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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原皐月
第3章 そして事態は混迷を深める

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(25)サラザールの不満

「ただいま!」

 元気よくアメリアが玄関の戸を開けて家の中に入ると、その声を聞きつけたランデルとリリアが奥から現れた。


「おう、アメリア。お帰り」

「お帰りなさい、アメリア」

「リリア、戻ってたのね! お師匠様の所まで行ってくれてありがとう!」

 アメリアはリリアに、笑顔で感謝の言葉を伝えた。しかしリリアが申し訳なさそうに言葉を返してくる。


「それは構わないのだけど、とんでもないことになったわね。念のためリドヴァーン様を手伝って、例の症状の対応策や治療法などの記録が残っていないか再度探してみたんだけど、見当たらなかったの」

「それで戻るのが遅くなったのね。本当にご苦労様。でも、とりあえずできることを見つけたから、二人にも手伝って欲しいの!」

 その申し出に、二人は不思議そうに問い返した。


「うん? 何だ?」

「ランデルから聞いたけど、今日は街で気晴らししていたんじゃなかったの?」

「そうなんだけど、今日ギブス人材紹介所で話を聞いてもらったの! それで、患者の記録を集めたいのよ!」

 そこでアメリアは二人に向かって、ギブス人材紹介所でのやり取りを順序立てて語って聞かせた。それを聞き終えた二人は、揃って微妙な表情になる。


「そういうことか……。妥当な方策ではあるし、納得はできるが」

「魔術師塔も協力してくれるのね……」

「それで、私もできることをしたいの。協力してくれない?」

 城の書庫を確認するとか、魔術師が絡んでいるとか、一部に不穏な情報が含まれていたものの、アメリアに懇願された二人はすぐに腹を括った。


「当たり前だ。やはり人の命にかかわることなら、見て見ぬふりはできないからな」

「こうなったら仕方がないわね。全面的に協力するわ。アメリアやランデルはここに来る患者さんの話をじっくり聞いた方が良いから、家から動けない患者の状態確認とかは、私に任せて頂戴」

「そうなると書き起こした形式がバラバラだと、比較しにくいな。聞き取りに必要な項目を整理して、統一した形式の記録用紙を早速準備しよう」

「そうしてくれると私も助かるわ。聞き漏らしがあったらまずいもの」

 サクサクと話をまとめ始めた二人に、アメリアは改めて感謝の言葉を伝えた。


「ランデル、リリア。本当にありがとう」

「何を言ってるんだ。水くさいな」

「そうよ。アメリアが頑張っているんだもの。この程度手伝うくらい、なんでもないわよ」

(一人で頑張ってみるって大見得を切って国を出てきたけど、私一人じゃなくて本当によかった。迷惑かけるけど、もう少し力を貸してね)

 明るい笑顔で笑い飛ばすランデルとリリアを見ながら、アメリアはじんわりと涙がにじんでくるのを抑えられなかった。


 ※※※


 ランデルとリリアに対しては問題なく賛同してもらえたアメリアだったが、帰宅したサラザールに一連の報告をした途端、彼から冷ややかな視線が返ってきた。


「それで、他の人間達の手を借りることになったと? しかも魔術師塔も絡んでいるのか?」

「うん。そういうことになったの……」

 どう見ても気分を害している兄に対し、アメリアが居心地悪そうに頷いてみせた。そこで同席していたランデルとリリアが、アメリアを不憫に思いながら口を挟む。


「サラザール。お前が懸念するのも尤もだが、この国の問題に対して人間達が自主的に動くのなら、それに手を貸しても不都合はないだろう」

「それに、全く確証がないこちらの話を信じて動くのだから、文句を言う筋合いではないわよね?」

「とりあえず、昔の書物が竜の国で保管されている物だって事は誤魔化したし、それについて深く追及されなかったから、大丈夫じゃないかと思うんだけど……」

 恐る恐るといった感じでアメリアが弁解すると、サラザールは何か言いかけた言葉を飲み込み、素っ気なく告げた。


「……分かった。好きにしろ」

「うん。ありがとう、兄さん」

 一応の了承を得たことで、アメリアは安堵したように微笑んだ。そこでランデルが、時間を無駄にせずに話を進める。


「それでだな、お前にもやってもらいたいことがある。これまで警備隊内で変な症状が出ている人間や、例の怪しげな虫除けを使っていた人間についてさりげなく調べていたよな?」

「それがどうした」

「この項目と表に従って、経過を聞き取りしてくれ。症例を集めたい。さりげなく聞き取りできなかったり素直に話してもらえない場合は、この際、多少魔術を行使しても良いだろう。ただし、痕跡はきちんと消しておけ。リリア、お前もだ。分かっているな?」

 予め準備していた記録用紙を差し出しながら、ランデルがサラザールとリリアに念を押した。それにサラザールは面白くなさそうに、リリアが満面の笑みで頷く。


「……分かった。いちいち指図するな」

「さじ加減くらい分かっているわ。任せて」

「皆、ありがとう。私も明日から頑張るね」

 力強く宣言したアメリアの姿を、サラザールは複雑な心境で眺めた。


(昨日はすっかり落ち込んでいたアメリアがあれだけ元気になったのだから、協力するくらいなんでもない。だがよりにもよって、あんな所に駆け込まなくても……。少しばかり、いや、かなり面白くないな)

 そんなことを考えて憮然としていたサラザールを、ランデルとリリアは困ったものだと言わんばかりの表情で観察していた。



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