【第18話】夕日と屋上の4人
夕日が学園を赤く染め始める頃。
広大な屋上に敷き詰められた魔力集光板は、一枚残らず新品のような黒い艶を取り戻していた。
「よし、ミラの風もストップ!清掃完了!」
アルノの合図で、ミラが杖を下ろす。
アルノは屋上の柵から顔だけ出して、数十メートル下のプールに向かって大きくさけんだ。
「カイルー!もういいよー!水を止めて上がってきてー!」
下から「おう!」というカイルのくぐもった声が聞こえ、ホースの脈動がピタリと止まる。
アルノとミラは急いで長く垂らしたホースを引き上げ始めた。
「この証拠品のホースが残ってたら、ワタシたちがやったってすぐにバレちゃうもんね」
「うん。ギルベルト先生の『魔石を使うな』ってルールは守ったけど、勝手に学校の備品とプールの水を拝借したからね。見つかる前に証拠隠滅だよ」
二人が少し悪そうに笑い合いながら長いキャンバス生地のホースを回収し終えた頃、屋上の扉が開きカイルが姿を現した。
「お疲れ、カイル!最高の大容量魔石だったよ!」
「うるせぇ。でもさすがのオレも、結構魔力を持っていかれたぜ……」
カイルは悪態をつきながらも、その表情はどこか晴れやかだった。
三人は屋上の縁に腰を下ろし、夕日に照らされて黄金色に輝く集光板を見渡した。
心地よい疲労感の中、達成感に包まれて笑い合う。
青春の1ページを切り取ったような、穏やかで美しい時間だった。
その時、屋上の重い扉が再び「ギイッ」と音を立てて開いた。
「やあ。様子を見に来たんだけど……差し入れも持ってきたし、やっぱり僕も手伝う……よ……?」
現れたのは、第一王子のルイスだった。
手には高価そうな飲み物の籠を下げている。
過酷な清掃作業に苦戦しているだろうと心配して足を運んだルイスは、目の前に広がる光景に言葉を失った。
何日もかかるはずの広大なパネル掃除が、砂埃一つなくピカピカに磨き上げられ、夕日を反射して最高の効率で魔力を生み出している。
しかも、屋上一面がなぜかびしょ濡れになっていた。
「君たち……まさか、これをあの手押しポンプだけで終わらせたのかい?」
ルイスは信じられないものを見るような目で、三人を見つめた。
いったい何をどうすればこんなことができるのか、戸惑うルイスにアルノは軽く答える。
「うん、すごいでしょ、僕たち」
アルノがのんきに答えると、ルイスは静かに息を吐いた。
落ちこぼれの集まりだと言われているDクラス。
だが、彼らに何か光るものを感じる。
ルイスが感嘆の思いを胸に抱いた、まさにその瞬間だった。
「だれだっ!!プールの水を全部抜いたやつはーーっ!!」
屋上の遥か下、地上の方から、空気を震わせるような教師の激怒する声が響き渡った。
ビクゥッ!と三人の肩が跳ね上がる。
「ヤ、ヤバい!!隠れて!」
ミラとカイルが慌てて身を屈め、屋上の縁に隠れるようにペコッと頭を下げた。
アルノも慌てて隣に並んで頭を下げる。
しかし、ルイスだけは状況が飲み込めず、呆然と突っ立っていた。
「え?どうしたの?みんな……?」
「ルイス!いいからルイスも頭下げて!」
アルノがルイスの制服の裾をグイッと引っ張る。
「えっ?あ、ああ……」
わけも分からず、第一王子であるルイスが促されるままに、屋上の縁にしゃがんでペコッと頭を下げる。
その光景があまりにもおかしくて、アルノ、ミラ、カイルの三人は、声を殺してクスクスと笑い転げた。
その三人の笑顔を見て、理由もわからないままつられて笑うルイス。
夕日と、ピカピカの集光板と、びしょ濡れの屋上。
理不尽なペナルティから始まった放課後だったが、彼らの絆は確かに深まっていた。




