第七章(3):カスパールの沈黙と別離
カスパール君の姿が闇に消えてから数日が経った。
私たちは、彼が残した魔力の痕跡を辿り続けていたが、その道はますます複雑になり、私たちの困惑は深まるばかりだった。
世界中あちこちで派手な破壊行動は更に頻繁に起こっており、さすがの創造神ガイア様も、修復が追い付かず、いらだち始めているという話も耳にした。
私たちの道中も、魔物の残骸は散見されるものの、幸いにして人々の直接的な被害は相変わらずなかった。
彼が意図的に村を襲ったという明確な証拠は掴めず、彼の行動は依然として謎に包まれていた。
夕暮れ時、私たちは深い森の中で、カスパール君の魔力を強く感じ取った。
彼の紫色の宝珠が放つ微かな光が、木々の間から漏れ、私たちを誘う。
しかし、その光は、かつての友を求めるかのように優しくも、同時に、決して近寄らせない分厚い壁を感じさせた。
アルドロンさんが、慎重に言葉を選んで声をかけた。
「カスパール! 無事だったか。我々は君を探していた。君の真意を……」
木陰から現れたカスパール君は、私たちに背を向けたまま、何も言わない。
彼の肩には、相変わらずピンクのウサギが乗っており、その小さな体が、彼に寄り添うように揺れている。
「カスパール君……どうして、私たちと一緒に行動してくれないの……?」
ローゼリアちゃんが、悲しそうに、そして少しだけ懇願するように尋ねた。
彼女の桃色の宝珠が、カスパールの背中に向かって、温かい光を投げかける。
すると、カスパール君がゆっくりと振り返った。彼の紫色の瞳は、冷たく、そしてどこか遠くを見つめているようだった。
「フン……。俺は、あんたらとは目的が違う。馴れ合うつもりはねぇ」
彼の言葉は突き放すように冷たい。
しかし、彼の視線がローゼリアちゃんの顔をかすめた時、その瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、複雑な感情の揺らぎが見えたような気がした。
「でも、ルシアン様は私たちに宝珠を託してくれたんだ。一緒に力を合わせれば、きっと……」
私が説得を試みる。
「余計なお世話だ。俺は俺のやり方でやる。あんたらは、あんたらでさっさと宝珠を覚醒させろ」
彼はそう言い放つと、再び私たちに背を向けた。
その言葉は、彼が私たちとの協力を拒否しているだけでなく、ルシアン様が私たちに託した宝珠の導きとは異なる、彼自身の道を模索していることを示唆していた。
「カスパール! 待て!」
アルドロンさんが、その名を呼んだが、カスパール君は立ち止まらない。
彼は、一瞬で黒い風のように、森の奥深くへと消えていった。
彼の紫の宝珠の光は、あっという間に闇に溶け込んでしまった。
カスパール君が去った後、再び沈黙が私たちを包んだ。
彼の言葉は、私たちの中に残っていた、彼へのわずかな希望を打ち砕くものだった。
「やはり……カスパールは、我々とは道を違えたか……」
アルドロンさんが、悲しげに呟いた。
彼の賢者の杖が、力なく地面に打ち付けられる。
「どうして……カスパール君は、あんなことを言うのかしら……」
ローゼリアちゃんが、目に涙を浮かべ、今にも零れ落ちそうだった。
彼女の桃色の宝珠は、その深い悲しみに呼応するかのように、微かに輝きを失ったように見えた。
(彼には、私たちにはまだ理解できない、もっと大きな目的があるのだろうか?)
「でも……私は、カスパール君を信じるわ」
ローゼリアちゃんが、震える声で言った。
「彼は、きっと、悪い人じゃないわ。私を助けてくれた時のうさちゃんの光も……あの時、カスパール君がくれた安心感も、嘘じゃなかった」
アルドロンさんは、ローゼリアちゃんの言葉に、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、再び確かな決意の光が宿っていた。
「……そうだな。彼の言葉の真意は掴めぬが、彼がルシアンの行方を追っていることだけは確かだ。そして、彼もまた、ルシアンが託した宝珠を持つ者。我々は、我々の信じる道を往くのみだ」
私たちは、カスパール君の真意を完全に理解することはできなかった。
しかし、彼がルシアン様を探しているという共通の目的がある限り、いつか、再び道を交える日が来るだろう。
私たちの旅は、ルシアン様の行方を追うだけでなく、カスパール君という謎多き魔導士の真意を探る、より複雑なものへと変化していた。
彼は、果たして私たちにとって敵なのか、味方なのか。
彼の行動が、この先、私たちに何をもたらすのか。
ルシアン様……あなたは、このことを全て見越していたのですか?




