【第10話】未来への一撃
「いくわよ……っ、ファイヤー・バレット!!」
ズドォォォォンッ!!
というような下品な爆発音は鳴らなかった。
ドシュゥゥゥゥッ!!
空気を切り裂くような鋭い音と共に放たれたのは、細く、どこまでも真っ直ぐに伸びる真紅の光線だった。
それはBクラスの生徒たちが束になっても傷つけられなかった特殊鉱石の防壁に音もなく着弾し、次の瞬間。
ズパアァァァァァンッ!!!
防壁の中心を綺麗な円形にくり抜いて、後方で霧散した。
あまりの威力と静けさに、グラウンドを風が吹き抜ける音だけが響く。
「……え?」
一番驚いていたのは、魔法を放ったミラ本人だった。
先端から細い煙を上げる杖を持ったまま、彼女はポカンと口を開けて、綺麗に穴の空いた巨大な防壁を見つめている。
グラウンドは、水を打ったように静まり返っていた。
先ほどまで「落ちこぼれ」と嘲笑していたBクラスの生徒たちは、誰一人として言葉を発することができず、ただ唖然とミラの杖と、防壁に穿たれた綺麗な円形の穴を交互に見比べている。
「ば、馬鹿な……」
バルガスが、震える声で沈黙を破った。
「あの特級硬度の防壁を、しかも基礎魔法のファイヤー・バレット単発で貫通しただと?一体どれほどの魔力を一点に圧縮すればこんな……」
「……できた。ワタシ、ちゃんと魔法を……」
ミラは震える両手で杖を握りしめたまま、その場にへたり込んだ。
丸太のような安物の木杖は、先ほどの規格外な魔法を放ったにもかかわらず、焦げ目一つついていない。
柄の部分に刻まれたうっすらとした唐草模様が、役目を終えるように静かに光を失っていった。
「すごいやん、ミラちゃん!」
いち早く我に返ったシルフィアが駆け寄り、ミラの手を力強く握りしめた。
カイルも興奮した様子で駆け寄り、
「あんな魔法、見たことねえぞ!まるで熟練のマジックキャスターの狙撃じゃねえか。お前、本当はすげえ天才だったんだな!」
とまくしたてる。
二人の心からの賞賛に、ミラはポロポロと大粒の涙をこぼした。
ずっと彼女を縛り付けていた「一族の恥」という呪縛が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。
「ごほん!……み、見事だ、ミラ・フォルテシモ!威力、精度、全く申し分ない。さすがは名門の血筋だな。これなら上位クラスにも十分通用するぞ!」
露骨な手のひら返しでバルガスが高らかに宣言する。
Bクラスの生徒たちも、もはやミラを笑う者などおらず、羨望と畏怖の混じった視線を向けている。
(あのルーン、余剰魔力をエーテルの粒子として外へ逃がすことで、木杖の許容量を守りつつ、魔法の精度を極限まで高めたってことか)
ロイドは無精髭を撫でながら内心で舌を巻いていた。
(底知れねえガキだぜ……)
ロイドの視線の先、グラウンドの隅の木陰では、アルノが木に寄りかかりながらのんきに手を振っていた。
訓練が終わり、解散となった直後。
ミラはカイルたちの制止も聞かず、真っ直ぐにアルノの元へ駆けていった。
「アルノ……っ!」
「お疲れ様、ミラ。すごく綺麗で、かっこいい魔法だったよ」
アルノがいつものように涼しい顔で微笑むと、ミラは杖を両手で胸に抱きしめ、深く頭を下げた。
「ありがとう……。あなたが、この杖に魔法をかけてくれたおかげよ。ワタシ、もう自分の魔法が怖くない。もう、落ちこぼれなんかじゃないわ」
「魔法をかけたわけじゃないよ。ボクはただ、ミラの有り余る才能を正しく引き出せるように、少しだけ『仕立て直した』だけさ。ルーン・テイラーとしてね」
アルノはダミーのグローブをはめた右手を軽く振って見せた。
「それに、これからもっと強い魔法を使っていくなら、その丸太じゃいずれもたなくなるよ。今度はもっと質の良い杖を用意しておいて。ボクが最高のルーン・ステッチで仕立ててあげるから」
その言葉に、ミラは涙でぐしゃぐしゃになった顔をほころばせ、今日一番の、太陽のように眩しい笑顔を見せた。
「うんっ!絶対にお願いするわ、アルノ!」
Dクラスという吹き溜まりで、彼女が初めて希望を見出し、心から笑えた瞬間だった。




