第七章(1):再会の共鳴、歪んだ絆
私、セラフィナの赤い宝珠が聖剣ヴォーパルブレードに宿り、その力が完全に覚醒した日、私たちは、前世の絆が再び繋がり始めたことを実感していた。
アルドロンさんも私も、ルシアン様が私たちに遺した宝珠の力が、単なる魔力の源ではないことを知った。それは、私たちの魂、そして前世の記憶と深く結びつき、真の力を呼び覚ます鍵だったのだ。
しかし、ローゼリアちゃんの桃色の宝珠はまだ覚醒しておらず、宝珠が示す次の目的地へと歩みを進めていた。
あの黒い男はカスパール君だったの?
私たちは、信じたくない、認めたくない気持ちから、その話題はなんとなく避けてしまっていた。
数日後、私たちは広大な森林地帯を抜けた先で、異様な気配を察知した。空気が重く、禍々しい瘴気が漂っている。
そして、遠くから、人々の悲鳴と、建物の崩れる音が響いてきた。
「この気配……ヴェクスの残滓か……! しかも、かなりの数だ!」
アルドロンさんが、眉をひそめて呟いた。彼の杖の先の緑の宝珠が、警戒するように鈍く光る。
私とローゼリアちゃんも、その尋常ならざる気配に、顔を青ざめさせた。
私たちは急いで音のする方へ向かった。
森を抜けると、そこには、無残にも破壊された村と、黒い靄を纏ったおびただしい数の魔物たちがいた。
それらは、かつてヴェクスが生み出した下級魔物とは比べ物にならないほど、強靭で凶悪な姿をしている。
村人たちは恐怖に震え、逃げ惑っていた。
「くっ……!こんな時に……!」
私たちはすぐに聖剣を構え、アルドロンさんは杖を振り上げた。
しかし、覚醒したばかりのアルドロンさんと私、そしてまだ宝珠の力が完全ではないローゼリアちゃんの三人では、あまりにも数が多く、そして魔物たちの力も強大だった。
「セラフィナ! ローゼリアを頼む! 私が前線を食い止める!」
アルドロンさんが叫び、魔物たちの群れに向かって強力な魔法を放った。
私も聖剣で魔物たちを薙ぎ払い、村人を護るように立ち回る。しかし、次々と現れる魔物たちに、徐々に体力を奪われていく。
ローゼリアちゃんは、村人の安全を確保しようと奮闘していたが、その隙を突かれ、一体の巨大な魔物が彼女めがけて突進してきた。
「ローゼリアちゃん! 危ない!」
私の叫びも虚しく、魔物の巨大な爪が、彼女に迫る。
***
その頃、村の崩れかけた教会の屋根に、カスパールが身を潜めていた。
彼の紫色の宝珠は、微かな光を放ち、まるで彼をどこかへと導こうとしているかのようだった。
彼は、村を襲う魔物たちと戦う勇者たちを見つめていた。
彼の紫の宝珠の光は、この村、そして勇者たちを指し示している。
「チッ……厄介なもんだな、宝珠の光ってやつは。なぜ俺の宝珠は、お前らの行く先にばかり導きやがる……」
彼は、内心で毒づいた。
アルドロンの緑の宝珠とセラフィナの赤い宝珠が覚醒したことに気づき、カスパールは宝珠の覚醒には勇者たちとの共鳴が必要だと改めて確信していた。
「ガイアの奴、宝珠の覚醒に気づきやがったな。」
「ヴェクスの残滓を使って妨害しはじめたか……。」
ルシアンを探す勇者たちを、ガイアが妨害し始めた……。カスパールは、自身のはざまでの経験から、ガイアの企てを知っている。
それは、今、疑惑から確信に変わった。
「ガイアは、宝珠を覚醒させない気か……」
勇者たちが懸命に戦う中、彼の視線がローゼリアを捉えた。
一体の巨大な魔物が彼女めがけて突進してくる。
「ローゼリア! 危ない!」
カスパールの口から、思わず叫びが漏れた。
その瞬間、彼の肩にいたウサギが、ピンク色の光の玉となり、光速でローゼリアの元へと飛んで行った。
魔物の攻撃がローゼリアに当たる寸前、ウサギは柔らかな光を放つ壁となって彼女を護り、衝撃を吸収した。
「フン……! 余計な手間をかけさせやがって!」
カスパールはそう言い放ちながら、教会の屋根から一瞬で村の広場に降り立った。
彼の紫の宝珠はまだ珠のままだったが、その手から漆黒の魔法が迸る。
虚空から現れた鋭い氷の槍が、ローゼリアを狙った魔物を貫き、光の粒子に変えた。
***
「な……カスパール君!?」
ローゼリアちゃんが驚きに目を見開く。
アルドロンさんと私も、予期せぬカスパール君の登場に、一瞬動きを止めた。しかし、彼は私たちに目を向けることなく、次々と魔物たちを打ち払っていく。
彼の従属魔物たちも、彼の指示に従い、ヴェクスの残党に襲いかかっていく。
彼の放つ魔法は、覚醒したアルドロンさんや私に劣らず、圧倒的な力を持っていた。
私たちは互いに驚きつつも、カスパール君の援護を受けて、次々と魔物たちを殲滅していった。
共闘は、言葉を交わさずとも、まるで最初からそうであったかのように、自然に成り立っていた。
やがて、村を襲っていたヴェクスの残党は全て消滅した。
静寂が戻った村には、安堵の空気が満ちていた。
「カスパール君……!良かった……生きてて……本当に、良かった……!」
戦いが終わると、ローゼリアちゃんが、泣きながらカスパール君に駆け寄った。
彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れ、彼の黒いマントに顔を埋める。
カスパール君は、一瞬戸惑い、その手をどうしていいか分からず、宙に浮かせたままだった。
「チッ……泣くな、鬱陶しい」
彼はそう悪態をつきながらも、ローゼリアちゃんを振り払うことはしなかった。
その表情には、ほんのわずかながら、安堵の色が浮かんでいるように見えた。
「カスパール! 無事だったか……!」
アルドロンさんが、杖を構えたまま、複雑な表情でカスパール君を見つめている。
私も、聖剣を握りしめたまま、彼を凝視していた。
「フン……別に助けたわけじゃねぇ。あんたらが邪魔だっただけだ」
カスパール君は、そう言い放ち、ローゼリアちゃんから少し身を引くと、その場を立ち去ろうとした。
彼の紫の宝珠が、微かに、しかし確かに、脈動している。
「待って!カスパール君!」
私が叫んだが、彼は振り返らない。
ピンク色のウサギを肩に乗せ、従属魔物を引き連れて、彼は闇の中へと消えていった。
カスパール君が去った後、私たち三人の間には、再び重い沈黙が流れた。
「カスパール……まさか、彼が魔物を操って村を襲わせていたのか……?」
アルドロンさんが苦しそうに呟いた。彼の言葉は、私たちの中に、恐ろしい疑惑を生んだ。
「まさか……! カスパール君が、そんなことをするはずないわ!」
ローゼリアちゃんが、震える声で否定した。
彼女は、自分を助けてくれたフワフワのピンクの光景を思い出し、その温かさに、どこか懐かしさを感じていたのだ。
「あのピンクの魔物……なんだか、悪い気はしなかった……」
ローゼリアちゃんの言葉に、私は力強く頷いた。




