第十一章(4):犠牲と咆哮、異界からの兆候
世界の守護者として、私たちは抗った!
ルシアン様が命を懸けて護った世界を、そして私たち自身を、今度こそ、今度こそ護り抜くんだ!
「防ぐぞ! 皆、宝珠の力を合わせろ!」
アルドロンさんが叫び、緑の宝珠がセットされた杖を掲げる。
「賢術・絶対障壁!」
宝珠の魔力を全開にして、強固な防御魔法を展開しようとする!
「治癒魔法・光の祈り!」
ローゼリアちゃんが桃色の宝珠のペンダントに力を込め、私たち仲間たちを癒やしの光で包み込み、防御力を高めようとする!
彼女の優しい光が、ガイア様の冷たい光に、必死に立ち向かおうとする!
ローゼリアちゃんの優しさが、神に挑む!
「聖剣技・神光破邪斬!!」
私は聖剣を掲げ、赤い宝珠の力を全身に集中させる!
神聖な光を纏った一撃を放ち、ガイア様の神光を切り裂こうとする!
ルシアン様に、会わせて……っ!
あなたに、会わせて……っ!
私の「推し愛」、神様にも負けない!
「何様のつもりだ、このクソデカい光は! 俺たちの邪魔すんじゃねぇ! ルシアン様に会いにいくんだよ!『禁断魔法・虚無爆炎陣!!』」
カスパール君は悪態をつきながら、紫色の宝珠のピアスに力を込め、破壊と虚無の、自身の全てを賭けたあまりにも規格外の魔法を放つ!
彼の覚醒した紫色の宝珠の力が、暴れるかのように渦を巻く!
ガイア様の神光を飲み込もうと、漆黒の虚無が広がる。
しかし、私たち勇者たちの渾身の技も、宝珠の力を込めた攻撃も、創造神ガイア様のあまりにも圧倒的な、世界の根源力の前には、まるで抵抗になっていなかった。
神の力は、あまりにも、あまりにも絶対的だった。
アルドロンさんの絶対障壁は、紙切れのように容易く破られ。
ローゼリアちゃんの光の祈りは、ガイア様の冷たい神光に掻き消され。
私の神光破邪斬は、ガイア様に届く前に消滅し。
カスパール君の禁断魔法は、ガイア様という存在そのものに弾かれて、消えてしまった。
神の光は、私たちの防御をあっという間に突破し、容赦なく迫る。
体中が灼けつくように熱く、存在そのものがバラバラになって消滅していくかのような感覚。
為す術がない。
どうあがいても、勝てない。
絶望が、私たちの心を、体を、覆い尽くした。
ルシアン様に会う前に、ここで終わってしまうのか……?
その時、カスパール君の肩から、フワワが「ポンッ!」と勢いよく飛び出し、彼の顔の前に現れた。
フワワは、いつもと違う真剣な表情で、カスパール君の紫の宝珠をじっと見つめている。
「フワワ……お前、まさか……」
カスパール君の瞳に、かすかな驚きの色が浮かんだ。
フワワは、まるで返事をするかのように、体を大きく膨らませ、その身からまばゆいピンク色の光を放ち始めた。
その光は、地面に巨大な魔法陣を描き出し、その中心で、フワワはゆっくりと、しかし確かな力を込めて、その姿を変えていく。
ピンク色の光が収束すると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
可愛らしいフワワの面影を残しながらも、神々しい鱗に覆われた巨大な体躯と、威厳に満ちた瞳を持つ、伝説の竜神が姿を現したのだ。
まさか、フワワが……最強の聖獣だったなんて……!
「はざまにいた奴か……! まさか、そこまで力を蓄えていたとは……!」
ガイア様の冷たい瞳に、微かな驚きの色が浮かんだ。
ガイア様は、異界の狭間の存在を把握していたようだが、フワワの秘められた真の力までは見抜いていなかったのだ。
「フン……お前なんかに、俺たちの邪魔はさせねぇ……! 行け! 竜神フワワ!」
カスパール君が、高揚した声で叫んだ。
竜神となったフワワは、天に向かって咆哮を上げた。
その咆哮は、世界の根源を揺るがすほどの、純粋な光のエネルギーを伴ったものだった。
竜神フワワは、その巨大な体を翻し、ガイア様の神光へと真正面から突進していく!
竜神フワワの放つ神聖な光と、ガイア様の圧倒的な神光が激しく衝突し、天地を揺るがすような爆発が起こった!
空間が震え、周囲の全てが光と闇に飲み込まれる。
私たちの目には、もはやその激しい衝突しか映らなかった。
竜神フワワは、ガイア様の神光を真正面から受け止め、押し返していた。
信じられない……!
人間が生み出した存在が、創造神ガイア様の力に拮抗している……!
しかし、竜神フワワも、その巨大な体から光の粒子をこぼし始め、徐々に限界を迎えつつあった。
その時、ローゼリアちゃんが、震える声で祈り始めた。
「お願い……! お願い……! カスパール君を……フワワを……護って……! みんなを……助けて……!」
彼女の桃色の宝珠が、悲痛な祈りに応えるように、これまでで一番強く、優しく輝き始めた。
その光は、竜神フワワの全身を包み込み、その失われかけた力を回復させ、さらに増幅させていく。
ローゼリアちゃんの祈りの力が、竜神フワワに新たな活力を与えた。
竜神フワワの目が、再び強く輝き、全身から漲るような力が感じられる。
竜神フワワは、再び天に向かって咆哮し、その声に応えるかのように、次々と巨大な魔法陣が虚空に現れた!
そこから、先ほどとは比較にならない数の聖獣たちが、一斉に姿を現し、ガイア様の神光へと向かっていく!
「馬鹿な……! この小娘の祈りが、ここまで強大な力を……! そして、あのはざまの存在が、これほどまでに増幅するとは……!」
ガイア様の冷たい瞳に、明確な苛立ちと、焦りの色が浮かんだ。
ローゼリアちゃんの純粋な祈りが、ガイア様の計算を狂わせたのだ。
そして、竜神フワワの力が、予想以上に強大であることに、ガイア様は危機感を覚えた。
ガイア様の神光が、フワワを通り越し、真っ直ぐにローゼリアちゃんへと集中した。
ローゼリアちゃんは、為す術なく、迫りくる神光を前に、ギュッと目を閉じた。
桃色の宝珠が、悲しみに揺れている。
「ローゼリア!!」
その時、カスパール君が叫んだ。
彼の体は、あの広範囲魔法で限界に近い。
魔力もほとんど残っていないはずだ。
でも、ローゼリアちゃんが消滅させられる光景を、見ていることなど、カスパール君にはできなかったんだ。
ルシアン様への執着にも似た熱い思い、そして、この旅を通して深まったローゼリアちゃんへの、仲間としての、あるいはそれ以上の、言葉にならない思いが、彼を突き動かした。
カスパール君は、残った全ての魔力を、紫色の宝珠のピアスに、そしてローゼリアちゃんへの思いに集中させた。
「絶対防御魔法・破滅の盾!」
それは、ルシアン様から学んだ、そして彼自身がさらに探求した、自己犠牲を伴う、禁断の究極防御魔法だった。
自身の存在そのものを魔法の触媒とし、対象を絶対的に護る。
カスパール君の体が、紫色の光に包まれ、盾となってローゼリアちゃんの前に立ちはだかった。
彼の紫色の宝珠が、最後の輝きを放つ。
「カスパール君!ダメ!」
ローゼリアちゃんが叫んだ。瞳から涙が溢れる。
「フン……世話が焼ける……ったく……」
カスパール君は、皮肉げに笑った。
でも、その瞳には、ローゼリアちゃんを護るという、絶対的な意志が宿っている。
彼の自己犠牲の決意が、紫色の宝珠の光となって燃え上がる。
ガイア様の神光と、カスパール君の破滅の盾が、激しく衝突する!
カスパール君の盾は、一瞬、あの神光を弾いた!
信じられない……!
創造神ガイア様の、あまりにも絶対的な力を、人間が放った魔法が、弾いたんだ!
ガイア様の冷たい瞳に、微かな驚きの色が浮かんだ。
しかし、創造神の力は、そんな魔法で完全に止められるものではない。
盾は砕け散り、カスパール君の体は、ガイア様の神光に飲み込まれそうになる。
存在が、ボロボロと崩れて消滅していく感覚。
痛みも、恐怖も、もう感じない。
ただ、ローゼリアちゃんを護れた、という安堵だけが、カスパール君の心を静かに満たす。
「カスパール君!!」
私とアルドロンさんが叫んだ!
カスパール君が……!
私たちを護って……!
勇者たちは、カスパール君の自己犠牲を目の当たりにし、完全に絶望の淵に突き落とされた。
もう、どうすることもできない。
神の力は、あまりにも、あまりにも絶大だ。
為す術がない。
ローゼリアちゃんは、カスパール君を失う恐怖と、彼が自分を護ってくれたという事実に、ただ涙を流した。
「カスパール君……もう……ダメ……ルシアン様……」
誰もが、死を覚悟した、絶望の瞬間。
ルシアン様に会うことも叶わず、仲間も失い、ここで消滅するのか。
その、神光が私たちを、そして消えかけたカスパール君を飲み込もうとした、まさに、その、直前。
開かれた異界の扉が、咆哮を上げた。
それは、物理的な音ではない。
魂に直接響くかのような、世界の根源が揺れる、おぞましい、でもどこか懐かしい音。
異界の扉が、ガイア様の神光を嘲笑うかのように、さらに大きく、そして驚くほど安定して広がっていく。
そして、そこから、想像を絶する圧倒的な魔力の奔流が、逆巻く嵐となって、私たちに向かって、世界に向かって、吹き出した!
それは、神聖なガイア様の光とは全く異なる、深淵の闇!
おぞましく、しかし、抗いがたい、魅惑的なオーラを放つ、絶対的な力だった!
その力の中心で、何かが、形を成そうとしている……!
私たちの絶望を、カスパール君の犠牲を、ガイア様の神光さえも、全てかき消すように現れた、未知の、そして何よりも強大な……存在。
その存在から放たれる気配は、かつてルシアン様がヴェクスを異界へ送った時の、あの魔力に似ている……いや、あの時よりも、遥かに、遥かに強大だ……!
そして、どこか懐かしい、私の「推し」の気配がする……!




