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【第17話】晴天の虹

カイルが魔力を流し込んだ瞬間、プールの水面に巨大な渦が発生した。


「うおっ……すげぇ吸引力だ!」


ダーツの的が淡く発光し、ズゴゴゴゴッ!という轟音とともに大量の水を呑み込んでいく。


普通のルーンなら数分で魔力枯渇を起こして倒れるほどの無茶な変換効率だが、カイルの強靭な肉体と大容量の魔力、そしてアルノの高効率のルーン・ステッチ。2人の個性が相乗効果を生み出した瞬間だった。


一方、数十メートル上の屋上。


古い手押しポンプが限界ギリギリの駆動音を立て、繋がれたホースがはち切れんばかりに膨張する。


「わわっ、すごい圧力!ミラ、来るよ!」


ホースの出口を両脇に抱え込んだアルノが、足を踏ん張って叫ぶ。


次の瞬間、ホースの先からドババババッ!と滝のような勢いで水が噴き出した。


反動で吹き飛びそうになるアルノだが、そこはちゃっかり、靴底に吸着のルーンを忍ばせ、なんとか持ち堪える。


「まかせて!ワタシの特技、見せてあげる!」


ミラが木杖を構えると、唐草模様が淡く光りだし、一直線に噴き出す荒々しい水流へと狙いを定めた。


ミラの魔力が、杖の先端に高密度に集束していく。以前の彼女なら、水ごと屋上の壁を吹き飛ばすほどの大暴発を起こしていただろう。


だが今は違う。



「いけっ……!ディフューズ・ウィンド(拡散の風)!」



杖から放たれた小さな竜巻の魔法が、ホースから噴き出す水流と真正面から激突する。


アタッチメント(余剰魔力排出陣)によって完璧に制御された風は、水を弾き飛ばすのではなく、極めて細かい霧状の飛沫へと変え、広大な扇状に展開させた。


「おおっ!すごい飛距離ね!」


ミラの風に乗った大量の霧は、巨大なスプリンクラーとなって広大な屋上全体へと降り注いだ。


エーテル(魔力の元)を帯びた高圧の霧が『魔力集光板』の表面を優しく、かつ勢いよく叩き、こびりついていた砂埃や花粉を瞬く間に洗い流していく。


茶色く濁っていたパネルが、洗われた先から黒い鏡のような本来の美しい艶を取り戻し、太陽の光を反射してキラキラと輝き始めた。


「ミラ、もっと奥のパネルにも届くように風の角度を少し上げて!カイルからの水はまだまだ止まらないよ!」


「オッケー!魔力ならまだまだ余裕があるからね。どんどんいくわよ!」


アルノがホースの向きを調整し、ミラが風の魔法で水を拡散させる。


カイルの『動力』、アルノの『回路』、そしてミラの『制御』、三人の特性が見事に噛み合った瞬間だった。


何日もかかるはずの過酷なペナルティ労働は、三に……二人の前ではただの爽快な水遊びに等しかった。



その頃…。



屋上の、プールの反対側の真下にあたる中庭を歩いていた生徒たちは、頭上から降ってくる冷たくて心地よい霧に足を止めていた。


「ん……?雨か?」


「でも、空は雲一つないほど晴れてるぜ?」


不思議そうに空を見上げた生徒の一人が、あっ!と声を上げた。


屋上からこぼれ落ちてくる大量の霧状の水しぶきが、少し傾きかけた午後の太陽の光を乱反射している。


「見ろよ……虹が出てる!」


「うわぁ、すげぇ。俺久しぶりにみたよ……」


中庭にいた生徒たちは皆、空中に架かった七色の巨大なアーチを見上げ、感嘆の声を漏らしていた。

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