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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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内緒のお出掛けは、闇夜のベールに包まれて

「私を愛良様のところまで連れて行ってください」


「神の奪還ですか。勿論俺は貴方のしもべだから協力はするよ。火の神が囚われている城の内部情報もよく分かっているから、道案内はできる」


 しもべ、という単語がむず痒いがとりあえずスルーだ。今は天使様に私のお願いを聞いてもらわなければいけないのだから、私を主と思っているこの関係を利用させてもらおう。

 受け答えから、おそらく天使様は私がこっそり愛良さんの囚われているお城に忍び込んで彼を取り戻すと勘違いしている。違うのだ。


「ただ、この星の命運をかけた計画だから当然警備も厳しい。貴方たちがあの時愛良に会えたのは、マナ様の手引きによるものだったからだろう。それでも、かなりの幸運だ。……もしくは、火の神を取り戻そうとする勢力にどんな者たちがいるか知る為にあえて泳がせていたか。こちらの可能性が高いな。だから火の神も貴方達を逃がしたんだろう」


 それは十分考えられる。敵はだからこそ、私をピンポイントで愛良さんに使える人質として名指ししたのだろう。


「確実に火の神を取り戻すなら、俺と夕理ちゃんだけだと厳しいな。作戦も詰めないと」


「私はお兄様たちを巻きこむつもりはありません。これは私の戦いです」


「夕理ちゃん、しかし……」


「貴方は勘違いをしています。天使様は私を捕えたと言って、任務を遂行したのだから隠れたりせず堂々とお城の中に入れば良いのです。そして、私の身を魔術師協会のマスターに渡しなさい」


 驚愕した瞳が私を射抜く。そういう反応を返されるだろうとは思っていたから、黙って彼の目を見る。


「駄目です。貴方は確実に愛良の目の前で殺される。そんなこと許せるはずがない」


「これはお願いではなく命令です。……愛しているならそれくらいしろ。私の神様」


 わざと神気を滲ませて挑発的に笑ってやる。天使様は絶望したように瞳を揺らした。それでも、冷静に私に意見を撤回させるための糸口を探しているのは分かる。


「貴方を失えば、愛良は今度こそ完全に堕ち神となるでしょう。貴方は救済すべき相手である愛良を、世界を破壊し尽くす化け物にするおつもりですか?」


 諭すためか、口調が普段と違い敬語だ。やはり順当に考えればそこを突いてくるよね。私としても愛良さんを傷つけたいわけではないから、痛いところだ。


「時間がありません。明日にでも愛良様は堕ちる可能性がある」


「そこまで追い詰められているのか。なら、余計に」


「私は体が幼いためまだ使える魔力が半分ほどしかありません。これでは、愛良様から穢れを取り除き元の神格を取り戻すためのお手伝いは出来ません。ですが、神の力を解放するためには強い感情が必要なのでしょう? これは、私が最も神としての力を振えるようになるための最適なチャンスです。愛良様の願いを叶えるためにもこれは必要なことなのです」


「何か……お考えがあられるのですね」


 私は力強く頷いた。当然だ。死にに行くつもりは毛頭ない。


 これから先、愛良さんにまず新しく作れるようになったオムライスを振る舞いたいし。夏には海に泳ぎに行ったり、夏祭りだって一緒に行きたい。秋にはオニキス君に教えてもらった彼岸花の花畑に、お弁当を持って遊びに行きたい。

 そんな楽しい未来を獲得するために、これは必要なことだ。愛良さんに好意を抱かれているのなら、その方が好都合だし。


「信じても……いいんだね」


「私は愛良様の願いを叶えるために生み出された神ですから。自分の生まれた理由に背くような行いはいたしませんよ」


 嘘は許さない、とはかりに強い目線を向けてくる天使様に、私も微笑んでしっかりとした目線を返す。救済の女神に見えるような、笑顔になっているだろうかと考えながら。私の権能はそれとは正反対なのに。








「全くもって水臭いですぜ、お姫様」


 心配をかけないよう、宿の部屋にこっそりと書き置きの手紙を魔法で飛ばしたあと。後ろから金烏さんの声が聞こえたときには、思わず悲鳴を上げかけた。急に現れないでくれ。


「き、金烏さん! どうしてここに!?」


「愛良様は一応、我の元主ですからね。それなりに世話になったから、義理は果たさないといけないと思うんですよね。だから、我も愛良様の救出作戦に一枚噛ませちゃくれませんかね? 足手まといにはなりませんから」


 金烏さんは一応、という言葉にやたら力を入れて言った。金烏さんって意外と素直じゃない言動するよね。


「な、なんですか。偽物神といいお姫様といいその生温かい目線は! 我はお姫様に仕える身でもありますから、元主がお姫様に迷惑をかけているなら元従者として動かぬわけにはいかないと思っただけですよ。本音は面倒くさくて仕方ないんだからな!」



 うんうん、そういうことにしておこう。



 金烏さんを仲間に引き込めたら、より作戦に説得力が増しそうではあるんだよな。彼の本性が剣なことを見込んでお願いしたいこともある。

 問題は、今から私が行おうとしていることを金烏さんが受け入れてくれるかどうかだ。金烏さんはお兄ちゃんほど過保護じゃないけど、大事にしてもらっているのは分かる。でも、金烏さんは気質は使い魔だから主の私が決めたことならと従ってくれるかもしれないな。


「それで、お姫様は一体どんな策を講じるおつもりで?」


「あぁ。それは俺も知っておきたいな」


 金烏さんの言葉に少し考える。ここは賭けだ。難色を示されたら天使様だけ攫って逃げるしかない。なにせ時間がない。グズグズしていてお父さんやお兄ちゃんまで追いかけて来たら私は負ける。

 自分の神としての本来の権能から、それを利用する作戦を包み隠さず話す。改めて相手に分かるように自分の考えを整理することでより考えが深まってよかった。


 天使様は絶句していたが、金烏さんはあっさりと頷いてみせた。


「分かりました。お姫様に託された任務、しかと達成してみせます!」


「は、え、いやまぁそれをしたら確実だろうけど。夕理ちゃんを犠牲にするくらいなら俺が」


「大丈夫です。私はお兄様と違って自己犠牲精神など皆無ですから。()ってやるという気概しかありません。皆様を傷つける真似は決していたしませんから、安心して私をマスターに突き出してください」


 天使様は苦渋に満ちた顔をしたが、それでもこの方法が最速で全てを終わらせるために最適だと分かっているのだろう。不承不承の態で頷いてくれた。







 夜明けまではまだいくばくかある。夜の闇が最も深い時間。天使様の魔法で、私は愛良さんが囚われている研究施設のある街に降り立った。前回、私たちが侵入したからか場所を移したようだ。


「この街の建物は全て白で統一されているから、昼に見ると青い空に映えてかなり壮観なんだよね」


 オレンジの街の灯りに映し出される街並みも、幻想的で素敵だけどな。


 私たちがたどり着いたのは、白を基調とした壮麗な宮殿だった。前回のお城も素敵だけど、今回もアラビアンナイトの世界に出てきそうな建物でとっても綺麗だ。花楓くんあたりが来たら絶対に喜びそうな場所だな。暑い気候の国なのか、夜でもじんわりと汗がにじむ。


「この国は火の神の呪いによって一夜にして国土の7割が砂漠と化したんだ。今は首都であるここにほぼ全ての国民が集まって生活している。そのため、魔術師協会に非難の声が集まっていてね。自分の失策を取り返したいために、マスターも手段を選んではいない状態なんだ」


 憂いを含んだ星空の瞳に、私は勇気づけるように頷いて見せた。大丈夫。なにせ私は願いの神様なのだから。


「それに火の神は今、マオ様の浄化能力により一時的に本来の姿と力を取り戻している」


「え、じゃあ本来の愛良さんが見られるんですか!?」


 それって祟り神状態なあの黒い触手の集合体じゃないってことだよね。どんな姿をしていらっしゃるのだろう。会うのがちょっと楽しみだ。


 でも、私が愛良さんを元の姿に戻してあげたかったのに。鴻池さんに先を越されてしまったのはちょっと悔しいな。


「本来の力って、それお姫様がマジで死んだら本当にヤバイんじゃ……」


「私は死にませんよ。愛良様を殺戮兵器になどするものですか」


「その言葉、信用しているからね。夕理ちゃん」


 天使様が前に立つと、花の意匠が施された巨大な扉が開く。玄関先の豪奢なシャンデリアが白い空間にピッタリだ。


 彼に促されて心持俯きながら宮殿の中に入る。どこか清涼なミントの香りがしている。


 ちなみに、今は敵の油断を誘うためと怪しまれないために私は手に魔力封じの枷をされている。黒いフード付きのローブを深く被り顔が見えにくいからか、好奇心を宿した目がこちらに向いているのが分かる。深夜だけど結構人が起きているのね。常人には見えないよう、姿を消して着いて来ている金烏さんは興味深そうに私の周りを飛び回っている。

 一応、天使様に囚われて無理やり連れてこられた設定だから、おいそれと好奇心に任せて素敵な宮殿を見学することが出来ないので悲しい。あ、でも床の装飾まで手を抜いてないのが凄い。青と緑の幾何学模様が描かれた白いタイルが廊下一面に敷かれていて目にも楽しい。



 迷路のような宮殿内を進み、人影が途切れた廊下に面した部屋の扉の一角で天使様が足を止める。この扉も随分と精緻で美しい彫刻が施されている。絶対に偉い人の部屋だよね。

 一瞬、その顔に緊張が浮かんだが、すぐに冷静な大人の顔になる。いよいよか。私はふぅーと深い息を吐き出した。

 さぁ、演劇の始まりだ。

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