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【第15話】旧式ポンプと、気高き第一王子

数日後、放課後の生徒指導室。


張り詰めた空気の中、カイルと数人のAクラスの生徒たちが直立不動で並んでいた。


彼らの前に立つのは、Aクラスの担任であるギルベルトだ。



「学園内での私闘、および無許可での魔法行使。言語道断だ」



氷のような声が室内に響く。


「Aクラスのお前たちには、中庭の草むしりを命じる。魔法は一切使用禁止。全て手作業で抜くことだ」


エリートである自分たちが泥にまみれる屈辱的な罰に、Aクラスの生徒たちは顔を青ざめさせた。


ギルベルトの裁定は厳しいが、極めて公平だ。続いて、彼はカイルへと視線を移す。


「カイル。お前には屋上にある『魔力集光板』の清掃を命じる。学園の各設備へ魔力を変換・供給する重要なパネルだが、砂埃で効率が落ちている。一人で全て綺麗に磨き上げろ」


「そしてそこ、ドアの外で立ち聞きしている者。入りなさい」


ギルベルトの言葉に、ギクリと肩を揺らしてドアの陰から姿を現したのは、カイルを心配していたアルノとミラだった。



「あのっ、ギルベルト先生!」



ミラが勢いよくカイルの隣に並び立ち、声を張り上げる。


「カイルはケンカをふっかけられた側です!広大なパネルを一人で掃除するなんてあんまりです。ワタシたちにも手伝わせてください!」


必死に直談判するミラ。


ギルベルトは少しだけ目を細め、冷たく言い放った。


「……まあ、いいだろう。そっちは一人だからな」


「ありがとうございます!」


そこへ、アルノがのんきな声で尋ねる。


「ギルベルト先生、掃除の仕方に指定はありますか?」


「……好きにしろ。だが、自動ポンプの使用は禁止だ。あれは魔石を消費する。罰として働く者に、使用を許可する理由はない」


生徒指導室を出た後、カイルが深い溜め息をついた。


「どうする?屋上まで水を運んで、あの広大なパネルを手作業で洗うなんて、何日かかるか分からないぞ」

するとアルノは少しイタズラっぽく、意味ありげに微笑んだ。

「ボク、いいもの知ってるんだー。この前、クラフトの工具を借りに古い倉庫へ行った時にねー」

アルノの案内で倉庫へ向かうと、そこには埃を被った移動式の旧式手押しポンプと、分厚く長い布製のホースがあった。


「手押しポンプか。手作業よりは早いけど、結局水を運ぶのは一緒か……」


カイルは、仕方がなさそうな顔でつぶやいた。


「まあまあ、ボクにまかせてよ。あと、そこにある連結用のホースも全部持ってきて」


カイルとミラは訝しげに視線を交わしたが、アルノの言葉を信じ、ポンプを倉庫から運び出した。


三人が屋上へ向かうエレベーターにポンプを無理やり押し込もうと悪戦苦闘していたその時、


「やあ、アルノさん……でよかったかな?」


背後から響いた上品で柔らかな声。振り返ると、そこには透き通るような金髪と碧眼を持つ青年が立っていた。


それを見た瞬間、カイルの顔色が変わる。


代々近衛騎士の家系である彼は、その顔をよく知っていたからだ。


カイルは弾かれたように姿勢を正し、直角に頭を下げる。


「ル、ルイス第一王子殿下!奇遇でございます!」


ミラも慌ててカイルにならい、同じように深く頭を下げた。


だが、アルノはルイスを見つめたままその場に立ち尽くしている。


カイルは真っ青な顔で「アルノも早く頭を下げろ!不敬だぞ!」と小声で急かした。


その様子を見て、ルイスはクスリと優雅に微笑む。


「学園では身分は関係ないから、普通に接してほしいな」


「分かったよ、ルイス。ボクもアルノでいいよ」


「おまっ……気安く呼ぶな!」


アルノの軽すぎる返事に、カイルがあたふたとうろたえる。


しかしルイスは距離感を感じさせないアルノに、どこか嬉しそうだ。



「……そういえば先日の騒ぎの件、聞いているよ」



ルイスのその言葉に、カイルの表情がわずかに引き締まる。


「うちのクラスの者が迷惑をかけた。すまなかったね」


穏やかに頭を下げたあと、ルイスは周囲の様子、運び出された道具や、これから始まるであろう作業に目を向ける。


「その……よければ、僕にも手伝わせてくれないか?」


思いがけない申し出に、ミラが目を見開いた。


だが、カイルは一歩前に出ると、静かに首を振る。


「いえ、ルイス。殿下。これはオレの責任で引き受けた罰です。どうか、お気になさらず」


その言葉に、ルイスは一瞬だけ目を細めた。


そして、ふっと柔らかな笑みを浮かべる。



「……そうか」



短く頷き、どこか感心したようにカイルを見つめた。


ルイスは軽く手を振り、「三人とも無理はしないように。健闘を祈っている」そう言い残すと、静かにその場を後にした。

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