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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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神秘が目覚めし、琥珀の夕映え

 え、いや天使様と戦うとか普通に嫌過ぎるんだけど。ずっと天使様には自分は敵だと言われ続けていたから、いつか戦う事になるかもしれないとは予見していた。覚悟もしていたはずだ。



 だが、いざ実際にそうなってみると、私はただ戦う覚悟をしている『つもり』だったのだと思い知らされる。天使様に剣を向けられるのが、こんなにも悲しくて辛い。ずっと仲良しでいたかった。


「なんで……。私は嫌です」


 天使様が一瞬、泣きそうな目を向けた。しかし、すぐに彼は無表情の仮面を被る。


「俺は命令には従うしかない。だから、戦う意思がないというのなら、無抵抗で俺に殺されてくれますか?」


 それも出来ない。私は家族や友だちに愛されている自覚がある。神として、彼らを悲しませることなどできない。それにそもそもの前提として。


「私、神様だから死ねないよ」


 正しくは半神だが、それでも寿命という概念からは外れた存在だ。だから、天使様が持つ私に死んでほしいという願いは叶えられない。


「それはどうでしょうか」


 天使様か私の隣を青い閃光が駆け抜けていく。根源的に覚える死の予感に背筋がヒヤリ、とさせられた。


「俺は神を殺せる力を持つんだ。機械仕掛けの神が暴走した際の処分が主な任務だから」


 無感情な声音。はっきりとした、冷えた殺気に口角が上がる。無理にでも笑っていないと、気落とされそうだ。


 久しぶりに眼鏡を外す。普段、無理やり抑え込まれていた魔力が解放されるのは気分が良い。 


「どうしても、天使様と戦わないといけませんか?」


「戦闘は必須ではありません。大丈夫、苦しませずに死なせてあげる」


 天使様が顔を歪める。今にも泣き出しそうな子どもの顔に見えた、星空の瞳にはわずかに悲しみが浮かぶ。天使様も本心では私の処分などしたくないのだろう。敵だと言われ続けていたが、私に向けてくれていた優しさは本物だった。












「私は貴方に殺されてあげる訳にはいきません」


 真っ直ぐに目を見て宣言する。愛良さんを助けなければいけない。リボンが槍に変化する。


「貴方のお相手をするのなら、万全の体制でなければ失礼ですから」


 魔力を滲ませて笑ってやる。私は神を救う為に生まれた神だ。ハッピーエンドでなければ認めない。だから、今は天使様に勝たなければいけない。彼がとても強いことは分かっているけど。


「私か貴方が倒れるまで、戦いましょう」


 槍を引っ掴んで天使様に向かって投擲する。あっさりと剣で防がれたが、この槍は意思を持っているため執拗に天使様を追いかけ続ける。私は天使様を捕まえるために魔法をつむぐ。


 地面から蔓が伸びて天使様の身体を拘束するために動くが、蔓は全て焼き払われてしまった。


「やっぱり、そう簡単には捕まえられませんねー」


「また武器が増えたんだね。君は本当にたらしだな」


 この言い方。槍の出どころも気づかれているんだろうな。槍の攻撃を涼しい顔でいなしつつ、私にも雷撃魔法が放たれた。雷撃を身体の周辺にシールドを張って防ぐ。この威力なら防ぐのは難しくない。なんだか手加減されているような。それが妙に悔しくて、無意識に頬を膨らませてしまう。   





 私を殺すには手ぬるすぎる。





 風の魔法を放って、天使様の動きを止めようとする。だが、この魔法も消去されてしまった。槍は、私が天使様を傷つけたくないと言う意思を汲んで、加減しながら戦っている。だが、天使様は槍を壊す事には抵抗が無いのか、槍自体には強烈な攻撃魔法をお見舞いしている。やっぱり強い。このままじゃ、槍の方が危ない。


「リボンに戻って!」


 私が命じると、存外素直にリボンに戻ってくれた。自分から私の髪へと結ばれてくれる。ただ、私が危険だと思ったらすぐ出るぞ、という圧は感じた。


 天使様は一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに私に向かって水で出来た竜を差し向けてきた。なんか格好いいなその魔法! 感動してしまうが、寸でのところで水の竜を熱して全部水蒸気に変えてしまう。


「どうして槍をしまったの?」


「この槍に対しては、天使様は手加減しないみたいですから」


 ニッコリ笑って言っておく。私の声音に若干の非難が混じっているのは分かっているのか、天使様はちょっと顔を反らした。


 やはり星空の瞳には迷いが見える。天使様の優しさを利用するのは心苦しいが、どうにかしてこっちの仲間に出来ないかな。色々とこの世界の情報や、愛良さんを捕えている組織について、有益な情報をもたらしてくれるのは確実だ。ぶっちゃけ仲間にして、これほど心強い戦力はいないと思う。









「世界樹を蘇らせることになんの不都合があったのですか? 世界樹が枯れると、この星は遠からず滅びを迎えるのでしょう?」


「この世界を崩壊させるのが、俺の主人の望みだからね。でなければ、マナ様を解放できない」


 白木さんのお名前が出て来た。やはりそうか、と心で頷く。天使様のご主人様は、白木さんの姉である鴻池さんで間違いないようだね。


「なにもこの星を滅ぼさなくてもいいと思います。さっさとこの星を見限って逃げればいいじゃないですか」


「それが出来るならとっくにそうしているさ。マナ様は特に重要な神格を有する神だ。本来なら地球へ行く許可などとても下りない。厳重に神殿の中で囲われて守られていなければならないお方だ」


 白木さんって確か魔術の神なんだよね。妹がそんな一生閉じ込められるような生活を送らされたら、それは世界滅ぼすかってなるのかなー? 私だったら、一緒に逃げようってなるけど。

 うん。でも、うちのお兄ちゃんもちょっとやりかねない危うさがあるな。これが、長子と末子の性格の違いってやつか。気づきたくない事実に気づいてしまったな。


 なにか契約があるのなら、うちの家宝の力でなんとかなるかもしれない。


「世界樹を甦らせた私は、鴻池さんにとってはとんでもない邪魔者のようですね」


 そこで、ふと思う。世界樹を甦らせた私に殺意が向くのなら、世界樹の守護者たる森の精霊王様はもっと邪魔じゃなかろうか。

 明陽さんは、精霊王様が眠り続けていた原因は呪いだと言っていた。眠りの呪いをかけて、世界樹に魔力を送れないようにしていたのなら。

 魔力を解析したさい、呪いの元は鴻池さんではなかった。目の前の天使様の魔力もとても強い。精霊王様の魔力も凌駕している。彼なら精霊王様を呪うことも可能だ。そして、彼は鴻池さんに仕えている。

 まさか。


「森の精霊王様に眠り続ける呪いをかけたのも、天使様ですか?」


 天使様は静かなまなざしで私を見つめる。

 沈黙が答えだ。私は深々とため息を吐く。天使様はそっと目を伏せた。


「お話は終わりだよ。悲しいけれどお別れだ」


 北斗七星が刻まれた剣が煌めく。その光景はあまりに神秘的で美しい。剣を掲げた天使様の姿って、私よりよほど神様らしいな。

 再び槍に変化しようとするリボンを握って止める。やっぱり私は天使様と傷つけたくはないよ。なら、他の方法を考えるだけ。とある佐藤家の家宝を召喚しようとしたところで、私と天使様の間に金色が割って入った。


「姫様、こういう時こそ我を呼ばないとダメですよ!」


 金烏さんがふわりと元の剣の姿に戻る。しまった。金烏さんに気付かれた。なんとか穏便に済ませる方向で話を……。天使様もなんで急に好戦的な表情になるの。金烏さんと戦うのは嬉しいのか!?


 そこでゾクリと背筋が震えた。とんでもない殺気に、身体が自動的に戦闘モードに入る。まさか、まだ敵が!

 天使様もハッとした顔をすると、剣を構え直す。








「俺の大事な大事な妹に何をしようとしたのかな」


 目が笑っていない、超絶笑顔のお兄ちゃんが音もなく現れた。いや、怖い! 久しぶりに殺人の神としての本性が出てないか!


 当たり前のように私はお兄ちゃんの後ろに庇われる。


「良かった。ケガはしていないみたいだね」


 まだお父さんじゃなくて良かったけど、面倒なお兄ちゃんが来てしまうとは。天使様の命は私にかかっている!




 私は拳を握り、お兄ちゃんへの交渉に向けて気合いを入れた。

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