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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
140/170

芽生えたかもしれない恋と、紫陽花の涙     前編

野良猫の連載を始めて今日で2年目です。いつも読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

 今日はお兄ちゃんの高校で文化祭がある日である。私もお兄ちゃんの奮闘ぶりを見てやろう、と文化祭に遊びに行く事にした。



 今日の格好は、『不思議の国のアリス』を思い起こさせるダイヤ柄のジャンパースカートにしてみた。まぁ、でもリボンは小さめだし、色も黒でシックな雰囲気だからそこまで子どもっぱくは見えないと思う。それから、ホワイトデーの時に愛良さんに頂いた、アネモネのヘアピンを付ければ用意は出来た。 


「おや、素敵なアリスのお出ましだね。とっても可愛いよ。夕理さんも出かけるの?」


 階段を下りたところで、洗濯物入れのカゴを抱えたお父さんと鉢合わせした。


「うん。こっそりお兄ちゃんの学校の文化祭に行って、驚かせようと思って!」


「そっか。薺君も夕理さんが来てくれるなら喜ぶだろうね。でも、危ないから暗くなる前には帰っておいで。遅くなるようなら薺君と一緒に帰るんだよ」


 心配しなくても私なら大丈夫なんだけどなと思うのだが、ここは真面目な顔で頷いておく。


「今日の夕食は薺君の好きな角煮を作るから、楽しみにしておいてね」


「わーい! お父さん大好き!」


 時間がかかるからと滅多に作ってくれないメニューの登場に、私のテンションはMaXまで高まった。

 家を出て、普段とは反対方向の道をどんどん歩いていく。最後に長い長いけど緩やかな坂道を登って行けば、華やかに飾られた門が出迎えてくれる。その奥には、カフェオレみたいな色をした巨大な校舎も見える。第一高校、お兄ちゃんが通う高校に到着だ。



 門に入ってすぐの受付で、文化祭実行委員の生徒さんからパンフレットをもらう。中身を見れば、校舎内の地図と模擬店の種類、ステージイベントのタイムスケジュールが載ったそれはそれは有難いものだった。

 うーん、ソースの美味しそうな匂いがしてると思ったらたこ焼き屋さんがある。へー、カレー味のホットドックにクレープ屋さんも迷うな。天文部の部長を務める花楓君が、部員と協力して頑張って作ったと言うプラネタリウムは絶対に見たいし、お兄ちゃんのクラスの劇も必見だ。となると、どう周るべきか。

 ショルダーバックからボールペンを取り出し、気になる場所をピックアップした後で一番効率的に回れるルートを組み立てる。それから、そのルートを地図に書きこんで計画を立て終わったところで一息つく。

 ふむ、まずは外に出ている屋台でたこ焼きとクレープを堪能した後、1階の美術部の展示を見に行こう。







「あれ? 夕理ちゃんじゃん! 来てたんだ」


 たこ焼きを頬張っていると、プラネタリウムの看板を手に呼び込みをしていた花楓君に会った。


「この後11時からプラネタリウムの上演があるから是非見に来てよ! 投影する星のプログラムまで組んだ自信作だぜ」


「勿論、楽しみにしていたから見に行くよ」


「あー、あと調理部が作るチュロスは美味いから、それは食っとけ。毎年すぐ無くなるから早めに行ったほうがいい」


 おー、それは楽しみだ。チュロスって確かスペインのお菓子だよね。食べたことないけど、花楓君のオススメなら美味しいんだろうな。


「ところで、クラス劇の白雪姫では花楓君が王子様役だって聞いたけど、それは見に行かなくていいの?」


「いいよ、恥ずかしい‼ あー、くそ。俺くじ運悪くない筈なのに、なんでこんな面倒な役引いちゃったかなー。絶対薺が適任だろ!」

 むしろくじ運が良いから花楓君が王子様なのでは? 黙っていればイケメンだしさ。でも、お兄ちゃんが王子様なのも素敵だろうな。








「いいか。見に来るなよ。絶対見に来るなよ」


 これがフリでなくて何だと言うのだろう。








 午後になって、体育館ではいよいよお兄ちゃんのクラスの劇が始まった。鴻池さんが主役の白雪姫らしく、腰の赤いリボンが印象的な白いドレスに、水晶がキラキラと虹色に輝く可憐なティアラを着けた彼女は、衣装の美しさにも負けない可憐なお姫様だった。

 ボーイッシュな話し方をされるから、なんというかギャップが凄い。ギャップといえば、悪い女王役は菖蒲さんだったのだが、これが熱演過ぎて会場がドン引いていた。菖蒲さん、演技上手だったなんて知らなかった。

 お兄ちゃんが頑張って描いたであろう背景も、細かい描きこみが凄くて一枚の絵画として十分売れそうだ。特にお城が素敵で、こんなお城に住みたいと思ってしまった。




 なお、花楓くんの王子様だが出てきた瞬間女子の一部男子の黄色い悲鳴が会場に響き渡ってある意味伝説だった。イケメンに王子様の衣装は殺傷能力が高過ぎる。


「あれ、夕理さん劇見に来てくれてたんだね」


 劇が終わったところで、一言だけでもお兄ちゃんを労おうと私は舞台袖に顔を出した。すぐにお兄ちゃんが気付いて声をかけてくれる。


「え、なにその後光が差してそうな美少女! あ、わかった。佐藤くんの噂の彼女でしょう?」


「違う、違う。俺の妹だよ」


 お兄ちゃんに目線で促されたので、私はニッコリ笑って自己紹介する。こういうことは、最初が大事だからね。


「はじめまして。薺の妹の佐藤夕理です。いつも兄がお世話になっています。今日は、素敵な劇を見せて頂きありがとうございました」


 皆さんは口々に「よろしくね」と笑って挨拶を返してくれた。


「うわ、声まで可愛いとか流石佐藤の妹」


「このお淑やかな雰囲気、本物のお嬢様みたい」


「佐藤の血筋は美男美女しか生み出さないのか、恐ろしいな」


「彼氏いるの? なんなら俺、立候補」


「妹は絶対にやらないからな」 


 お兄ちゃんが急に低い声を出したのにビックリして、慌ててお兄ちゃんの方へ振り向く。


「見てよ、夕理さん。俺、背景だけでなく小道具の林檎とかも作ったんだよ。これとか発泡スチロールで作ったけど、めちゃ上手じゃない?」


 お兄ちゃんがぐいっと目の前に先ほども見た真っ赤な林檎を見せてくる。これ、本物かと思ったけど違ったんだ。


「うわ、凄いね! 本物みたい。結構作るの大変だったでしょ」


「もう本当頑張った。夕理さん、ご褒美頂戴」


 ねだるように、私の頬をお兄ちゃんが撫でてくる。次いでにムニムニと手で摘ままれる。痛くはないので嫌ではないが、これは相当お疲れだな。


「今日は私が髪乾かしてあげようか。ついでに肩もみもするよ」


「うーん、もう一声!」


 本当に甘えん坊だな! どうしたんだ。え? 他に考えられるものは何があるだろう。今日の夕食はお父さんが作るって言っていたし。あ、そうだ!


「じゃ、明日の夕食は私が作るね! 家庭科で作らないといけないから、1回オムライスを作っておきたかったんだよね。明日の夕食は楽しみにしていて!」


「わかった。夕食の時は愛良と交代するね」


 それは一体どういう意味なんだろう。思わず、背後に冷気を帯びる。

 こら、ぎゅっと抱きついてきても誤魔化されないからな!


「意外。佐藤くんって妹さんにはあんな風に甘えるんだ。なんか、可愛いかも」


「分かるー。普段は年上みたいでいかにもしっかりしているお兄ちゃんって感じなのに、今は弟みたい! 頭撫でてあげたい」


 微笑ましそうな目線が此方に向いているのに気付いて、私は慌ててなんでもないよというように笑った。


 菖蒲さんと花楓くんを労い、片付けの邪魔をしてはいけないとそろそろ大人しくこの場を去ろうとしたところで。


「あれ、ティアラがない! 演劇部から借りた物だから返さないといけないのに‼」


「明日演劇部が舞台で『カエルの王さま』をするから絶対返さなきゃいけないのに、まずいじゃん!?」


「よく探したのか? その辺に置いたままになっているとか」


 あらら、俄に騒がしくなってきた。


「舞台の方、見て来るよ! 隅の方に落っこちてるかもしれないし」


「ねぇ、最後までこのティアラ着けてたの真生だけだよね? そういえば、劇終わった後真生どこ行ったんだろう」


「それなら、演劇部に自分でティアラを返しに行ったんじゃない?」


「そう思ってラインしたんだけど既読付かないの」


「電話も出ないし」


 なんだか、部屋の空気が悪くなってきたな。お兄ちゃんが気遣うように私の肩を叩いてきた。


「夕理さんは、文化祭を楽しんでおいで。このあと、外のステージで軽音楽部のライブがあるはずだから」


 でも、皆が困っているのに見ないふりするのはな。私は部外者だけど、このままじゃ気になってお祭りを楽しむどころじゃないだろうしな。よーし、決めた‼


「私もティアラ探すの手伝わせてください!」

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