第七章(2):深まる疑惑の影
カスパール君が姿を消した後、荒廃した村の広場に、私たち三人の間に重い沈黙が流れた。
勝利の安堵は、新たな、そして深い疑惑によってかき消されていた。
私たちの心の中には、カスパール君が私たちを助けてくれたという事実と、彼がヴェクスの残滓を操っているかもしれないという疑惑が、複雑に絡み合っていた。
アルドロンさんは、村のあちこちに残された魔力の痕跡を、賢者の杖で注意深く調べている。彼の額には、深い皺が刻まれていた。
「この魔力反応は……確かに、ヴェクスの残滓のものだ。カスパールのものではない……」
アルドロンさんの声には、苦悩が滲んでいた。
「もし本当に彼が操っていたのなら、なぜ私たちを助けたんですか?」
私が問いかけると、アルドロンさんは顔を上げた。
彼の瞳には、答えの見つからない問いが宿っている。
「それが分からん……。彼が我々を助けたのは事実。しかし、彼が多数引き連れていた魔物がやはり彼の魔力と合致する……」
ローゼリアちゃんは、不安そうに身を震わせた。
「カスパール君は……ずっと一人で、辛い思いをしてきたから……。心が、少し壊れてしまっているのかしら……」
彼女の言葉は、彼の孤独を慮るものだった。
私たちは、カスパール君の真意が掴めずにいた。
彼は、私たちを助けたのか、それとも、私たちを試していたのか。
あるいは、彼の目的のために、村を犠牲にすることすら厭わないのか。
翌朝、私たちは残された村人たちの救助と、村の復興に協力した。
村人たちは、カスパール君の助けによって命を救われたにもかかわらず、その異質な魔力と、彼が使役する従属魔物たちの姿を思い出し、どこか怯えを隠せないようだった。
その様子を見て、私の胸は締め付けられる。
復興作業を終えた私たちは、再びカスパール君を追うことにした。
アルドロンさんの緑の宝珠と、私が持つ赤い宝珠、そしてローゼリアちゃんの桃色の宝珠が、カスパール君の紫の宝珠の微かな軌跡を追うように光を放っている。
私たちは、カスパール君が消えていった方向へ進んでいった。
彼が通った道には、時折、ヴェクスの残滓と思われる魔物の死骸が散らばっていた。
それらは、私たちとの戦闘で倒されたものとは異なり、まるで一瞬にして消滅させられたかのように、魔力の痕跡だけを残して崩れ去っていた。
「やはり……彼の魔力だ。この短時間で、これほどの数の魔物を……」
アルドロンさんが、険しい表情で呟いた。
彼の言葉は、カスパール君の力の恐ろしさを改めて私たちに知らしめる。
そして、それは同時に、彼が意図すれば、簡単に村を壊滅させることができたはずだという事実も示唆していた。
「もし、カスパール君が魔物を操っていたのなら……なぜ、完全に破壊しなかったのかしら……?」
ローゼリアちゃんが、不安そうに尋ねた。
その疑問は、私たちの心をさらに揺さぶる。
カスパール君は、私たちを助けるためだけに、村に現れたのだろうか?
それとも、私たちに何かを見せつけようとしていたのか?
彼の行動の裏に隠された真意は、私たちにはまだ理解できない。
だが、彼がルシアン様を追い求めていること、そして、そのルシアン様が私たちをこの旅に導いていることを考えれば、カスパール君もまた、この世界の真実に深く関わっていることは間違いない。
私たちの旅は、ルシアン様の行方を追うだけでなく、カスパール君の抱える闇と、その真意を解き明かすための探求へと、その様相を変えつつあった。
カスパール君……あなたは何を考えているの?




