【第5話】それぞれの弱点
翌日。
学園の広大な第3演習場に、アルノたちDクラスの生徒20名が集められていた。
離れた場所では他のクラスも集まり、説明を受けている。
「今日の実習は、クラフター以外の現在の実力を測るための適性チェックだ」
相変わらずヨレヨレの白衣を着た担任のロイドが、あくびを噛み殺しながら説明を始める。
「ジョブ(職業)の系統によってテスト内容は違う。それぞれのエリアに別れて測定をしろ。クラフターは見学して、クラスメイトの問題点などをレポートにまとめること。それじゃ、行った行った」
その言葉に従い、Dクラスの生徒たちはそれぞれのエリアへと移動していく。
ミラは戦闘職エリア、カイルは前衛エリアへ。
シルフィアは、離れた特殊職のエリアへと向かった。
――
アルノが最初に見学に向かった、戦闘職のエリアからは、鼓膜を揺らすような激しい爆発音が響き渡っていた。
ドオォォン!
「キャアアッ!」
短い悲鳴と共に、分厚い土煙が30メートル先の演習用防壁付近で舞い上がる。
「バカ者!魔力の制御が全くできていないじゃないか!判定Fだ!」
厳しい試験官の怒号が飛んだ先には、煤まみれになった大きな魔女帽子を押さえ、杖を持ちながら咳き込むミラの姿があった。
彼女に与えられた実習課題は、少し離れた直径1mの的を魔法で撃ち抜く、簡単な『的当て』だった。
大講堂での測定時、彼女はAクラス以上に匹敵する高い魔力量と出力を記録していた。
しかし、その有り余る強大な魔力を一点に収束させ、コントロールする繊細さが致命的に欠けていたのだ。
彼女の杖から的を狙って放たれた炎弾は、大きく外れた上に、演習場の防壁バリアに直撃して盛大な暴発を起こしてしまったらしい。
「だからDクラスなんだよ」
「あんなの、実戦じゃ味方ごと吹き飛んじまうよ」
遠巻きに見ていた他のクラスの生徒たちから、容赦ない嘲笑とヒソヒソ声が漏れ聞こえてくる。
「ご、ごめんなさい……!」
ミラは顔を真っ赤にしてうつむき、悔しそうに下唇を強く噛み締めた。
魔法の威力が高いことは証明されたが、これでは『暴発する爆弾』と同じ扱いを受けても仕方がない。
「なるほど。出力が高くても、制御できなきゃ実戦じゃ使い物にならないもんね。あれが彼女がDクラスになった理由か」
少し離れた場所からその様子を観察していたアルノは、一人納得して小さく頷く。
ミラの肩はかすかに震え続けていた。
あの明るく愛らしい表情はすっかり消え失せ、今はただ、深い落胆だけがその全身を包んでいる。
――
続いて、別の試験官の声が響いたのは、前衛であるヘビーナイト(重騎士)向けのテストが行われているエリアだった。
「そこまで!次、カイル・ヴァン・ブラッドレイ!」
大きな盾を地面に突き立てる、ドスッ、という鈍い音が響き渡る。
カイルの恵まれた体格と、大講堂で示された高い魔力量は、前衛の壁役として申し分ないスペックだ。
彼の課題は、巨大なゴーレム(魔造人形)の猛攻を一定時間防ぎ切る『耐久テスト』だった。
カイルは重い物理打撃を真っ向から受け止め、歯を食いしばって見事に規定の時間を耐え抜いた。
「よし、判定Aだ。テストを終えた者は、あちらの待機エリアでヒールを受けろ」
待機エリアでは回復型のマジックキャスター(魔導師)志望の生徒が、ヒールのテストを待っている。
「ヒールもテストの一環だ。回復が足りない場合は、ポーションで補え。」
試験官の指示に従い、テストを終えてフラフラになった生徒たちが次々と回復の光に包まれていく。
だが、カイルだけはその列に並ぼうとしなかった。
「おいカイル、お前も早くヒールを受けろ。次の訓練に支障が出るぞ」
試験官が声をかけるが、カイルは苛立たしげに顔を背けた。
「……オレは、ポーションだけでいい」
「なんだと?強がっている場合か!」
「……オレは……いいんだ」
カイルはポツリと呟くと、フラフラとその場を後にした。
「うーん、なんでだろう。前衛として立派にゴーレムの打撃に耐え切ったのに、わざわざ回復を拒否するなんて……。あれじゃあ次の戦闘ができないよ。もしかして、それが彼がDクラスに落ちた理由なのかな?」
アルノは眼鏡の奥で目を細め、痛みに堪えながら不器用に去っていくカイルの大きな背中を、不思議そうに見つめていた。




