(24)打開策の検討
「アメリアがここに来ているそうだが、一体どういうことだ?」
「ルーファさん……」
バルナーから詳しい話は抜きで「アメリアが大変だから大至急来い!」と通信魔術で呼びつけられたルーファは、レストを引き連れてギブス人材紹介所に駆けつけた。そして奥まった一角にある部屋に足を踏み入れた途端、泣き腫らした顔のアメリアを認めた彼は、室内にいた二人を眼光鋭く睨みつける。
「アレク? バルナー?」
ルーファの視線を真正面から受けたアレクだったが、全く動じずに二人に言い聞かせた。
「ルーファ、レスト、座れ。言っておくが、俺達が泣かせたわけじゃない」
「お前達が来る前に、一通り話を聞いておいた。事態はかなり深刻だな」
「詳しく話せ」
アレクに続けて、険しい顔つきでバルナーが告げる。それで相当の問題が発生したと察したルーファは、レストを促して椅子に座った。全員がテーブルを囲むと同時に、アレクが重々しく告げる。
「単刀直入に言うと、例の一時期流行った虫除けから、毒の成分が揮発しているそうだ。それを継続して吸い込むと、まず咳が出始めてから様々な不調が現れ、最悪死に至るらしい。《《お前の父親》》があれを使っているとアメリアから聞いたが、今でもそうなのか?」
「何だと!?」
アメリアがルーファの父親が国王だと知らないままだと判断したアレクは、それをぼかしながら確認を入れた。その途端、ルーファが顔色を変える。続けてバルナーも、真剣な面持ちで付け加えた。
「根本的な治療法はなく、早期にその虫除けの使用を止めた上で、対症療法を継続しながら自然回復に任せるしかないそうだ」
「ちょっと待て! それはどうして分かった!?」
「アメリアの師匠に当たる人が、残されていた三百二十年程前の医療記録に、同様の記載があるのを確認したそうだ」
慌てて問い質したルーファに、バルナーが説明を続ける。それを聞いたルーファは、唖然とした顔になって尋ね返した。
「はぁ? 三百二十年前? この国の建国以前じゃないか。どうしてそんな物が残っているんだ?」
「…………」
その反応を見たアレクとバルナーが、困ったように口を閉ざす。そこでこれまで俯いて口を閉ざしていたアメリアが、再びボロボロと泣き出しながら訴え始めた。
「そっ、そうですよね……。信じられませんよね? でも、嘘なんかついていないんです! 誰にも信じてもらえなくても、本当なんです! このままだと、どんどん亡くなる人が出てきてしまうかもしれないんです! でも、どうしようもなくて!」
そのままグスグスと泣き続けるアメリアを、ルーファは少しの間凝視した。そして力強く断言する。
「悪かった。君の言葉を信じる。その虫除けをなんとかしよう」
「ルーファさん?」
驚いてアメリアは顔を上げたが、それは他の者も同様であり、バルナーが怪訝な顔で尋ねた。
「おい、ルーファ。気持ちは分かるが、一体どうする気だ? アメリアには悪いが、信憑性がなさすぎるぞ?」
「それなら信憑性を持たせるだけだ。確かにこの国の建国以前の話だが、先の王国での貴重な書物などは、王城の書庫で保管されている可能性が高い。その中に同様の記録が残っていれば、確証が得られるだろう」
具体的な方策を提案してきたルーファに対し、アメリアは控え目に問いを発した。
「あの……、それは分かりますが、お城の書庫を調べるなんて無理じゃないでしょうか?」
それを聞いたルーファは一瞬返事に詰まったものの、冷静に言葉を返した。
「それに関しては……、ある伝手を使うから大丈夫だ。それからバルナー。魔術師塔にも当時の記録が保管されていないか、大至急確認を取ってもらえないか?」
その要請に、バルナーはすぐさま頷いてみせる。
「確かにあそこには、古い物が色々集まっているからな。分かった。大至急調べてみよう」
「アレク。手の空いている者を動員して、大至急アメリアの薬師所周辺で、今現在も虫除けを使っている人間の所在を調べて欲しい」
指示された内容を頭の中で考えたアレクは、ルーファに確認を入れた。
「それは……、アメリアの薬師所に通っていない人間も含めてってことだよな?」
「勿論だ。そしてアメリア。アレクの調査で今でも使っている人間が判明したら、そこに出向いて虫除けの危険性を説明して、使用を止めさせてくれ。当然、その人間が通っている薬師や虫除けを購入した乾物商からは非難されるだろうが、この際仕方がない」
「ええと……、それは構いませんけど……」
「使うのを止めさせたら経過観察をして、症状が回復する経緯をきちんと記録に残して欲しい。ついでに虫除けを使用し始めてから、どれくらいで体調を崩し始めたかの記録も取れればなお良いな」
そこまで話を聞いたアメリアは、ルーファの意図するところを完全に理解した。
「あ……、そうですね! 実際に治った症例が集まれば集まっただけ、信憑性が増しますね! その辺りがすっかり頭から抜け落ちていました!」
顔つきを明るくしたアメリアに微笑んだルーファは、その直後、真剣な面持ちでレストに向き直る。
「後は……、レスト、その虫除けが流行りだした経緯を調べてくれ」
「分かった。どう考えても怪しすぎるな」
そこで自分のするべきことが明確になった上、一気に現状を打破する希望が見えてきたアメリアは、満面の笑みでルーファ達に頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございます」
それに男達は、笑顔で言葉を返す。
「いや、礼を言わなければいけないのはこちらだから」
「そうそう。気にしなくて良いよ」
「それにこれから、アメリアには頑張ってもらわないといけないしな」
「よし、そうと決まれば早速動くか」
そこで彼らは時間を無駄にせず、次々に席を立った。
(勢いに任せてここに駆け込んでしまったけど、皆に信じてもらえて良かった。こっちに来てから、一番嬉しかったかも)
泣き腫らした顔のアメリアを心配して、ルーファが送っていくと申し出る。しかし照れくさいのと、これ以上迷惑をかけたくないという思いからアメリアはそれを丁重に断り、水で顔を洗ってから意気揚々と薬師所に帰っていった。




