【第31話】世界を知る授業
王都グラン・フォリアには本格的な冬が訪れていた。
寮から教室に向かう4人はいつもの様に、話に花をさかせていた。
「王都って温かいんだね。冬なのにコートもいらないなんて。」
田舎から出てきたアルノにとっては初めての王都での冬。
「そうか、アルノは王都での冬は初めてだもんな。王都は1年を通してあまり気温差が無いんだ。まあ夏は多少暑ちぃけど、冬は雪も降らないしな」
カイルをはじめ、他の二人も王都育ちだ。
そんな中、普段は冷静なアルノが、田舎との気候の違いに驚きを隠せずにいる。
その意外な一面に、皆は自然と親しみを覚えた。
「アルノ君の故郷は、雪が降るの?ウチ、雪は見たことないねん」
「少し積もるよ。年に一、ニ回は銀世界になることもあるんだ」
「へぇ、ほんまにー。いっぺん見てみたいわ」
「いつか遊びにおいでよ。きっと母さんも喜ぶよ」
その言葉を聞いたシルフィアの耳の先が、少し赤みを帯びた。
あれからシルフィアは耳を隠さず、髪型をポニーテールに変えていた。
――
1年Dクラスの教室は、いつもと少し違う緊張感に包まれていた。
教壇に立つDクラス担任のロイドは、相変わらずヨレヨレの白衣姿で無精髭を撫でているが、その眼差しだけは珍しく真剣だった。
「さて、お前ら。もうすぐ一年生の集大成、『C・Dクラス合同・ダンジョン探索実習』が始まる。今日はそのための座学だ。寝てる奴は実習で冗談じゃなく死ぬからな」
その言葉に、教室の空気がピリッと引き締まる。
「まず、ダンジョンについてだ。おとぎ話の迷宮を想像してるお花畑な奴はいないと思うが、その特徴を覚えておけ」
ロイドは黒板にダンジョンの特徴を書き連ねた。
・自然界の洞窟や巨大な岩山の内部が、途方もない規模に拡張された過酷な自然環境
・発光する植物が多く意外と明るい
・ブラインド・ゾーンと呼ばれる完全な暗闇のエリアもある
・岩肌、ジャングルなどダンジョンにより環境は様々
・マッピング能力と明かりの確保が生死を分ける
ロイドは黒板をトントンと叩き、さらに続ける。
「そして、そこに住み着く『魔獣』だ。まず魔力は全ての生物が持っているが、それを外に放出できるのは、基本的に人間と精霊だけだ。そのため普通の野生動物は、長年生きると体内の魔力が飽和する。その外へ放出できない魔力が『結晶』として実体化しちまった連中をまとめて『魔獣』と読んでいる」
◆ビースト(狂獣)
・頭部付近に結晶ができ、脳に影響を及ぼし狂暴化した個体
・頭や額、顔面から異質な結晶が突き出ているので、一目で危険な「討伐対象」だと判別ができる
・ビーストからは、ビーストしか生まれない
◆カーム(静獣)
・頭部以外の体内に結晶があり、理性を保っている個体
・テイマー(魔獣使い)が波長を合わせることで、テイムが可能
・見た目は通常の動物とほぼ変わらないか、少し大柄で屈強になっている程度
・外から結晶が見えないため普通の野生動物と思って不用意に近づくと危険
・カームは、カームか魔石を持たない個体を産む
◆ファントム(幻獣)
・極まれに、頭部以外の体表に結晶が現れた個体で非常に珍しい
・結晶から魔力を放出することが可能で、魔法を使うこともある
・極めて知能が高い
・テイム自体は可能だが、力ずくではなく「対等な契約」や「波長の一致」が求められるため、非常に困難
・すぐに襲ってくることはなく、相手を値踏みするような素振りをみせる
・ファントムからは、ファントムしか生まれない
ロイドの淡々とした説明に、生徒たちは固唾を飲んでメモを取る。
アルノも頬杖をつきながら、興味深そうに耳を傾けていた。
「最後に、これが一番重要だ。ダンジョンの入り口には『タルタロス(魔獣の檻)』と呼ばれる巨大なゲートがある。このゲートには透明な魔力結晶ガラスが張られていて、そこには大きく強力なルーンが刻まれている」
ロイドはチョークを置き、生徒たちを真っ直ぐに見据えた。
「ダンジョン外で魔獣化した生物は、なぜかダンジョンに引き寄せられる。そのルーンは『外から内へは入れるが、内から外へは出られない』という一方通行の術式だ。これによって魔獣が外の世界へ溢れ出すのを防いでいる。……つまりだ」
ロイドは懐から、ルーンが刻まれた小さな箱を取り出した。
ロイドが小箱に魔力を流すとロックが外れ、その中から金属フレームで縁取られた、美しいカード型のマギアを取り出して掲げた。
「ダンジョンから帰還するには、この『リターンキー(反転術式マギア)』が絶対に必要になる。こいつを内側からゲートにかざすことで、一時的に一方通行の術式を反転させ、外へ出られるようになるんだ」
ロイドはリターンキーに付いたチョークの粉を白衣で綺麗にぬぐってから箱の中に戻し、再び鍵をかけ、懐にしまった。
「ダンジョン内でキーを紛失したり、破壊されたりすれば、二度と外へは出られない。まあ、強化のルーンも刻まれていて非常に頑丈だから壊れることはまず無いが、貴重品だからな、実習中は絶対に手放すなよ」
重苦しい静寂が教室を包み込む。ダンジョン探索に潜む、あまりにも現実的で残酷なリスク。
「説明は以上だ。実習は4人一組のチームで行う。今から自分たちでチームを組め。余った奴は適当にくじ引きだ」
ロイドはそう言い残して教室を出ていった。




