愛情たっぷりごはんは、大好きな恋人へ
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。皆様にとって2022年が素敵な1年でありますように。
天使様とのお出かけからもうすぐ一週間が経とうとしている。未だに最後のアレは夢であって欲しいと思っているのだが、ブローチが現実だと声を大にして伝えてくる。
お父さんとお兄ちゃんはこれを見て「燃やしてしまえ」と言ってきたが、天使様の優しさが形を取ったものなのだから、わたしは断固として反対した。このブローチは一生大事にするのだから。
なので、学校に行くときもカバンに入れて密かに持ち歩いている。流石に人目がつくところで使う勇気はなかった。
6月20日、金曜日。そろそろ、給食が待ち遠しくなる三時間目。我がクラスは家庭科の授業だった。端末にレポートのひな型が送られ、それを示しながら先生がこれからの授業内容の説明をする。
「三週間後に、授業を2コマ連続で使用して調理実習を行います。テーマは自由ですので、レポートにテーマと作りたい料理の写真、作り方、そして材料を記入して来週の家庭科の授業が終了するまでにクラスボックスまで提出してください」
へー、なんでも作っていいんだ。席順で振り分けられて6人のグループを先生が作ってくれた。早速メンバーで机をくっつけて、レシピサイトや動画を見ながらあーでもない、こーでもないと意見を述べる。
「100分で作るとなると、デザートまで作れそうだよね。カレーとか?」
鷹島くんがのんびりした口調で提案する。
「在り来たりじゃない。そもそもまずテーマを決めてから、それに沿った献立を作った方がいいと思う」
白木さんの意見に皆が頷くが、そう簡単にテーマは出てこない。
「他の班見て来る」
考えるのに飽きたのか、早々に咲空ちゃんが離脱する。その足は彼氏のいるグループに向かっていた。あの班は早々に料理を話し合っているからテーマを決めたらしい。
「『誰もいない夏休み、男子中学生が作れたたら超絶カッコイイ料理』だって。今、ドライカレーのレシピ検索してた」
そういえば、あの班男子しか居なかったな。また、不思議なテーマを。
「明希のところはテーマ決まった?」
白木さんが体を伸ばして、隣の班に尋ねる。
「決まったよー。『調理に見る科学 ミステリーなお菓子5選』。化学反応を使った不思議なお菓子が色々紹介されてるサイト見つけたから、作ってみたくなちゃって」
おおう、それは期待が持てる。うちの班と一口交換してくれないかな、頼んだら食べさせてくれないかな。
「皆して雑誌のタイトルみたいなテーマにしてるのね。これはうちの班も負けてはいられないわ」
白木さんによく分からないやる気がみなぎっている。
「千星と作った料理交換する約束したからこういうのは? 『隠し味は愛情♡ 彼氏に食べて欲しいラブ増し増し料理♡』ってやつ」
「ティーン向け雑誌の特集に有りそうなベタさ。だがそこが良い」
白木さんのお眼鏡にかなったらしい。咲空ちゃんがガッツポーズをして喜んでいる。他に案も出なかったので、班のテーマはこれに決まったが、咲空ちゃん以外恋人がいないこのメンバーでこのテーマは中々チャレンジャーだよね。
「だったら、オムライスとかは? 作れたらちょっと株が上がりそう」
癖のあるセミロングのチョコレート色の髪をした和果ちゃんが、眼鏡の奥の瞳を煌めかせながらおずおずと提案してくる。
「オムライスか。赤にするか、黒にするか、白にするかそれが問題だ」
「オムライスってそんなカラーバリエーションあるの?」
仁科君が無言で端末の画面を見せて来る。赤は定番のケチャップで、黒はデミグラスソース、そして白は濃厚なホワイトソースやチーズソースをかけたものを指すようだ。
「後は、卵の包み方もドレス型とかあって面白いぞ」
「わぁ。何これ、可愛い!」
ドーム型に盛りつけた中のケチャップライスによって、ドレスを着た少女のようなシルエットになっている。これは作れたら自慢できそうだ。
「簡単なモノなら包まずに後から卵を載せるだけって言うのもあるわね」
オムライスだけでは寂しいので、サイドメニューもあれこれ料理サイトを見ながら話し合う。なお、デザートを何にするかで一番白熱した議論が展開されたのはご愛嬌だろう。
メニューはオムライスに野菜たっぷりのコンソメスープ、デザートはチョコバナナパフェに決まった。全員オムライスは作ったことがないので、堅実に一番成功確率が高そうな包まない作り方をチョイスする。玉子は被せるだけだが上手くできるかな。本番までに練習しよ。
なお、多数決の結果定番のケチャップオムライスだ。黄色と赤の組み合わせって可愛いよね。なんと、テーマに合わせてケチャップでハートを描くらしい。なんて大胆なんだ。可愛いハートが描ける自信が無いのだが。
レポートを完成させ、デスクトップのアイコンにあるクラスボックスにドラッグして提出したところで、調度チャイムが鳴った。やった、家庭科の宿題はなしだ!
授業と部活を終えた帰り道。お兄ちゃんとそのクラスメイトの姿を街で見かけて、思わず瞳の色を確認してしまった。良かった。今日は緑だ。私のお兄ちゃんだ。
「あれ、今帰り?」
「そうだよ。お兄ちゃんこそ凄い買い物だね」
両腕に2Lのペットボトルのジュースが三本ずつと紙コップが入ったレジ袋を抱えていた。
「明日からうちの高校は文化祭だからね。今日はその前夜祭というか、本番頑張ろう会と言う名の打ち上げが有るんだよ」
「ボクと佐藤はじゃんけんで負けちゃったから体の良いパシリって訳。ここのから揚げ買ったらすぐに学校に戻るよ」
二人が居たのは近所でも美味しいと評判のから揚げ専門店だ。甘辛い醤油と生姜に漬け込まれた鶏もも肉をさっくり揚げたから揚げは、確かに準備を頑張ったあとのご褒美で食べたくなるかも。
「まさか、ここで夕理さんと会えるとはね。ボクは鴻池真生。仲良くしてくれると嬉しいな」
前回会った時は名前聞いてなかったからね。可愛らしい容姿に似合うお名前だ。あと、白木さんと名前が似ているから勝手に親近感が。彼女の下のお名前は、真愛っていうからな。ま、苗字が違うから姉妹じゃないのは確かだけど容姿もどことなく似ている。他人の空似ってホントにあるんだね。
「はい、よろしくお願いします」
「二人知り合いなの?」
「前にボクが落としたハンカチを拾ってもらってね」
お兄ちゃんは納得したように頷いた。
「そういえば、文化祭ってお兄ちゃんのクラスは何するの?」
「白雪姫の劇だよ。俺は大道具係だから当日は舞台に運び入れるだけだけど。……しばらく絵筆は握りたくない」
おおう、絵を画くのが好きなお兄ちゃんが相当お疲れ気味だ。色々な場面を描かされたのかな。
「お待たせしました! から揚げです」
そこで、店員さんが大量のから揚げが入っているのであろう箱が入った袋を持ってきた。鴻池さんが受け取る。
「やっぱり、ボクだけ軽い荷物じゃないかな?」
「から揚げ持ってくれるだけで十分だって。このくらいの重さは全然平気」
ま、お兄ちゃん人間じゃないからね。余裕で大木を引っこ抜ける力があるのだから、ジュースくらい余裕だろう。
「腕の筋力凄いんだな。ボクも君の腕を食べたら力持ちに……」
「はいはい、そういう効果は無いからー」
鴻池さんは真剣な顔でお兄ちゃんの二の腕を見つめるが、お兄ちゃんは慣れた仕草で手のひらをヒラヒラさせた。
「じゃ、またね。今日は遅くなるから」
「夕理さんも気を付けて帰るんだよ」
「二人もねー。それじゃ」
「はー、今日のごはんも美味しかったなー」
お兄ちゃんが家にいないから、今日は久しぶりのお父さんのごはんだった。サーモンのクリームスープも好きだから嬉しい。ミルクの甘さとチーズのコクが溶けた優しい味のスープは、野菜もたっぷりで体にいいモノ食べている感が強い。デザートのフルーツポンチも美味しかったなぁ。
時刻は夜の八時を回ったところ。お風呂も入ったので、あとは明日の準備だ。さて、今日の宿題をしなければと、椅子に座って自分用の端末を立ち上げたところで窓がノックされた。
「あれ、オニキス君どうしたの?」
茶色のフワフワ毛並の撫で心地が最高な狼さんのオニキス君だ。普段は、もう一つの地球とも言うべき異世界で暮らしているから呼ばない限りあまりこっちに来ない、私の大事なお友達だ。
「夜分遅くにすいやせん、夕理さん!」
綺麗な45度のお辞儀を見せる。
「それは良いんだけど、何かあったの?」
「森の奥を歩いていたら見た事ない洞窟があったんで、好奇心に駆られて入ってみたんでさぁ。そしたら、洞窟を抜けた先に見た事ない妖しい花が咲いていたんっす」
そう言って見せて来たのはどう見ても赤い花を咲かせる彼岸花だった。夏の今に咲くとは珍しい。オニキス君から花を受け取り、オニキス君の身体を洗浄魔法で綺麗にしてやる。この花、毒があるからなー。
「これは彼岸花だね」
「流石夕理さん! やはりご存知だったんっすね!」
いえ、日本人ならほとんど皆知っています。でも、ヨーロッパの方では自生していないんじゃないかな。初めて見たなら、葉っぱもないしこの花の形は不思議かもしれない。
「綺麗な花だけどね、この花全体に毒があるから取り扱いには気を付けないといけないの。私の住んでいる国では田んぼやお墓の傍に植えて虫よけやモグラよけにしているわ」
球根などを食べてしまったら人間でも下痢や嘔吐の症状に襲われ、最悪死に至る。
「ひえー、おっかない花だったんっすねー!!!」
「でも、毒は皮膚から吸収するわけじゃ無いから触るくらいなら大丈夫。ようは、食べてはいけない花なの。美しい花だから私は好きだよ。花言葉もロマンチックだし」
「へー、どんなのなんですか?」
「思うはあなた一人」
「素敵な意味もあるんっすねー。こんな怖い見た目と毒の花なのに」
オニキス君的にはあまり好きな花とはならないようだ。
「咲いていたのはこれ1本?」
オニキス君はコクコクと頷く。どうせなら、花畑にしたらより幻想的だよね。私は軽く花弁に触れて魔法をかける。知識がないために間違って食べてしまったら大変だから、毒消しの魔法も追加する。上手く使えば炎症を抑える効果や利尿作用を持つ薬としても使えるけど、素人が安易に手を出すのは大変危険だ。
「これを元の場所に植えなおしてみて。秋にはきっと綺麗な彼岸花の花畑が出来ているよ。そしたら、一緒にお弁当持って見に行こう」
「分かりやした! 必ずや、この花を植えて綺麗な花畑を作るっす! それじゃ、お邪魔しやしたー!」
オニキス君は風のように去って行った。その速さに呆気にとられるがすぐに彼らしいな、と仄かな笑いが零れる。
秋に見られるであろう、赤い絨毯を脳裏に思い起こして私は浮かれた鼻歌を歌った。
活動報告にお正月のSSを載せています。宜しければお読みください。




