救出ミッション、発動!
その後、私と白木さんはガッツリ握手を交わして末っ子同盟を結んだ。今まで以上に彼女と仲良くなれて私は大変幸せである。
白木さんに案内されて、愛良さんが囚われている城塞へと向かう。見張りの兵士に見つからないように、遠くの丘の上から砂色のお城を眺める。延々と続きそうな砂丘を背景に、緑の木々に色どられた三日月型の城塞が広がっていた。ふむ、あそこか。見渡す限り周囲に建物は無い。砂漠の真ん中で見事なまでに孤立している。隠すならいい場所かもしれないな。
「ナツメヤシが茂る林の中にある、日本とは異なる建築様式の城塞かー。旅情をそそられるな。こういう時じゃ無かったら観光したかった」
花楓君が悔しそうに拳を握る。最近、彼は唐突に古城の魅力に目覚めたそうだ。なお夏休みには、気になるお城を見に行こうと旅行の計画を立てている。まずは資金を集めるためにキャンプグッズのお店でバイトもしているらしい。
「潜入と逃走のルートは皆様頭に叩き込まれましたね? 今回の目的はあくまで愛良様の奪還ですから、くれぐれも余計なことはしないように」
一石五鳥くらいの利益を狙いそうなお兄ちゃんが、ちょっとバツが悪い顔をした。
「もしかしたら、羽月もあの建物の中に潜入しているのかもしれないな。危ない目にあってないといいけど」
「それも心配ですよね。菖蒲様とも合流して、さっさと愛良様を助け出して日本に帰りましょう」
どうか皆無事でいて、と私は祈るような気持ちで遠くの城塞を見下ろした。
「何もこんなコソコソしなくても、花楓の洗脳能力を使えば一発だったんじゃないかな」
暗い天井裏を進んでいるとお兄ちゃんがポツリと漏らす。盲点だった、と花楓君がハッとした顔になる。
「でも、ぶっちゃけこの城の中にどれだけ人数がいるか分からないしな。こんなに大人数に能力を行使したこともないし。俺の能力に耐性がある奴だっているかもしれない」
「その時はその時だ。敵の人数が少しでも減らせたら有難い。大体、お前前に全校生徒と教職員すべてに能力を使って成功させたんだから、数はネックにならないんじゃないか?」
「それもそうか。だがいいか、お前ら。術が失敗しても俺を恨むなよ」
真面目な光を放つオレンジの瞳が念を押してくるので、私たちはコクコクと頷いた。
それを見て花楓君が歌を口ずさみ始めた。心地のいい、澄んだ歌声が辺りに響き渡りもっと聴いていたくなる。
魔力でこっそり下の様子を透視すれば、兵士たちは皆一様に動きを止め恍惚とした表情で花楓君の歌声に聞き入っている。これは、術が成功してないか? さすが、魔王の息子。
「これで俺たちの姿を見ても、日常の風景の一部としか認識されなくなったぞ」
「ありがとう。なら、城の最深部にある檻までには問題なく進めそうですね。注意を怠るべきではありませんが」
檻って。なんかすごく嫌な単語が聞こえて来たな。
白木さんはそう言うと、天井裏をゆっくりと進み始めた。多分、檻の近くギリギリまでまだ安全そうな天井裏づたいに進むのだろう。このミッションは失敗できないのだから、その慎重さも当然だ。
その後は皆無言で天井裏を突き進む。幸いと言うか、花楓君の能力が効いているのか特に見つかることもなく道中戦闘になることも無かった。
「そろそろ降りましょうか」
白木さんはそう呟くと、先導するように天井の板の一部を外し、床に音もなく飛び降りた。ちょっと凄腕のスパイみたいな身のこなしで格好いいかも。
次にお兄ちゃんが飛び降りると、私に向かって腕を広げてきた。まったく過保護なんだから。その腕に向かって飛び降りれば、危なげもなく優しく受け止められる。そのまま、ゆっくりと床に下ろされた。
ひらりと一瞬風が動いて、危なげなく花楓君も隣に降りて来た。魔法でずらした天井の板も元通りに直してくれる。
「しっかし、凄い廊下だな。こんな人通りが無い場所なのに手を抜いてない」
花楓君に言われて周りを見渡せば、確かに壁には植物や動物をモチーフにした精緻な彫刻が隙間なくびっしりと彫り込まれていた。マジ、芸術品。ラクダに乗ったキャラバンの意匠は、砂漠の遊牧をイメージさせる。エキゾチックな雰囲気に好奇心がいやでもくすぐられるな。
「ここから愛良様の囚われている研究施設まではすぐ近くです。警備も今まで以上に厳重になりますので、気を引き締めていきましょう」
廊下を抜き足差し足忍び足で進んでいくが、全くもって人に会わない。ここまで順調に城内の奥に進めてしまうと、どうしたって罠を疑ってしまうな。緊張感がピリピリと高まってくる。
ガチガチに強張った私の様子を察して、お兄ちゃんが頭を撫でてくれる。ナデナデ好き。心にポッと暖かいものがこみ上げてきて、煩かった心臓の音が落ち着いて来た。
「この扉が研究室の入り口です」
そんなことをしていたら、早々に研究所の前まで着いてしまった。これはもう花楓君の洗脳能力のお陰と思うようにしよう。緊張しすぎても本来の力を発揮できないし。
白木さんは懐から金色のカードを取り出すと、扉に着いたスキャナーにかざした。小さくカチリと音を立てて扉が開く。
室内は、おおよそ研究所と聞いて思い浮かぶような典型的な内装だった。よく分からない色々な色の薬品が戸棚に整理して置かれ、巨大な機械がよく分からない計算式や解析結果を出力し続けている。そして、部屋の中央には武骨な鉄格子で囲まれた巨大な檻があった。
その檻の中には、無数の赤い目を爛々と輝かせた巨大な黒い触手の塊がうごめいていた。




