第七章(4):聖裁騎士団の罠、開幕!
相変わらず、世界中で妙な破壊行為が続いていた。それとは別に、とんでもない「歪み」も起きていた。
私たち勇者トリオ――アルドロンさん、ローゼリアちゃん、そしてセラフィナ(私!)が村に顔を出すたび、なぜかヴェクスの残党がピンポイントで湧いてくるのだ!
村人たちはもう、私たちのことを見るなりビビりまくり。
「あの三人組が来ると、必ず魔物が出る!」という噂は、まるで光の速さで広まっていった。
おかげで、村に着いた途端、みんなが私たちの背格好をジロジロ見回し、物陰に隠れちゃう始末。
いやいや、待ってくれ。私たち、別に疫病神じゃないから!
ある日、いつものようにヴェクスの残党をパパッと退治し、村の広場でホッと一息ついていた。
しかし、村人たちの視線は感謝ではなく、やはり恐怖と疑惑でいっぱいだ。
そんな空気ブレイカーな瞬間、ジャラジャラと聞き慣れない鎧の音が響いてきた。
げっ、現れたのは、よりにもよってガイア様の聖裁騎士団だ!
「貴様ら、三名だな!」
騎士団の長らしき男が、「私は正義です!」と書いてあるような顔のままで、私たちに詰め寄る。
「世界中で起きている破壊行為、そして、貴様らが行く先々で魔物が出現するとの報告を受けている。村人たちの証言もあるが、これはどういうことだ?」
私たちは「いや、私たちだって、魔物が出れば困るんですよ!」と必死に弁解したけれど、彼らは聞く耳持たず。まるで「は? バカ言ってるの?」という顔でこっちを見ている。
「とりあえず、話を聞かせてもらおうか。ついてきてもらおう」
アルドロンさんが「それはできません」と、賢者らしく毅然と断った途端、騎士団の一人が近くにいた子供の腕を乱暴に掴んだ!
「このガキの命がどうなってもいいのか?」
その子は、リル。さっき、ヴェクスの残党に襲われたところを、私たちが助けたばかりの子だ。
「やめろ! その子は関係ないだろ!」
私が叫ぶ間もなく、別の騎士が私の聖剣を、アルドロンさんの杖を奪い取った。
これはマジでヤバい!
「やだよ! 騎士団はいじわるだもん! いつもいばってばっかり!」
リルが涙目で騎士団長に言い放つと、騎士団長はギロッとリルを睨みつけた。
「静かにしろ! このガキ!」
その光景に、さすがの村人たちもざわつき始めた。
「いくらなんでも、子供を人質にとるのはやりすぎだろ!」
「あの人たちは、俺たちを助けてくれたんだぞ!」
と、チラホラ非難の声が聞こえてくる。でも、そんな声も虚しく、私たちは有無を言わさず連行され、要塞の奥深くにある厳重な部屋に監禁されちゃった。
リルは乱暴に解放されたけど、彼は私たちを信じてくれていた。
それどころか、やっぱり「あの騎士団はいじわるだ!」と、ぶつぶつ文句を言っていたらしい。
***
その頃、遠い地にいたカスパールは、宝珠の光がいつもと違い、警告を発しているのに気づいた。
「ったく、馬鹿どもが! 何やってんだか……」
心底呆れたように呟いたが、その顔には焦りが滲んでいた。
宝珠の光が、三人のいる場所をハッキリと教えてくれる。
その光を頼りに、彼はとある要塞にたどり着いた。
「どうやって入るか……」
カスパールは要塞の堅牢な壁を見上げ、頭を抱える。
武力で正面突破はできる。できるけど、それでは事を荒立てすぎる。
何より三人が無事かどうかわからない。
冷静沈着……とは程遠いけど、カスパールなりに考えていた。
その時、要塞の影から、ひょっこり小さな子供が顔を出した。リルだった!
「わあ! ピンクのウサギだあ!」
リルの視線の先には、カスパールの肩に乗った、ピンクのウサギみたいなふわふわの従属魔物。
「うるせぇ! 近寄るな!」
カスパールは思わずぶっきらぼうに言い放つ。
でもリルは怯むことなく、カスパールに駆け寄ってきた。
「このウサギさんみたいなピンクのおねえさんたちが、僕のせいで捕まっちゃったの。お兄さん、助けてあげて!」
リルの言葉に、カスパールは一瞬言葉を失う。
「ピンクのウサギ」がローゼリアのことだと、すぐにピンときたらしい。
「チッ……わかったよ。助けてやるさ。で、どうやって中に入るんだ?」
カスパールが尋ねると、リルは要塞の壁の隅を指さした。
「ここ! こっちに隙間があって、僕なら入れるよ! ここから入って、中の小さな扉の鍵を開けてあげる!」
小さな子供が一人やっと通れるほどの、目立たない隙間。
カスパールはリルの言葉を信じて、彼に内部からの鍵開けを頼んだ。
リルは勇敢にも隙間をくぐり抜け、要塞の中へと消えていった。
しばらくして、カチャリと小さな音がして、隠された扉が開く。
カスパールは「へぇ、やるじゃねぇか」と感心しながら、すぐに中へと潜り込んだ。
宝珠の光は、三人が囚われている部屋を示している。
でも、その光は、もう一箇所、別の場所を指し示していた。物置みたいな部屋だ。
付近には騎士団が巡回していて、近づくのは難しそう。
「へへ、おねえさんたち。武器、取り上げられちゃってるんだよ」
リルの声が、隠れた場所から聞こえてきた。
「あいつら、何やってんだよ!」
カスパールは思わず舌打ちする。
宝珠の光が、三人が囚われた部屋ともう一箇所を指していたのは、このことか。
カスパールはリルに、物置の部屋の様子を詳しく尋ねた。
「あの物置とやらには、他にも入れる場所はないのか? あるいは、何か中に入れるもんとか、隠れる場所とかは?」
リルは首を傾げて答える。
「えっとね、小さな窓があるけど、高いから届かないよ。でもね、騎士さんたちが休憩するとき、いつも裏口からゴミを出すんだ。その時、少しだけ開くんだよ!」
ゴミ出しの裏口。カスパールは、その言葉に小さくニヤリと笑った。
「よし、リル。俺が合図したら、裏口からこれを中に投げ込むんだ」
カスパールは懐から小さな魔力爆弾を取り出し、リルに手渡す。非殺傷だけど、大きな音と共に煙幕を張る特殊な魔道具だ。
リルは目を輝かせて頷いた。
子供が騎士たちに警戒されにくいことを利用する、カスパールらしい陽動だった。
しばらくして、騎士たちが休憩を取り始め、要塞の裏口からゴミを出すために扉をわずかに開けた。
「今だ、リル! あの扉の隙間に投げ込め!」
カスパールの合図に、リルは迷わず魔力爆弾を裏口の隙間から物置の中に投げ込んだ。
ドン!という低い音と共に、物置の中は一瞬で濃い煙に包まれる。
「な、なんだ!?」
「煙だ!」
「目が痛い!何も見えないぞ!」
騎士たちが混乱し、ゴホゴホと咳き込みながら視界の悪さに足元もおぼつかない。
その間に、カスパールは素早く高い窓から、煙が充満する物置の中に飛び込んだ。
視界が悪い中でも、カスパールは宝珠の光を頼りに、セラフィナの聖剣とアルドロンの杖を見つけ出す。
「チッ、こんなものまで取り上げやがって……!」
彼は聖剣と杖を回収し、自身の紫の宝珠に魔力を込めた。
すると、宝珠の光は一気に強まり、セラフィナたちが監禁されている部屋へと、より明確な道筋を示し始めた。
***
「おい、てめぇら! まだ生きてるんだろうな!?」
カスパール君がぶっきらぼうに呼びかけてくる。
「カスパール君!? なんでここに!?」
私たちは、カスパール君が来てくれるなんて思ってもみなかったから、本当にびっくりした。
「うるせぇ! 下がってろ! ここを開けるぞ!」
カスパール君は扉に魔力を集中させ、唸り声を上げながら強引に鍵を破壊した。バリバリッ!という派手な音と共に、扉が破壊された。
「カスパール君! 助けに来てくれたんだね!」
ローゼリアちゃんがパッと笑顔になって駆け寄ろうとする。
でも、カスパール君はそれを遮るように、奪われた武器を私に投げ渡した。
「うるせぇ! お前らが馬鹿なことやってるからだろ! これ、てめぇらのだ!」
聖剣を掴んだ瞬間、体の中に力が満ちるのを感じた。
アルドロンさんも杖を手にし、その表情に自信が戻る。
「カスパール……助けに来てくれたのか。感謝する」
アルドロンさんが静かに言うと、カスパール君はそっけなく顔を背けた。
「別に。お前らが捕まってちゃ、俺が面白くねぇだろうが」
だけど、その横顔には、仲間を助けたことへの、隠しきれない安堵と満足感が浮かんでいた。
武器を取り戻した私たちに、もはや聖裁騎士団は敵じゃない。
「騎士団の動きが鈍ってる。この隙に脱出するぞ!」
アルドロンさんの指示のもと、私たちは協力して要塞を突破し、無事に外へと脱出した。
外には、カスパール君が来るのを待っていたリルが、心配そうに立っていた。
「お兄さん! ピンクのおねえさん! 無事だったんだね!」
リルがパタパタと駆け寄ってくると、ローゼリアちゃんは彼を強く抱きしめた。
「リル! 助けてくれて本当にありがとう!」
カスパール君は、そんなリルの頭をポンと叩き、いつものようにぶっきらぼうに言った。
「おい、リル。お前、勝手に動き回るな。危ないだろ」
リルはへへっと笑う。
そして、カスパール君は私たちに背を向けた。
「じゃあな。こんなとこで手間取ってんじゃねぇぞ」
そう言い残し、彼は煙のようにその場から姿を消した。
アルドロンさんが、微笑みながらリルに尋ねる。
「あの男は、我々を助けにきたのか?」
リルは少し考えて、無邪気に答えた。
「うん! そうだよ! 皆を助けにきたんだよ!長い髪の、かっこいいお兄さん! ピンクのウサギさんが一緒だったんだ!」
カスパール君の不器用な優しさに、私たちは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
彼の破壊行動の真意は、まだ分からない。
でも、彼は、私たちの大切な仲間だってことは、よーく分かったから。




