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第二章:(1):ルシアン様が遺したもの、勇者たちの傷跡

ルシアン様がヴェクスと共に、あの次元の裂け目に吸い込まれてから…

世界には、あまりにも静かな時間が訪れた。


壮絶な戦いの後とは思えないほど、不気味なほどの静寂。


悪魔ヴェクスはいなくなり、世界の破滅は回避された。


それは、ルシアン様が自らの命と引き換えに成し遂げたことだった。


しかし、残された私たち四人の勇者…私、聖剣の使い手セラフィナ、大賢者アルドロンさん、大僧侶ローゼリアちゃん、そして大魔導士カスパール君の心には、ルシアン様という存在がぽっかりと空けた、あまりにも大きな、埋めようのない喪失感が残った。


ルシアン様がいなくなった。


その事実は、鉛のように重く、私たちにのしかかった。


彼の冷静な声も、皆を安心させる微笑みも、的確な指示も、もうない。


世界の守護者としての、あまりにも大きな柱を失った喪失感は計り知れないものだった。


空を見上げても、ルシアン様がいるはずの場所には、ただ虚しい青空が広がっているだけだ。


私は、手に握られた聖剣の赤い宝珠を見つめながら、痛ましげに立ち尽くした。

宝珠は、ルシアン様との繋がりを感じさせる唯一のものだったから。


私の心には、聖剣の使い手としての使命感だけでなく、ルシアン様への、誰にも言えなかった秘めた想いがあった。


推しであったルシアン様の隣に立つのが、当たり前の日常になっていくなか、彼の優しさ、強さ、そして、あの時感じた、お互いだけに通じる特別な空気…それが、もう二度と得られないんだ。



ルシアン様が消えた後の日々、私の悲しみは深かった。


彼のいない城は広く、静かだった。


あの頃、彼が座っていた椅子を見るたびに、彼の声が聞こえてくるような気がした。

彼が研究していた部屋の前を通るたびに、彼の姿を探してしまう。

ふとした瞬間に、彼の笑顔が脳裏をよぎり、胸が締め付けられた。


ルシアン様に、もっと素直に気持ちを伝えればよかった。


もっと、彼と共にいる時間を作ればよかった。


後悔の念が、波のように押し寄せた。


ルシアン様への募る想いは、彼を失ったことで、自分が彼をどれほど大切に思っていたかを、痛いほどに痛感させた。


それは、世界の危機を乗り越えた戦士の心に、深い、深い傷跡を残した。


私の「推し」が、もう、いない。

そんな現実が、何よりも辛かった。


私の世界の全てだった推しが、私の目の前から、物理的に、消えてしまったのだ。


私は、手に握られた赤い宝珠が埋め込まれた聖剣を強く握りしめた。

宝珠は、ルシアン様との最後の繋がりであるかのように温かい光を放つ。

聖剣は、ルシアン様が命を懸けて護ろうとした、この世界そのものを象徴しているかのようだ。


ルシアン様が命を懸けて護ったこの世界を、今度こそ完全に護り抜こうと、心の中で誓った。


それが、私の深い悲しみを乗り越え、前を向くための、ルシアン様への、そして自分自身への誓いだった。

この誓いだけが、私がルシアン様のいない世界で生きていくための、唯一の光となったのだ。


いつか、いつか必ず、ルシアン様に、この平和になった世界を見せたい。


アルドロンさんは、ルシアン様が消えた後も、冷静さを保とうと努めた。


彼がいなくなった今、自分が皆を支えなければならない。

手に残る緑の宝珠が、ルシアン様の知識の片鱗であるかのように思えた。


彼は、ルシアン様が何を考え、なぜあの魔法を使ったのか、そして異界とは一体何なのか、真実を知りたいと強く願っていた。

アルドロンさんの大賢者の知識や書物などを調べることを、彼は人生をかけて、長く静かに続けていた。


仲間を失った悲しみは深く、静かに彼の心を苛んでいたが、それを表に出すことはなかった。

彼の知性は、ルシアン様がいなくなったことで、世界のあり方そのものに疑問を投げかけるようになった。


ローゼリアちゃんは、ルシアン様がいなくなったという現実を受け入れられず、しばらくは涙が止まらなかった。


あの優しいルシアン様が、もういない。


彼の笑顔を、もう見られない。


握りしめた桃色の宝珠のペンダントが、まるで彼女の悲しみに共鳴するかのように、鈍い光を放っていた。


彼女は、ルシアン様が護った世界の人々のために、癒やしの祈りを捧げ続けた。

彼女の癒やしの光は、人々の体の傷を癒やしたが、彼女自身の心の傷は、そう簡単には癒えるものではなかった。

それでも、桃色の宝珠を握りしめ、ルシアン様が願ったであろう平和な世界のために、彼女は祈り続けた。


私の深い悲しみにも気づき、そっと傍にいてくれた。

言葉で慰めるよりも、ただその存在で、私を支えようとしてくれた。

ローゼリアちゃん、ありがとう。



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