【第4話】ようこそ、落ちこぼれのDクラスへ!
翌日。
アルノは晴れてDクラスの教室へと足を運んだ。
アルノの襟に付けられたクラスバッジは、小さな六角形で、今年度の1年生を表すブルーの塗装の真ん中に「D」という文字が金色に輝いていた。
「Dクラス……ここだな」
教室の扉を開けると、そこは拍子抜けするほど普通の空間だった。
下位クラスだからといって設備がボロボロというわけではなく、真新しい机や大きな黒板、窓から差し込む陽光は他のクラスと何も変わらない。
ただ一つ違ったのは、教室内がひどく重苦しい空気に包まれていることだ。
20名分の席は窓側最後尾1つを残し、すでにうまっていた。
「おはよう、ボクはアルノ。よろしくね。」
空いている席に座りながら明るく声をかけると、周りの席の3人はそれぞれ不満げな視線を向けてきた。
「あ、昨日の変なクラフターの子。……わたしはミラ。ミラ・フォルテシモよ」
前の席の少女は振り返り、そっけなくそう言うと、すぐにツンとそっぽを向く。
オレンジ色のくせっ毛に、やや大きめの魔女帽子をかぶり、丸顔で可愛らしい顔立ちをしている。
「オレはカイルだ」
右隣の席から腕組みをして睨みつけてきたのは、暗めの茶髪を後ろでひっつめ、制服がはち切れそうなほどガッチリとした体格の巨漢。赤い瞳と眉間のシワのせいでひどく強面だ。
「ウチは、シルフィア……」
最後に消え入りそうな声で答えたのは、斜め前の席に座る深い緑の瞳とアッシュグリーンの長い髪を持つ長身の少女。思わず見とれるほどの美貌の持ち主だが、その視線はうつむきがちで、どこか心を閉ざしているように見えた。
(なんだか、すごく個性的なメンバーだな)
ガララララ……。
その時教室の扉が開き、担任のロイドがあくびをしながら現れた。
「全員そろってるなー。それじゃ早速、ホームルームを始めるぞ」
気怠げに教卓に寄りかかったロイドは、黒板の端に置いてあった短いチョークを無造作に手に取った。
カツ、カツと、静まり返った教室に無機質な音が響く。
『A B C D』
黒板に殴り書きされたのは、AからDまでのアルファベットだった。
「今からお前らに、この王立グラン・フォリア魔導学園のシステムを説明する。まずここは完全な実力主義だ。昨日大講堂で測った魔力量と魔力出力、その後に続いた様々な適性測定を含めた総合評価でクラスが割り振られている」
ロイドの言葉に、教室の空気がさらに一段と重くなった。
アルノは出力を測った時点で打ち切られたため受けていないが、おそらく魔力量や出力が高くても、その後の測定で何かしらの致命的な結果を出してしまった者もいるのだろう。
「ただ、この学園には学年末に行われる『クラス入れ替え戦』とも呼べる制度がある。その時の実習において、クラス全体で評価ポイントを稼げば、クラスの格付けそのものをひっくり返すことが可能だ。頑張ればお前たちは来年Cクラスに、CクラスはDとなる」
ロイドはそこで一度言葉を切り、黒板に書かれたBとCの間に、チョークで線を一本引いた。
『A B|C D』
「だが、この入れ替えには絶対のルールがある。1年と3年の学年末は、この壁を越えることはできない。つまり、上層の『AとB』、下層の『CとD』の間でしかランクの入れ替えは発生しない」
ミラが、「そんな……」と呟き、カイルの顔がさらに険しくなる。
「ただし!」
ロイドはAとBの間の線を指で雑に消した。
「2年だけは別だ。ここでは学年全体での『無制限入れ替え』が行われる。つまり2年の学年末実習で圧倒的な結果を出せば、俺たちDクラスが一気にAクラスへ成り上がることも可能だ」
その言葉を聞いた瞬間、カイルの赤い瞳にギラリと闘志が宿り、ミラも顔を上げて強く拳を握りしめた。
シルフィアはまだうつむいたままだが、膝の上でぎゅっと制服のスカートを握りしめている。
そして、最後列に座るアルノは…。
(なるほど、3年生になる前に実力で一気にひっくり返せるシステムなんだ。面白いね)
涼しい顔をしているが眼鏡の奥の瞳は、ひっそりと微笑んでいた。
「だが、過去DクラスがB以上に上がったことはない。さらに多くの生徒が卒業を待たずに退学していくのが現実だ。這い上がるか、潰されるか……。今日のホームルームはここまでだ。明日はクラフター以外の適正チェックだ。遅れるなよ」
それだけ言い残すと、ロイドは入ってきた時と同じように、気の抜けた足取りで教室を出ていった。
重苦しい沈黙が落ちた教室で、真っ先に動いたのはカイルだった。
乱暴に立ち上がり、誰にともなく鋭い一瞥をくれると、椅子もなおさず無言で教室を出ていく。
「ちょっと、あんな態度……!」
ミラが抗議の声を上げるが、カイルの背中はすでに廊下の奥へと消えていた。
シルフィアもまた、おびえたように鞄を抱え、逃げるように小走りで去っていく。
「うーん、仲良くなれるといいんだけどなぁ。」
とつぶやくアルノ。
アルノ以外の残された生徒たちは、ザワザワと今後の不安を口にしていた……。




