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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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蜂蜜とパンケーキ

 土曜日。私は朝からご機嫌で外を歩いていた。好きなバンドのライブDVDの発売日ということもあって、バスでショッピングモールに向かう途中だったのだ。





 バス停でスマホを弄りながら待っていると、時刻表通りにバスが来たので乗り込む。バスに揺られること20分で目的地に到着した。





 夏物のお洋服やアクセサリーを見ながら、目的のお店に向かう。無事DVDをゲットしてほっとしながらレジに並ぶ。帰ったらお兄ちゃんと一緒に見よう。

 お会計を済ませてレジを離れたところで、隣のレジで会計をしていた女性が、商品をバッグにしまった弾みでハンカチを落としてしまっていた。

 彼女は気づかずにお店を出て行くので、ハンカチを拾って慌てて追いかける。


「すみません、落とされましたよ!」


「え? あぁ、ありがとう」


 活発そうな印象の淡い茶髪のショートヘアの女性は、此方が怯むくらい随分と可愛らしい顔立ちをしていた。

 美術の教科書で見る少女の天使のようだ。年齢はお兄ちゃんと変わらないくらいに見える。女性は私をじっと見ると、間違っていたらごめん、と前置きしてから質問してきた。


「もしかして、佐藤薺くんの妹さん?」


「え、あ、はい、そうです。ひょっとして兄とは同級生なのですか?」


「ボクは佐藤とは同じクラスだよ。そうか、君がいつも佐藤が自慢している妹さんか。確かにこんな美少女だったら自慢したくもなるよね」


 兄は高校でもシスコンをすねらせていたらしい。知りたくなかった事実だ。


「本当に佐藤も君も魅力的だね。食べちゃいたいくらいに可愛い」


 属性が萌葱さん寄りなのかな。私は取り敢えずお礼を言っておいた。彼女がまたしても、じっと私を見つめてきて、なにやら検分されているようで居心地悪く思う。


「まだか。これなら間に合うか」


「え?」


「いや、なんでもない。また会おう、夕理さん」


 あれ? 私名前を名乗ったかな。お兄ちゃんが会話の中で私の名前を出したのかもしれない。

 一体学校でどんな話をしていたんだ、と帰ったらとっちめてやろうと思っていたのに、家で出迎えてくれたのは愛良さんだった。

 外に出てくるとは珍しい。どうしたんだろう?








「薺が疲れた、もう何も考えたくない! と言って深層意識に閉じ籠ってしまったんだ」


「それは、うちの兄が本当にすみません」


 ソファーに並んで座って事情を聞けば、疲れたようなため息を吐きながら愛良さんが答えてくれた。最近、中間考査に模試やら文化祭の手伝いで、プラネタリウム作りに駆り出されていたからいかに兄でも疲れたらしい。

 オマケに夕食も作ってくれたりしてるからな、少しは労らないといけなかったか。


「お休みだからお兄ちゃんはゆっくり休めばいいよ」


 たまには私が家事をしようと決意する。まずは、昼食から! と、そこでお昼は私と愛良さんしかいないことに気付く。

 お兄ちゃんも今日は悪い子モードみたいだから、私もそうしようか。

「真面目な兄の目も届かないしさ」

 私は身を乗り出すと、愛良さんの耳元で誘うように囁く。


「ね、今日は私とイケないことしちゃおうか?」







「お嬢さんがこんなに悪い子だったなんて、知らなかったな」


 入り口の扉の枠にもたれかかって腕を組みながら、愛良さんが呟く。その目線は私がテーブルに並べたモノに釘付けだ。


「潔白なだけの人間なんて面白みもなんともないよ。それとも、愛良さんはこういう私はお嫌い?」


「俺がお嬢さんを嫌いになるわけないだろう」


 食いぎみでの回答に、本当に仲良くなれたよなと嬉しくなる。見知った兄の顔なのにちょっとドキッとさせられたのは内緒だ。


「愛良さんも甘いものは好きでしょう?」


「うん、大好き」


 何処か蕩けたような声音と熱の籠った目線に、私もニンマリとした笑みを返す。これで愛良さんも共犯だ。


「では、今日のお昼ごはんとして、フルーツたっぷりパンケーキを作りましょう‼」


 戸棚からお高い蜂蜜も見つけちゃったからね。食べないのは勿体ないし、焼きたてパンケーキに一杯かけたら幸せな味がするはずだ。


「俺も何か手伝うよ」


 ボウルに卵と牛乳、ホットケーキミックスを入れて泡立て器で混ぜていると、オロオロと落ち着き無い様子で愛良さんが此方に来た。

 普段お兄ちゃんにほぼ料理を任せているとはいえ、流石にパンケーキくらいは作れるんだけどな。あ、でも手持ちぶさたで暇なのかも。パンケーキは混ぜて焼くだけだからすぐ出来るし、トッピングの果物の準備をしてもらおうか。


「イチゴとバナナを輪切りにしてもらえますか? オレンジは薄い輪切りでお願いします」


 兄と同じ顔だから、ついお兄ちゃんに頼むことと同じ事を言ってしまったがふと思う。あれ、そういえば愛良さん料理出来るのか。




 中火で熱したフライパンにペーパータオルで薄く油を塗り広げながら、心配になって横目で確認して慌てて火を止める。


「いや、両手持ち⁉」


「やはり、使い方が間違っていたか」


 ここまで震えた手で包丁握るお兄ちゃんの姿とかレア過ぎる。役目は交代して生クリームを作ってもらおうかと思ったところで、魔法が発動する。


「俺は道具を使うよりこっちの方が切りやすいな」


 綺麗に輪切りにされた果物を見て私は思う。小さい果物を潰さないように綺麗にカットするには、繊細な魔力コントロールが要求されると思うのだが。包丁で切る方がはるかに簡単だと思う。魔法技能が本当に優れているんだな。って、私より強いんだから当然か。


 パンケーキを焼いて、お皿に私は三枚、愛良さんには五枚積み上げて絞り袋を使って生クリームを絞る。どうせなら豪華にしようと、夏の入道雲みたいに大きく積み上げた。

 パンケーキの全体に満遍なく果物を飾れば、随分と華やかになる。最後に蜂蜜をかけて完成だ。おおう、お店のパンケーキだ‼


「美味しそうに出来たね」


「あぁ、そうだな」


 クールを装っているが、愛良さんの周りにハートやお花が飛び交っているように見える。ホント、甘いもの大好きなんだね。


「いただきます!」


 ふわふわのパンケーキの食感と、果物の甘さと蜂蜜の甘さが溶け合っていてなんとも美味しい。生クリームを付けるとまた違った味わいになる。


「うまい、お嬢さんは料理も上手なんだな」


「お兄ちゃんほどじゃないよ」


 キラキラと紅玉の瞳を輝かせながら、愛良さんがパンケーキを口に入れる。気に入って頂けて良かった。




 ところで、口元に付いたクリームを舐めとる姿がお兄ちゃんと一緒な筈なのに、見てはいけないものを見ている気分になって、目を反らしてしまうのはどうしてだろう。真っ赤な舌の動きがやけに脳裏にちらつく。

 お兄ちゃん相手なら即ティッシュで拭いてやるのだが、これが中身の違いって奴なのかな。




 食べ終わった後は一緒に片付けをして、それから私はリビングでDVDを見ることにした。お兄ちゃんも釣られて出てくるかなと思ったが、全くそんなことはなく未だ眠り続けているらしい。今週の夕食は全部私が作ろうかな。


「私に付き合わなくても、好きなことしていいんだよ」


「お嬢さんの好きなものには興味あるから。……邪魔はしないから、駄目か?」


「いいえ、一緒に見ましょうか」

 DVDの映像は、演出も演奏も素晴らしくて本当に感動した。楽しそうに楽器演奏しているのも良い。満足してDVDを取り出し、テレビに切り替える。あれ、懐かしい。

「これ、小さいころ映画館にお父さんと見に行ったっけ。懐かしいな」

「へぇ、見るか?」

 私は頷いた。宇宙を旅する物語は映像も綺麗だが、音楽も美しくて心地よい。心地よ過ぎて段々瞼が重くなってくる。そういえば前回も寝てしまって、お父さんに抱っこされて帰ったんだっけ。私、成長しないな、と思ったところで眠りの底に引きずり込まれた。







 優しく頭を撫でられる感触に意識が浮上する。

「すまない、起こしたな。まだ寝ていていいぞ」

 申し訳なさそうな顔に反射で首を振る。しかし、綺麗な赤い瞳がなんで上にみえるんだ。兄の顔越しに天井が見える。

 そこで、自分の体勢に気付く。え、膝枕されてる⁉ 一気に眠気が吹き飛んだ。兄妹揃ってなんて迷惑を! 急いで身を起こした拍子にタオルケットが落ちる。ご丁寧にタオルケットまで掛けてくれたとかマジで有難い。


「すみません、ありがとうございます!」


「い、いや。薺がよくしてたからついやってしまったが、やはり俺相手じゃ不快だったよな」

 焦ったような、何処か悲しげな顔に私は慌てて否定しようとしたのだが、それよりも人格の交代の方が早かった。緑がかった金色の瞳がいたずらっぽい光を宿す。


「こら、夕理さん。あまり愛良をイジめるなよ」


 私の鼻を人差し指でちょんちょん突つきながらからかってくる。


「いや、だからイジメてないよ‼」


 一体どう誤解を解けばいいんだ、と私は頭を抱えるのであった。

 とりあえず、完全に面白がっている兄の顔がムカつくので、夕食にはお兄ちゃんが嫌いなレーズン入りのポテトサラダを用意しよう。

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