【第14話】勘違いの重騎士
「すごいよ二人とも。息ピッタリだったね」
旧修練場の大きな木の裏側から、アルノが嬉しそうにパチパチと手を叩きながら歩み寄ってくる。
「カイルの絶対魔力耐性は本当に強力だから、レシーバーを刻むのにも少し骨が折れたけど……これで証明されたね。カイルはもう、一人で傷つく必要なんてない立派な前衛(盾)だ」
アルノの屈託のない笑顔と、ミラのホッと安堵したような表情。
それを見た瞬間、カイルの胸の奥で、ずっと張り詰めていた太い糸がプツリと切れた。
「アルノ!やっぱりお前、避難してんじゃねぇか!………くっ、…お前ら……っ」
カイルの目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼は感情を抑えきれず、歩み寄ってきたアルノの両手を、自分の大きな手でガシッと力強く握りしめた。
「ありがとう、アルノ……それにミラも。オレ、これでやっと……本当の騎士になれる……!」
涙ぐみながら心からの感謝を伝えるカイル。
そして彼は、自分の大きな手を握り返してくるアルノの華奢な手と、その小柄で可愛らしい顔立ちをじっと見つめた。
ずっと一人で気を張ってきた彼にとって、自分の致命的な弱点に向き合い、見事に解決してくれた存在はあまりにも大きかった。
カイルは少し頬を赤らめ、照れくさそうに視線を逸らしながらポツリと口を開く。
「その……今までずっと一人で壁を作ってきちまったからさ。こんな風に、女の子に親切にしてもらったの……初めてだよ」
旧修練場に、心地よい風が吹き抜けた。
アルノはきょとんとした顔で首を傾げ、いつもの涼しい声で答えた。
「え?ボク男だけど」
「…………は?」
カイルの動きが、文字通り石像のようにピタリと停止した。
流れていた感動の涙も一瞬で引っ込み、彼の視線はアルノの顔と、その下半身をゆっくりと往復する。
「おと、こ……?いやいやいや!じゃあ、なんでお前、女子用の短パンなんて穿いてんだよ!ずっと女だと思ってたじゃねえか!!」
カイルの絶叫が旧修練場に響き渡る。
学園指定の軍服調のダブルのブレザーの下。アルノが穿いているのは間違いなく、女子生徒がスカートの代わりに選択できる指定のボトムスだ。
「あぁ、これ?」
アルノは自分の穿いている短い丈のズボンを少しつまんで見せた。
「ボク小柄だから、男子用の長ズボンだと一番小さいサイズでもブカブカでさ。最初に間に合わせで女子用の短パンを借りたんだけど、すごく動きやすくて気に入っちゃって。このままでいいかなって」
「いいわけあるか!紛らわしいんだよ!オレの純情とドキドキを返せ!!」
頭を抱えて地面に突っ伏すカイルを見て、ミラはお腹を抱えてケラケラと笑い転げている。
「くそっ、なんだよこのオチ……!」
顔を真っ赤にしたカイルは、ふと自分の胸当てに刻まれたルーンに目を落とし、さらに顔をしかめた。
「冷静になってきたらこの胸のダーツの的も無性に恥ずかしくなってきたぞ!おいアルノ、お前どんなデザインにも出来るんだろ!?もっとこう、近衛騎士っぽいカッコいい盾のデザインとか、獅子の紋章とかにしてくれよ!」
抗議するカイルに、アルノは「えー」と不満げに口を尖らせた。
「ダメだよ。ミラが一番狙いやすい形にしないと意味ないでしょ?ね、ミラ」
「そうね。ワタシとしては、次はもっと色分けしてくれた方が的として撃ち抜きやすいわ」
「だから的って言うな!お前ら、絶対わざとやってるだろ!!」
カイルの悲痛な叫びに、アルノとミラは顔を見合わせて楽しそうに笑い合った。
「まぁまぁ。実戦の前には、他のデザインを考えてあげるよ」
「本当か!?絶対にカッコいいやつにしてくれよ?」
「うん、じゃあ星型の的とか?」
「的から離れろって言ってんだろ!」
傾いた陽が旧演習場の砂地を橙色に染めて、長く伸びた三つの影が重なる。
落ちこぼれの吹き溜まりだったDクラスの生徒たち。
他者を拒絶する不器用な盾と、すべてを吹き飛ばす過剰な魔法、そして規格外のルーン・ステッチ。
欠陥だらけだった彼らの間に、確かな絆と連携が芽生えた瞬間だった。




