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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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砂漠の灼熱蜃気楼

 目の前には広大な砂漠。鳥取砂丘ってこんなかんじなのだろうか。いや、この何処までも黄金の砂が続く光景はサハラ砂漠かな。ラクダが隊列を組んだキャラバンが今にも現れそうだ。


「もう呪いが始まっているのか」


 ゲンナリした顔でお兄ちゃんが盛大なため息を吐いた。金烏さんは気づかわしげにお兄ちゃんの周りを飛んでいる。


「お兄様?」


「大丈夫。封印が解けるということはこういうことだと分かっていたのだから、予想の範囲内だ」


「とりあえず、誰か人がいる場所を探しませんか? まずは情報を集めないと、愛良様が囚われている場所も分かりませんし」


「そうだな。あ、丁度良く建物が有るじゃん! 上手く行けば第一町人に出会えるかも!!」


 花花楓君が意気揚々と指さす先には、砂色の楼閣のような立派な建物が見えた。それ以外に、人が住んでいそうな街並みは今のところ見えない。


「あの建物は罠だから近づいてはいけないよ。一瞬で魂ごと焼き尽くされる術式が張り巡らされている」


「え、それは天使様たちが私たちが来るのを見越して罠を張ったということですか?」


「いや、愛良の呪いだろう。この辺り一帯が一気に砂漠と化したのも、完全に堕ちた神になってしまった愛良の魔法によるものだ。……だからこうなるって言ったのに、鴻池さんったら聞きゃしないんだから」


 お兄ちゃんが顔を顰める。愛良さんの状況って相当マズイのではないだろうか。ま、一方的に搾取されるのではなくこうやって仕返しが出来るのは頼もしいけどね! 元気でよろしい。


「放っておけば、時期にこの星の全てが熱砂に飲み込まれるだろう」


「流石火の神。怒らせると凄まじいな。でも、あの優しい神様がそこまでするのか」


 花楓君が半信半疑といった様子で首を傾げる。


「愛良は俺の中に封印されている事で無理やり正気を保たされていた状態だった。完全に堕ち神になってしまった彼に会って話が通じるのかどうか」


「では、その時は私の出番ですね」


 元より私は神様の願いを叶えるために生み出された存在だ。だから、私は生まれて来た意味を果たすためにも愛良さんに会わなければいけない。より、決意を固めて拳を握る私の頭をお兄ちゃんが撫でて来た。


「そんなに自分だけで背負わなくていいんだよ。俺はそもそも愛良の器だったし。だから、俺にもちゃんと分けて」


「ありがとうございます。これは失敗できない案件ですから、私だけで出来ないならちゃんとお兄様に頼らせて頂きますね」


 私もお兄ちゃんの頬に手を伸ばし、確かめるように撫でる。未だ、違和感のある兄の夜色の瞳を決意を込めて見つめる。


「お二人さーん、俺もいるからねー。忘れないでねー」


「勿論、花楓様のことも頼りにしていますよ」


 何を今更な事を。そう思って首を傾げる。何故だか疲れたようなため息を吐かれてしまった。


「このラブラブ兄妹が。俺の性癖が狂ったら君たちの責任だからな」


「我々が慣れるしかないと思われますぜ。この兄妹の関係に関しては」


 花楓君と金烏さんは一体何を言い合っているのだろう。


「ま、このままここに居てもしょうがないし。先に進んでみるか」


 お兄ちゃんの後に続いて皆が歩き出す。私も後に続いたがふと気になって楼閣を振り返った。私たちを獲物に出来なかったからなのか。砂色の建物が黒い影に呑まれると、それが蜃気楼のように揺らいで消えた。






 天使様がこの場所を指定したのならば、きっと何か理由があるはず。まずはそれを見つけないと。


 しばらく砂の道を歩いていると、玉ねぎ型の金色のドームをいくつも持つ建物が姿を現す。なんとなく、イスラーム教のモスクに似ている。壁は様々な濃淡の青のタイルで覆われていた。



 空の青、海の青、南国の青、花の青、ソーダの青、キャンディーの青、氷の青、雨の青。



 こう見ると、青と一口に言ってもその色はグラデーションによって様々な表情を見せるのだなと思う。


「綺麗だな。神聖な空気を纏っているしここは神殿かなにかか?」


「ここは豊穣の神としての菖蒲ちゃんを祀った神殿か。何か手がかりがあるかも。入ってみよう」


「え、おい! 薺ったらなんで分かるんだよ」


「見れば分かるじゃないか」


 うんざりした口調でお兄ちゃんが壁の一部を指さす。そこにはモザイク画で、大きな青い鯉のぼりの姿が描き出されていた。これは、どう見ても菖蒲さんだ。







 神殿の中に入ると、水の中に飛び込んだ時のように一気に涼しくなった。ギラギラ太陽に照らされた身としては有難い。ここは息がしやすい。


 どこか湿った、冷ややかな空気。神殿の天井にも、赤や黄色、緑に黒、オレンジといった色とりどりの鯉のぼりが一面に泳いでいた。純白の大理石が覆う内装は、金とクリスタルが飾られた随分と華やかなものだ。壁一面にモザイク画で花の紋様が施されているのが素敵。ステンドグラスには青紫色の菖蒲の花が美しく咲き誇っている。


 アラビア文字に似た文字で何やら壁に説明書きが施されていた。文章が瞬時に脳内で日本語に変換された。


「春と幸いをもたらす神の妹神にあられ、豊穣を司る青き魚の姿をしておられる。アヤメ様が空を泳ぐことで地上に穀物の種がまかれる。土地を潤し作物を実らせる力を持つ、ですか」


 菖蒲さんって作物の実りを司る重要な神様だったんだな。この星の人の胃袋は彼女が握ってそうだけど、長らく地球にいたからこの星の人々は大丈夫だったんだろうか。


「皆様、お揃いのようですね。遠き地球からよくおいで下さいました」


 突然の第三者の声に反射的に振り返る。金烏さんが再び刀の姿をとる。お兄ちゃんと花楓君が庇うように前に出た。


「白木···さん?」


 中学の同級生である彼女はただの人間のはず。どうしてここにいるの? たどり着きたくない最悪の答えが浮かぶのを脳が拒否する。


 白木さんは、聖職者を思わせるアイボリー色の上品なワンピースを身にまとっていた。袖口の鍵の装飾と、洋服の金ボタンとスカートの裾の金色の葉のレースがクラシカルな印象を抱かせる。


「ごきげんよう。私は白木(しらき)真愛(まな)と申します。この星において魔術を司る機械仕掛けの神ですわ。どうぞ、よしなに」


 そう自己紹介を済ませると、彼女は私の知らない笑顔で微笑んでみせた。

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