しい光を宿らせ、天空の神を見据えている。
魔王としての圧倒的なオーラ。
深淵の闇の魔力が、彼を中心に渦を巻く。
その姿が、私の目に焼き付く。
「フン……貴様の、自分だけの世界を愛でる歪んだ思想に、これ以上世界を弄ばせはしない……!」
ルシアン様の声は、魔王の咆哮として世界に響き渡る。
だけど、その声の奥底には、大切なものを護ろうとする人間的な響きが確かに感じられた。
私の、私のルシアン様だ。
魔王になっても、彼の核は変わらない。
彼は、世界を、そして私たちを護るために、神と戦おうとしているんだ……!
そして、戦いが始まった。
ガイア様の神聖な光と、ルシアン様の深淵の闇の魔力が、激突する。
ドォォォォン!!
世界の根源が揺れるような、途方もない衝撃波が発生した!
光と闇がぶつかり合うその一点は、世界の全ての色を飲み込むかのようなおぞましい光景。
大気が悲鳴を上げ、空間が歪み、大地が唸りを上げる。
それは、私たちが想像できる範囲を遥かに超えた、規格外の戦いだった。
神と魔王の、文字通りの全面戦争が、今、開幕したんだ……!
ガイア様の神光が、世界を焼き尽くすかのように降り注ぐ。
大地は干上がり、森は枯れ果て、川は蒸発する。
その光は、あらゆる存在を、存在そのものから否定する力。
完璧な秩序を押し付ける、神の絶対的な力。
対するルシアン様の魔力は、深淵の闇。
あらゆるものを飲み込み、形を変え、未知なる力を生み出す。
空間が捻じ曲がり、異界の理がこの世界に流れ込む。
彼の放つ魔力は、ガイア様の光を打ち消し、世界に歪みを生じさせる。
それは、世界の理から外れた、「バグ」としての力。
だけど、その根源には、大切なものを護りたいという、強い願いが込められているように感じられた。
戦いの余波は、異界へのゲート周辺だけでなく、人間界の遥か彼方まで及んでいるのが分かった。
空は不自然な色に染まり、遠くで地鳴りが響く。
異常気象が発生し、世界中が混乱に陥っているだろう。
神と魔王の戦いは、まさに世界の命運をかけた全面戦争だった。
私たちは、その規格外の戦いを、異界へのゲートの傍らで、為す術なく見守るしかなかった。
アルドロンさんの杖の緑の宝珠、私の聖剣の赤い宝珠、ローゼリアちゃんのペンダントの桃色の宝珠、カスパール君のピアスの紫色の宝珠。
四つの宝珠は、ルシアン様の魔力に呼応するように強く光を放っている。
私たちの宝珠の力も、あの頃より格段に強くなった。
だけど、目の前で繰り広げられている、世界の根源的な力のぶつかり合いには、まったく歯が立たない。
自分たちの無力さを、痛いほど思い知らされる。
戦いの余波が、容赦なく私たちにも襲いかかる。
吹き荒れる魔力の嵐、空間の歪みによる衝撃。
私たちを飲み込もうとするその力から、宝珠が、まるで自らの意志を持っているかのように、私たちを護ろうと強く光を放つ。
ルシアン様が宝珠に込めた「仲間を護る」という願いが、この戦いの最中にも私たちを護ってくれているかのようだ。
ルシアン様……!
あなたが護ってくれてるんだ……!
「なんて力だ……! 我々の宝珠の力を合わせても……この余波を防ぐのがやっと……! まるで……世界の根源が、ぶつかり合っているかのようだ……!」
アルドロンさんが、苦渋の表情で呟く。
賢者として、この力を解析し、理解しようとするけれど、その規模は彼の理解を超えている。
「ルシアン様……!」
ローゼリアちゃんが、ルシアン様を見上げて、不安げな声で彼の名前を呼ぶ。
彼女の桃色の宝珠が、彼女の心配と、ルシアン様への思いに応えるように優しく輝いている。
ローゼリアちゃんも、ルシアン様を心配してるんだ……。
カスパール君は、耳元の紫色の宝珠に触れながら、その目に、畏怖と、そして探求心と、ルシアン様への複雑な思いを宿らせている。
「ルシアン様……あの力……! 異界で一体何があったんだ……! あのルシアン様が……魔王……!」
彼の規格外の魔法をもってしても、この戦いには介入できない。
ルシアン様が到達した領域への、果てしない距離を痛感しているのだろう。
ルシアン様への憧れと、追いつけない現実への葛藤……
カスパール君……。
そして、私は……
聖剣と赤い宝珠を握りしめ、ルシアン様を見つめていた。
魔王としての圧倒的な力!
彼の纏う深淵の闇のオーラ!
ガイア様の神光を打ち消し、空間を歪ませる、規格外の魔法!
全てが、私の目に焼き付く!
(ルシアン様……っ! 魔王になったルシアン様が……神と戦ってる……! この戦う姿……ヤバい……ヤバすぎる……!)
畏怖は確かにある。
目の前で繰り広げられている、世界の終わりに繋がりかねない規格外の戦いは、確かに怖い。
自分たちの無力さも、痛いほど感じている。
でも、それよりも……!
ルシアン様が、この絶望的な状況で、一人、神と対峙して、戦っている!
大切なものを護るために!
その彼の戦う姿が……
あまりにも……あまりにもかっこよすぎて……!
尊すぎて……!
私の心臓は、畏怖や無力感を通り越して、ルシアン様への「推し愛」で、今、完全に爆発寸前!
(魔王……ルシアン様……! 長い銀髪が、魔力の中で揺れてる……! 漆黒の衣が、風になびいて……! たまに口元から覗く牙……!蒼い瞳の光……! 魔法を放つ指先……! 全てが……全てが美しくて、力強い……! こんなの……こんなの、最高の供給すぎる……!)
脳内語彙力が完全に崩壊している。
語彙がない。
ただ「尊い」と「かっこいい」と「ヤバい」が無限にループしているだけ。
怖い……
確かに怖いけど……
それ以上に、私の最推しが、世界の命運をかけて戦っているこの姿を、この目に焼き付けずにはいられない!
この瞬間を、脳内メモリーに、そして後で推しノートに、詳細に、詳細に記録しなきゃ……!
(ルシアン様……! 魔王になっても、私の知っているルシアン様だ! 世界を護ろうとした、あのルシアン様だ! 彼は、神ガイア様と戦っている。世界の「秩序」と、そして……ルシアン様自身が護ろうとする「何か」のために……! 私たちのために……!)
戦いは膠着していた。
両者とも決定的な一撃を与えられず、ただただ互いの力を削り合っている。
世界の根源を揺るがす戦いは続き、その余波はさらに広がる。
いつまで続くのだろうか。
そして、この戦いの果てに、世界は、そしてルシアン様は、どうなるのだろうか。
心配だ……
ルシアン様、無理しないで……!
戦いの中で、ルシアン様が、一瞬だけ、私たちの方を見たように感じた。
彼の蒼い瞳が、私を捉えたような気がした。
その一瞬の視線に、長い異界での孤独と、数千年ぶりの再会への喜び、そして、私たちを危険な目に遭わせていることへの申し訳なさのようなものが込められているように、私には見えた。
ルシアン様……!
大丈夫……!
私たちは、ルシアン様と再会できただけで、もう十分すぎるほど幸せなんだから……!
この戦いは、いつか決着がつく。
そして、その時が、私たちの運命を、世界の未来を決める。
戦いの最中、ルシアン様が、自身の黒い宝珠の指輪に触れたのが見えた。
私たちの手に握られたそれぞれの宝珠が、まるでルシアン様と私たちとの絆を示すかのように、あるいは彼の魔力に呼応するように、温かい光を放っている。
魔王となっても、ルシアン様は、ルシアン様だ。
私たちの知っている、あの、ルシアン様だ。
そう信じたいという願いを込めて、私は赤い宝珠を握りしめた。
この宝珠は、私たちとルシアン様を繋いでいる……!
宝珠の力……
ルシアン様が私たちに託してくれた希望……!
魔王ルシアン様と創造神ガイア様。
二つの絶対的な力が、静かに、しかし凄まじい緊張感を放ちながら対峙している。
世界の命運をかけた戦いが、今、まさに最高潮を迎えようとしている。
私たちは、その戦いを、為す術なく見守るしかない状況だった。
ルシアン様……!
今度こそ、あなたの力になりたい……!
(ルシアン様……勝って……! 世界を護って……! そして……無事でいて……! 私の……私の、最強で最高の推し……!)
私は、心の中で、ルシアン様の勝利と、彼の無事を祈り続けた。
この戦いの行方、そしてルシアン様の運命は……まだ、誰にも分からない。




