【第9話】唐草模様のルーン
グラウンドでは、合同訓練の最終科目が始まっていた。
的はこれまでとは違い、魔法耐性の高い特殊な鉱石でコーティングされた巨大な防壁だ。
Bクラスの優秀な生徒たちが次々と魔法を放つが、表面を少し焦がす程度で傷一つつけられない。
「甘い甘い!お前らの魔法は威力が分散してるんだ!もっと一点に集中させろ!」
バルガスが檄を飛ばす中、列の最後尾に並んでいたミラが、ゆっくりと前に進み出た。
その手には、アルノによって「特別製」に生まれ変わった安物の太い木杖が握られている。
「おい、あいつ帰ってきたぜ」
「さっきの爆発で懲りてないのか?今度は防壁じゃなくて俺たちに飛んでくるかもしれないぞ」
Bクラスの生徒たちが露骨に嫌な顔をして後ずさりする。
Dクラスの生徒たちも息を呑んで見守る中、あくびをしながら眺めていたロイドだけが、ミラの持つ杖の変化に気づいて目を細めた。
(あの杖……さっきまではただの丸太だったが、柄の部分にうっすらと唐草模様が浮かんでるな。あれは……アルノの仕業か?)
「ふん、フォルテシモ家の娘。泣いて逃げ帰ったかと思ったが、まだやる気はあるようだな。いい根性だ!だが、また暴発させるようなら今度こそ訓練は中止だ。周囲の安全が第一だからな!」
バルガスの厳しい言葉に、ミラはこくりと頷いた。
その手は震えていたが、不思議と心は落ち着いていた。彼女の脳裏には、用具倉庫の裏でふわりと微笑んだアルノの言葉がリフレインしている。
『ボクのルーンを信じて。さあ、もう一度グラウンドに戻って、みんなを驚かせてやろうよ』
(信じる。アルノのルーンステッチを……!)
ミラは杖を両手でしっかりと構え、的を真っ直ぐに見据えた。
そして、自分の中に眠る膨大な魔力を、一切の躊躇なく杖へと流し込む。
「……っ!」
周囲の生徒たちが反射的に身構え、耳を塞いだ。またあの恐ろしい暴発が起きる。
誰もがそう確信した瞬間だった。
淡い光が、ミラの杖を包み込んだ。
無骨な木目の上に浮かび上がった極小ルーンの唐草模様が、エーテルの流れに反応してぼんやりと白っぽく発光する。
本来なら杖の容量を超えて暴れ狂うはずの過剰な魔力が、柄に刻まれたアタッチメント(出力抑制陣)を通り、キラキラとした美しい光の粒子となって杖の周囲へ安全に排出されていく。
「なんだ、あれは……綺麗だ……」
誰かがポツリと漏らした。
暴風のような魔力は完全に制御され、杖の先端には一点の淀みもない、極限まで圧縮された高密度の炎が形作られていく。
今まで自分が扱ってきた荒れ狂う炎とは全く違う、静かで、圧倒的な熱量を持った力。
ミラは初めて、自分の魔力を完全に『掌握』している感覚を味わっていた。




