(33)謝罪
騎士達によって城の奥まで連行されたアメリアは、縄を解いてもらったものの、有無を言わさず幾つか並んでいる牢の一つに押し込められた。
三方を石造りの壁に囲まれ正面が鉄格子で覆われているそこは、申し訳程度に寝台代わりの板が設置してあるだけの、殺風景な場所だった。普通の若い女性であれば不安と恐怖で泣き叫んでもおかしくない場所であったが、騎士達が怒りを露わにしながら立ち去った後も、アメリアは平然としていた。
(あれだけ仰々しく連れてきたわけだから、罪人扱いだろうとは思っていたしね)
こんな体験、滅多にできないわねと呑気なことを考えながら過ごしていると、牢番が夕食をトレーに載せて運んでくる。鉄格子の扉を開けて差し入れてもらった彼女は素直に礼を述べ、残さず食べ終えた。
(量は少ないけどまともなご飯だったし、文句を言う筋合いではないわよね。それに他に人がいないみたいで静かだし、眠くなってきたわ……。まだ早い時間だと思うけど、もう寝ちゃおうかな?)
食べ終えた食器は朝食を持ってきた時に回収するのかなと、アメリアが再び呑気なことを考えながら大きなあくびをしたところで、通路の向こうから突然喧噪が伝わってきた。
「ふざけるな! これはどういうことだ!? 即刻、彼女をここから出せ!」
「いえ、そう言われましても!」
「私達は上からの指示通り、監視しているだけですから!」
「まだきちんと罪人と決まってもいない者を、重罪人用の牢に入れるとは許しがたい! 一体誰の命だ!?」
「国王陛下のご命令です!」
「なんだと!?」
「ですから隊長から『陛下直々の命令だから、くれぐれも逃亡などさせないように』と厳命されています!」
「アルフェウス殿下といえども、陛下の命令に背くことは許されませんよ!?」
「このっ……」
(あれ? さっきから聞こえてくる、この声って……)
何やら聞き覚えがありすぎるその声に、アメリアは訝しく思いながらも大声で呼びかけてみた。
「あの! もしかして、そこにいるのはルーファさんですか!?」
すると言い争いの声がピタリと止み、先ほどより低い声が聞こえてくる。
「もういい。お前達は持ち場に戻れ」
「ですが」
「彼女と少し話をするだけだ。すぐに出る」
「分かりました」
「それでは失礼します」
再び静かになった牢獄内に一人分の足音が響く、それはアメリアがいる牢の前で止まった。そして鉄格子越しにルーファを認めた彼女は、心底不思議そうな表情で尋ねる。
「あ、やっぱりルーファさんでしたか。それにしても、どうしてこんなところに? ここはお城の中ですから、普通の人が気軽に入れる場所ではないと思いますけど」
いつもと全く変わらない彼女の様子に、ルーファは安心すると同時に笑いが込み上げてきた。
「気にするのはそこなのか……。思っていたより落ち着いていて良かった」
「確かに、いきなり連行されて驚きましたけど、お偉方が顔を揃えた公の場で審議するという話なので、いきなり危害を加えられたりしないだろうと思いましたから。出された食事にも変な物は入っていませんでしたし、今のところ特に問題はないですよ?」
「そうか……。こうなると、もう笑うしかないな」
「ところで、ルーファさんはどうやってここまで入れてもらったんですか? さっき入り口の方で揉めていたみたいでしたし」
再び疑問を呈されたルーファは、ここで顔つきを改めて彼女に告げた。
「それでは、まずそこから説明するか。黙っていて悪かった。私の本名はアルフェウス・エル・スウィグラーで、この国の第二王子だ」
「…………はい? 今、何て言いました?」
言われた内容が咄嗟に理解できなかったアメリアは、きょとんとした顔で問い返した。彼はそれには構わず、淡々と説明を続けてから真摯に頭を下げる。
「君の行為について聴聞会が開催されることに伴い、急遽捕縛される話を聞きつけたのだが、その指示を事前に撤回させられなくて申し訳なかった」
「あ、あの……、それは、ルーファさんが謝るようなことではないと思いますけど……」
ここでやっと頭が回ってきたアメリアは、狼狽しながらも相手を宥めた。しかし顔を上げたルーファは、真剣な面持ちで話を続ける。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、この国を治める王族の一員として、既得権益にしがみつく医師組合や薬師組合の癒着や暴走を、これまで見て見ぬ振りをしてきた責任がある」
「そうかもしれませんけど、そこまで真剣に考えなくても。これまでルーファさんが直接関わりがあったことではありませんよね? だってルーファさんが直に指導とか監督する立場だったら、そんなこと見逃したり許すはずがありませんから」
「確かに、直接関わりなどはなかったが……」
「そうでしょう? だから私がこうなったのはルーファさんのせいじゃありませんから、そんなに責任を感じないでください。本当に大丈夫ですから」
(ラルフさんの治療は私がそうしたいと思った結果だし、この際、上の人間に言いたいことをぶちまける良い機会だと思って、進んでおとなしく捕まったんだもの。この件に関して部外者のルーファさんに、必要以上に罪悪感を感じて欲しくないわ)
そんなことを考えながら、アメリアは笑顔で語りかける。それを聞いたルーファは苦笑を深めた。




