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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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揺らぐ、炎の感情色

 許さない。私の大切な人を傷つけるのであれば、誰であろうと許さない。何処までだろうと追いかけて復讐を遂げなければならない。


 神としての、権能が目覚める。


 荒れ狂う魔力とは裏腹に思考は酷く冷静だった。まずは、お兄ちゃんを安全な家に連れて帰る。それから愛良さんを助けないと。そうと決まれば、天使様の故郷である惑星に殴りこみじゃ!!


 眼鏡を外して、亜空間の中にしまう。そして、よいしょとお兄ちゃんの身体を抱き上げた。その時だった。


「姫様ー!! ちょっと、魔力抑えてください!! 辺りが大変なことになってますよー!!」


 金烏さんが教室の中に飛び込んでくる。ハッとして周りを見渡せば、私から漏れ出る魔力に耐えきれずに空間が歪みだしていた。いけない。いけない。ふーっと息を吐いて魔力を抑え込む。この魔法は、元凶にぶつけるまでは温存しておかないと。


「あー。とうとうあの偽物本性現しやがったんですね。間に合わなかったか」


 金烏さんが心配そうにお兄ちゃんの顔を覗き込む。次いで、その瞳が私に向く。


「でも今は我を扱えるほどに魔力が強くなっている。兄の魔力を食べられたのですね」


「はい。でも、お兄様は前から少しずつ私に魔力を与えていたようですわね。でなければ、この量の魔力がこれほど早く身体に馴染むわけがございませんもの」


「あー、気付かれない量を毎度ごはんに混ぜてたからな」


 お兄ちゃんったら。一歩間違えばとんでもないヤンデレである。今回は必要に迫られてだろうから変な誤解はしないけどさー。頼りない妹でごめん。


「ところで、姫様なんだか雰囲気が?」


「おい、薺に夕理ちゃんは無事か!」


 慌ただしく花楓さんが飛び込んできた。その後ろには周りを殺さんばかりの凶悪な目付きで睥睨(へいげい)する菖蒲さんがいた。


「私は怪我一つありません。お兄様に守って頂きましたから」


「そう、そうか。なら、良かった。けど、薺が完全に電池切れしてるな。重いだろう? 代わるよ」


 花楓さんがお兄ちゃんの身体を受け取ろうと、手を伸ばしてくる。 


「申し訳ありませんが、お願いいたします。どうか、花楓様と菖蒲様はお兄様を家まで連れ帰って下さいな。その際、家族に今日は帰らないと伝えて頂けると助かります」


「その口調。冷静に見えて夕理ちゃん、実は相当怒っているな」


 当然だ。


 私は普通に怒っている時は口調が普段より荒くなる。しかし、限界を突破した怒りを覚え、絶対に許さないと思った時には逆に冷静になる。そして丁寧過ぎるほどに丁寧な、それこそ育ちの良いお嬢様か何かのような言葉遣いになるのだ。  




 そこでがしっと頬を掴まれた。そのまま、むにーんと餅か何かのように伸ばされる。手加減はされているから痛くはないが。


「なに勝手に俺を置いて行こうとしているの」


「あ、お兄様。気が付かれましたか? 良かったです。でもまだ、無理をしては」


「妹にばかり危ない真似をさせる訳にはいかないだろう。もう大丈夫だから、下ろして」


 私は更にお兄ちゃんを抱く腕に力を込める。これで容易く逃げられまい。 


「嫌です。これは罰ですわ。私に黙って色々していた事に対するね」


「あ、えっと。ごめん?」


 お兄ちゃんが頬から手を離してくれた。私はお兄ちゃんの身体を抱えなおす。これで意志は通じるはずだ。


「ごめんなさい。私の同胞が薺に危害を加えたのね。あとは私が引き受けるから、夕理と薺はお家に帰りなさい。ご家族の方が心配なさるわ」


「一発殴らないといけないから無理」


「私も復讐を果たさなければなりませんから。それに、愛良様をお助けしないと」


 私たちの返答は分かっていたのか、菖蒲さんが盛大なため息を吐く。


「全くこの兄妹は。でも、どうせ私の故郷の星は分からないでしょう?」


 まぁ、確かに。皆が教えてくれなかったからね。慈愛の籠った眼が私と兄を見ると、菖蒲さんは私の頭を一撫でした。


「兄さんと協力して必ず愛良を連れ帰って来るわ。だから心配しないで、ここでお留守番していて。私は貴方達に怪我をしてほしくはないの」


「そんなの、私も」


 言いかけた言葉は、唇に人差し指を押し当てられて言えなかった。菖蒲さんは淡く微笑むと、青い鯉のぼりの姿に戻った。光に包まれて教室から消えうせる。


「って、羽月は言ってるけどこのまま人任せにするつもりは無いんだろ」


 妙におとなしい私を見て、花楓君は何か策が有ることを察したらしい。置いて行かれるものかと、私の首に周る兄の腕に力がこもる。もう、分かったってば。諦めて、ポンポンと兄の肩を叩く。



 私の策というのも本当に安全な訳じゃないから、頃合いを見ていざとなったらお家に返そう。きっと、優しい二人は怒るだろうけど。




 天使様と訪れた高千穂。彼があの時言った言葉がカギだろう。









「お姫様ー、ちょっとお人よし過ぎませんかー。まだ奴の事信用するんです?」


 転移魔法で花楓さんやお兄ちゃんともども、私は宮崎県の高千穂を訪れていた。本当は家に帰って必要な準備をしたいが、家には今お父さんがいるからな。私のしようとしていることを的確に見抜いて、確実に止めに来る。私が弱いと知っている涙を躊躇なく武器として使ってくるのは明白だ。さすが私の親。勝ち目などない。 


 なお、さすがにワンピースで戦闘出来る気はしなかったので、学校傍の洋服屋さんで動きやすそうな服を買って着替えている。元気が出るオレンジ色のパーカーは密かに気に入っている。お兄ちゃんたちも制服を汚さないように、Tシャツとズボンを新たに購入して着替えている。あとはリュックに食料品と水の入ったペットボトルを詰めて準備した。心もとなさ過ぎる装備な気がするが、あまりガッチガチに戦闘準備しても警戒されるだけだ。嘗められるくらいで調度いい。



 準備を終えて向かった転移先は天安河原だ。人の手によって積み上げられた石の塔が周りを囲むように立っている。いつ見ても、異様な光景だ。岩屋の奥に迷うことなく進む。濃密な魔力の気配。きっとここが入り口だ。


「何かの罠かもしれませんよー。他の方法考えましょうよ!!」


「裏切られた方が都合が良いのです。そしたら、私の力の糧になる」


「それが目的だったのか。だから、俺を連れて行きたくなかったの」


 私は答えず、花楓さんに目線を向ける。


「これより先に何が起こるのかは分かりません。今からでも間に合いますわ。花楓様だけでもお戻りに」


「乗り掛かった舟だからな。それに俺もそこのシスコンと同じで、置いて行かれるのに耐えられそうもない」


 陽だまりみたいな笑顔で、わしゃわしゃと頭を豪快に撫でられた。目頭が熱くなる。私の周りの人は本当に優しい。だからこそ、神として彼らを守っていかないと。


 天使様の髪の毛で出来たブローチが独りでに目の前に現れた。案内をするかのように目の前をフワフワと漂う。私はそれに黙ってついて行った。


「これは……」


 お邪魔します、と声をかけてから鳥居と祠の先を進む。大岩の洞窟の奥は壁だった。しかし、ブローチの光に反応するように淡い魔法円が浮かびあげる。


「転移の魔法陣。こんな所に有りやがったのか!」


 金烏さんが悔しそうにうなると、元の黄金の刀の姿に戻った。ピリっと空気が変わった。


「見たところ、この魔法陣事態に変な魔法は組み込まれてないが。あの野郎が教えた場所だからなー」


 金烏さんはまだ信じられないようだ。本当に慎重。でも私が楽天的過ぎるから、相棒はこれ位がちょうどいいのかもしれない。


「準備はよろしいでしょうか?」


 お兄ちゃんと花楓君、金烏さんの顔を順繰りに見て私は尋ねる。しっかりとした頷きが返って来た。心が騒めくが今ここで二人を止めてもどうせ無駄だ。いずれ好機はある。


「我はお姫様に着いていきます! 死ぬときは一緒です!」


「縁起でもない事言わないで。夕理さんは俺が守るよ」


「魔力ほとんど無い癖によく言うぜ。仕方ないから今回は俺が二人まとめて守ってやる」


「ありがとう。では、行きましょう」


 転移の魔法陣に必要な魔力を注ぎ込む。魔法陣が黄金に輝く。術が発動し、気づけば私たちは広大な砂漠の中に立っていた。

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