(30)期待以上の展開
「ラルフさん、起きていますか? スープを持ってきましたので、少しでもお腹に入れておきましょうか」
ノックの後、トレーを持ったリリアが部屋に入ると、イラーナが笑顔で礼を述べた。
「リリアさん、ありがとうね。じゃあ、あんた。ちょっと頑張っておくれ」
「分かった。……って、いてて」
「ゆっくりで良いですよ。上半身を起こすのも、まだ負担になるでしょうから」
イラーナに背中を支えてもらったラルフは、痛みを堪えながらゆっくりと起き上がった。その間に壁際のテーブルに置いたトレーからスープ皿を持ち上げたリリアは、それをラルフに手渡す。
「ゆっくり食べてくださいね。イラーナさんの分は、こちらに置いておきますから」
「ありがとう。この人が食べ終わったらいただくよ。ところでリリアさん。アメリアちゃんは大丈夫なのかい?」
いかにも心配そうに問われてしまったリリアは、笑顔で言葉を返した。
「今のところ、何の問題もありません。普通に店も開けているので、心配しないでください」
「そうは言っても……」
「もし面倒な事になったら俺のせいだから、俺も一緒に罰を受けると言ってくれ」
ここで真剣な面持ちでラルフが口を挟んでくる。それにイラーナが険しい顔つきで言い返した。
「何言ってんだい。私があの子に頼んだんだからね。怪我人はおとなしく引っ込んでな」
「なんだと!? いつっ!」
ムキになって言い返そうとした途端、身体を捻ったことで患部に痛みが生じ、ラルフが呻いた。そこでリリアが、困ったように二人を宥める。
「お二人とも、喧嘩しないでください。本当に大丈夫ですから。ラルフさんは、怪我を治すことに専念。イラーナさんはその看病。分かりましたね?」
「そうだな……」
「うん、そうだね」
とりあえず二人が納得したように頷いたのを見て、リリアは笑顔で部屋を出た。その瞬間真顔になり、店に向かって歩きながら独りごちる。
「そうは言っても……、あれから三日経過したけど静かすぎて、逆に不気味なのよね……」
若干不安を覚えながらも、リリアは店に戻って他の二人に明るく声をかけた。
「アメリア、ランデル。ラルフさん達にお昼を出してきたわ。私達も、交代しながら食べない?」
「そうね。そうしましょうか」
そんな話をしたところで、店の入り口のドアが乱暴に押し開かれ、数人の男達が押し入ってきた。
「おい! アメリアという薬師はいるか?」
(予想通りの展開だわ。あれから三日で来たのは、遅かったくらいかも)
自警団などとは比べものにならない、立派な揃いの制服を身に着けた騎士達がアメリア達を取り囲みながら恫喝してきた。しかしアメリアは全くひるんだりせず、冷静に言葉を返す。
「何ですか、騒々しい」
「黙れ! 聞かれたことにさっさと答えろ!」
「アメリアは私です。それで、何のご用ですか?」
正直に答えると、目の前に立った中年の男が横柄に言い放つ。
「貴様はそもそも薬師組合に所属しないはぐれ薬師である上、三日前に本来医師のみが行使できる身体の切開と縫合を行ったそうだな?」
「ええ、そうです。それが何か?」
「『それが何か』だと? ふてぶてしいにも程があるぞ!」
本気で叱りつけてきた相手に対し、アメリアは平然と言い返した。
「そもそもあなた達は誰なんですか? いきなり店に押しかけて、喚き立てるなんて。明らかな営業妨害です」
淡々とアメリアが告げると、男達が一斉に気色ばんだ。
「はぁ!? 我々を知らないだと?」
「ええ、全く。だからどちら様ですかと聞いています」
「とんだ物知らずだな! いいか!? 我々は王家直属の騎士団だ! 貴様は国法を犯した重罪人だ! だから我々が貴様を捕えるため、こんな下々の所まで出向いて来たのだろうが!」
男は憤然として怒鳴りつけてきたが、それを聞いたアメリアはうっすらと笑みを浮かべながら問いを重ねた。
「へぇえ? それはそれは、ご苦労様ですね。それで? 私を『国法を犯した重罪人』呼ばわりして偉い騎士様が捕まえにくるくらいなら、当然下っ端ではなくて、それなりに偉い方々が取り調べをしたりするんでしょうね?」
「当たり前だ! 医師組合と薬師組合双方から訴えが出ている前代未聞の事態を重く見て、陛下や王太子殿下ご臨席のもと、審議を行う予定になっているから神妙にしろ!」
その恫喝を聞いたアメリアは、予想以上のおおごとになっているのを内心で嬉しく思いながら背後を振り返った。




