【第32話】チームガレオス結成!
ロイドが退室すると、静まり返っていた教室が、堰を切ったように騒がしくなった。
「なあ、ミラ・フォルテシモ!シルフィア・エーテリス!」
真っ先に立ち上がったのは、クラスメイトのダグラス。
彼はナイト(騎士)志望で、Dクラスの中ではリーダー格を気取っている。
その後ろには彼と仲のよい、ベッキーというガーディアン(結界師)志望の女子が、少し不満そうな顔をしながら立っていた。
「俺たちのチームに入ってくれよ!ミラ・フォルテシモのあの圧倒的な火力と、シルフィア・エーテリスの精霊魔法があれば、実習の成績で上位クラスを狙えるぜ!」
ダグラスの言葉に、他の生徒たちも「うちのチームに!」「いや、俺のところへ!」と同調し、あっという間に二人の席の周りに人だかりができた。
入学当初、制御不能の「一族の恥」と嘲笑されていたミラ。
精霊に拒絶され「落ちこぼれ」と見下されていたシルフィア。
しかし、これまでの実習で彼女たちが見せつけた規格外の実力は、Dクラスの生徒たちの評価を完全に覆していた。
だが、ミラは申し訳なさそうに「パンッ」と手を合わせ。
「ごめんねみんな。実はもう組む相手を決めてるの、ワタシたち」
「誘ってくれてありがとね」
シルフィアも少し困った顔で、ふわりと微笑んだ。
二人は人だかりの間を通って、一番後ろの席でのんきに欠伸をしている小柄な少年の元へ向かった。
その横には、カイルも腕組みをして座っている。
「アルノ、カイル。おまたせ!」
「おせーぞお前ら。でも、これで4人揃ったな」
ダグラスは信じられないという顔で、その光景を指差した。
「お、おい!嘘だろ!?なんでアルノ・ガレオスなんかと組むんだよ?確かにマギア制作の力はすごいけどさ、そいつはクラフターだぜ?」
その言葉に、カイルがギロリと鋭い視線を向けたが、アルノは「まあまあ」とカイルを制し、ダグラスに向かってにっこりと笑った。
「大丈夫だよ。僕たちは絶対に結果を出して、このDクラスをCに押し上げてみせる」
アルノは右手を強く握りしめた。
その絶対的な自信に満ちた涼しい笑顔に、ダグラスたちは言葉を失い、気圧されたように引き下がるしかなかった。
ダグラスの後ろで一部始終を見守っていたベッキーは視線をそらしながら、ほっと胸をなでおろしていた。
「よろしく頼むぜ、リーダー」
カイルがアルノの肩をポンと叩き、4人は目を見合わせた。
その目は何も語らずとも、皆が同じ気持ちであることが感じ取れた。
ここに、落ちこぼれの吹き溜まりから生まれた最強の4人組、「チームガレオス」が正式に結成された。
――
放課後、チームガレオスの4人は学園で最も大きな大図書館へと足を運んだ。
ダンジョン実習に向けた過去の記録や、魔獣の分布を調べるためだ。
4人がけの大きなテーブルの上に、さまざまな蔵書を積み上げ文献を読み漁るが、すでにカイルは飽きており、頬杖をつきながら周りを見回していた。
「……あれは、ニ年Aクラスのチームリーダーだ。たしか、騎士団長の娘さんだったかな」
視線の先には、制服を凛と着こなす銀髪の美しい女生徒の姿があった。
シエル・ラインハルト、王国騎士団の団長の娘だ。彼女の周囲だけ空気が張り詰めているかのような、圧倒的な存在感だった。
彼女の襟の六角形のバッジには、今年度の2年生を示すグリーンの塗装の中央に「A」と金色の文字が刻まれている。
「ん?……なんか、こっち見てないか?……おい、こっちに向かってきてるぞ!お前らなんかしたかっ?!」
「ワタシたちのせいにしないでよ!あんたがじっと見過ぎなのよ!」
シエルはアルノの席の横まで静かに歩みより、じっとアルノを見下ろした。
アルノは顔を上げ一言。
「ひさしぶり、シエル姉ちゃん」
「「「ね、ねえちゃんっ!!」」」
三人の声が美しくハモった。
感動の姉弟の再会かと思われたが、彼女の口から出たのは、氷のように冷たい言葉だった。
「……アルノ。あなたの魔力出力、0.01だったそうね。そんな致命的な数値でダンジョン実習に出るつもり?」
一切の感情を交えない冷ややかな視線に、ミラたちが息を呑む。
「あなたにこの学園は無理よ。足手まといになって死ぬ前に、おとなしく田舎へ帰りなさい」
シエルはそれだけを言い捨て、振り返ることもなく去っていった。
「なっ……なによあれ!いくら実の姉でも言い過ぎだわ!」
「おい!アルノ、お前姉ちゃんがいるなんて、一言も言ってなかったよな!……っていうかお前、騎士団長様の息子なのか?!」
「お姉さん、ちょっと怖そうやな。うまくやっていけるか心配や……ん?家名ガレオスじゃないん?」
それぞれが口々に気持ちを吐露する。
しかし当のアルノは、ショックを受けるどころか、少し首を傾げて図書館の高い天井を見つめていた。
(……おかしいな。昔のシエル姉ちゃんは、ボクのことを甘やかして、溺愛してくれてたのに。あんな冷たい態度、姉ちゃんらしくないな)
7年ぶりに出会った姉の変化に、何か別の意図があるのではないかと不思議に思っていた。
「まあ、みんな。それよりまずは目の前の実習で成果をださないと。ほらカイルもちゃんと調べて」
アルノはいつものように涼しい顔で笑った。
そのいつもと変わらないアルノの態度に、三人は毒気を抜かれたように肩の力を抜く。
涼しい笑顔の奥にある確かな力量に、我らが小さなチームリーダーへの頼もしさを、あらためて感じていた。




