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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第5章  裁きの女神と黒百合の剣編
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いつかのあの日

第5章開始します。最初から残酷な描写(死表現)がありますので、苦手な方はご注意ください。


花言葉

クロユリ『復讐』

百合『あなたは私を騙すことができない』

「や、やめて‼ このままじゃ、ほんとに、死ぬ。別に、俺だけで良いだろう」


 切り傷を徐々に増やしていく彼女を見ながら、俺はこの状況を作り出す元凶となった憎い犯人の術者に頼んだ。

 胸に深々と突き刺さった聖剣によって壁に磔にされ、剣と身体に絡まるいばらによって魔力を吸い上げられていなかったらこんな奴ら全員殺して彼女を助けられるのに。大事な人がただ自分のせいで傷つけられている現状を見る事しかできない何て気が狂いそうだ。


「駄目ですよ。貴方は大事な人を傷つけられた悲しみに心が支配されることで普段の魔力のリミッターが外れるようですからね。我が星を繁栄させる動力を得るためにはその程度では足りないので」


 この世界は各々の要素が調和を保つことで維持されている。そのため、誰かが突出した力を持ってしまえば、他の神々の力が弱まるかバランスを保つために敵対している悪魔や邪神にも強い力を持つ者が生まれこの世に災いが起きてしまう。



 それを回避するために、俺たちには力を全て出し切ることのないように予め精神に枷が施されている。その枷が外れることがあるなら、それは強烈な怒りを覚えた時。


「この、下衆が」

 小さな身体から大量の血を流し、ふらふらとして立っているのもやっとなような彼女の姿に泣きたくなった。

 俺だけ苦しめば良いはずなのに、なんで。痛みで辛いはずなのに、強い意思を宿した瞳は変わらずに術者の男を射ぬく。


「ねぇ、私が死んだらもう愛良様を苦しませることはないの? 幸せにしてくれる?」


「えぇ、勿論。この星を救った英雄として最上級のお持てなしをさせていただきますよ」


「やめろ! 何、考えてるんだ! いいから、俺のことなど放っておいて逃げろ!」


 彼女は俺の方を見る事無く、傍らに飛んできた三本足の烏に向き合う。


「金烏様、お願いしますね」


 烏は頷くと、本来の姿である黄金の刀へと変化した。血が凍るような恐怖に襲われる。


「え、き、金烏、お前、なにを」


「分かるだろう、愛良様。我らはお前様を失う訳にはいかないんだよ」


 世界の構成要素の一つである火を司る俺が死ねば、容易く世界のバランスは崩れ去り崩壊の一途をたどるだろう。おそらく、全てが氷漬けになって終わるはずだ。

 ただ、思想の火を与える俺がいなくなることで、あらゆる生物の精神活動が停止するため、苦痛や絶望を覚えることなく死ねるのは幸福ではないか、と思う。

 そのような事態を防ぐ為にその判断は正しい。だが、金烏の言う事が信じられない。彼だって彼女を好ましく思っていたはずなのに、とんだ裏切りだ。


「愛良様、そんな顔しないでください。私一人の命でこの世界全ての生き物の命を救うことが出来るのであれば、それは私にとっての誉れです」


 滅茶苦茶に首を振る。



 そんな、そんなこと、許される訳ないだろう。術者の良いように、世界中の生物の命が人質に取られているだけだ。優しい彼女がその選択しか出来なくなるように。



 頬に温い液体が落ちてきて、あぁ、俺は泣けたのかとどうでもいい思考がよぎる。



「金烏、君も、や、やめてくれ。嫌だ。そんなこと、俺は願ってない」


「今の我の主はこの可愛らしいお姫様ですからね。お前様の命令は聞けないよ」


「わぁ、嬉しいです。私がいなくなるのをそんなに悲しんでくれるんですね」


 彼女は本当に嬉しそうに微笑んだ。そんなの当たり前じゃないか。全く伝わっていなかったことを知り、どうして自分はこうも気持ちを伝えるのが下手なのかと自己嫌悪に陥る。


「ねぇ、大好きよ」


 告げられた言葉に頭が真っ白になって、全ての音が消える。

 今、なんと? 彼女は何事も無かったような顔で金烏に向き直った。


「これで愛良様が痛い思いをしなくて済むね。金烏様。さ、どうぞ」


「分かった。苦しませずに一発で死なせてやるよ」


 彼女はニコリと微笑むと、首を落としやすいように頭を垂れた。


「あぁ、そうだ。先ほどの言葉信じていますからね。愛良様を絶対に幸せにしてくださいよ」


「分かっています。何の憂いも抱くことなく冥界に旅立たれよ」


 術者の男は鷹揚に頷く。拘束を解こうと暴れるが、それを責めるようにいばらが全身に深く食い込んできて、声を抑えるために唇を噛み切ってしまう。


「約束、ですから」


 金の刀が彼女の白い首に当てられる。



 どうして。なんで。俺が、彼女が、一体何をしたと言うのだろう。ここまでの、こんな仕打ちをされるような事をしただろうか。分からない。どうして、彼女が死なないといけない。そんなこと、許されるはずがない。


「や、やめろ。俺から奪わないでくれ! 嘘、嫌だ、ヤダ、彼女を殺さないで!! 俺を好きなだけいたぶれば良いだろう! 嫌、駄目、止まって!!」


「また会いましょう。愛良様」


 刀が勢いをつけて一気に彼女の首に振り下ろされた。むせ返る様な血の香りが辺りに満ちる。吹き出した鮮血が飛び散るのと、彼女の身体が地面に倒れる様が、やけにゆっくりとして見えた。意味のない、獣のような絶叫が喉を裂いた。









 バキリ、とナニかが自分の中で壊れる音がした。でも、それが何かなんて興味ない。一体何の意味があるというのだろう。もう、あの花のような笑顔は見れない。優しい声で名前を呼ばれない。宝石みたいに綺麗な瞳に俺を映してくれない。



 なんで。



 俺が甘い物が好きだから、友人から聞いてきたという美味しいと評判の菓子を一緒に食べに行こうって言ってくれたのに。秋になると美しい花畑が出来る場所があるから、見に行こうって。新しく作れるようになった料理があるから、明日のごはんは楽しみにしていてねってそう言ったのに!  約束したのに。

 なに勝手に死んでんだ! 嘘つき。俺の願いは叶えることすらしてくれなかった。嘘つき。



 あぁ、そうだ。彼女と約束してたことがあった。それを守らないと。



 聖剣が青く輝き身の内に吸い込まれていく。もう、どうでもいいや。あんなに動くのが難しかった身体が動く。動いて欲しい時には駄目だったのに。滑稽だな。

 膝がガクガク震えて、歩き出してすぐに立っていられなくなり、這うようにしながらなんとか彼女の傍に行く。身体に上手く力が入らなくて、自分の身体ではないみたいだ。


 それでも、震える彼女の身体に触れようと手を伸ばしたところで、彼女の身体が一気に灰へと変わっていく。



 消えちゃやだ!



 あまりにも愛しくて、悲しくて、どうにか一つになりたくて。躊躇いなく、まだ僅かに彼女の温もりが残る灰を掬って口に含む。塩分の濃い水が止まらなくて、視界がどんどんボヤけてくる。

 乱暴に腕で目を擦って拭い、両手で灰を集めて食べていく。残ったのは灰だけかと思ったら、小さな可愛らしい白い骨が一つ残っていた。安堵して、思わず泣きながら微笑んでしまう。


『私が死んだら骨を食べてね』


 その約束は果たせる。彼女の存在に触れたくて、骨に一つ口付けて口を開いて飲み込んだ。




 愛しい。愛しい。愛しい。寂しい。





 灰を全て集めて飲み込み、顔を上げて気付く。彼女の身体があった場所から白百合の花が生えてきていた。彼女に似た、清廉な美しさを持つ真白の花が咲くが、すぐに花弁の色が血のような紅に染まった。

 呼吸が速くなる。いよいよ彼女の死が重くのし掛かってきて、どうしようもなく痛い。




 この世界は果たして守る価値があるのだろうか? 再三自分に問いかけてきた質問に答えが出る。俺から彼女を奪った世界に何もしないままではいられない。



 全部0から、宇宙の始まりの段階からやり直してみせようか。そしたらまた、彼女に会うことが出来るだろうか。

これから先のお話は、基本的に夕理さんが語り手です。

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