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セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第三章:青春

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第三十八話:名前

 人にとっては、妖気の混じった気など、猛毒でしかない。


 セイランは、よろめきながらも歩いていった。

 四神が、両手両足を封印していく。しかも、それぞれの部位に対して、二重の封印だ。


 それでも、十分ではないかもしれないほど、シユウは強大だった。


 セイランが、最後の封印を任されていた。

 身に余ることだが、セイランが頼み込んだからだ。腕が六本ではなくなり、かなり小さくなったシユウと目が合う。


 その目に、セイランはどう映ったのだろうか。これだけ封印されても、セイランには自分より大きく見えた。


 セイランは受け取ったユウロンの陰の気を、転化させていく。


「──転化、封!!」


 二重の封輪が広がり、シユウの首元で縮んだ。

 五芒星の印を結んだところで気が抜けて、熱にうなされたように、セイランの見ていた景色が真っ暗になった。


 闇のように真っ黒で、何も見えない。

 すべてを吞み込む黒で、セイランは死んだのだろうと思った。


 ここが冥界なのだろうか。

 しかし、遠くから声が聞こえて、名前を呼ばれているようだが、まるで初めて聞く名前のようで、セイランは不思議で仕方なかった。


 なんだか笑ってしまいそうだけれど、顔だけでなく体がまったく動かない。

 身の程知らずなことをしたのだから、仕方のないことだろう。ユウロンに止められても、やってしまった。


「──ラン」


 誰の声なのか、わからない。

 憎たらしいような、頼もしいような、相反するような声だ。二度寝したいような気分で、まだ寝かせてほしかった。


「──セイラン!」


 その声で、瞼だけがわずかに開いた。

 他にも声が聞こえるけれど、一番近くから聞こえる。祖父が名付けてくれたこの「セイラン」という名前は、いつも聞いているはずの名前だ。


 それなのに聞き慣れない、一度も呼ばれたことのない名前だと、セイランは感じた。


「セイラン! 勝手に死んでんじゃねぇ! 後味が悪いだろ!」


 ──瞼がさらに開く。驚きのあまり、開いた。


 この声は、ユウロンだ。


 ユウロンが、名前を呼んでくれている。

 セイランという名前を、初めてユウロンの口から聞いた。


「俺に転化なんか、させやがって! 治癒術なんて、やったことねぇんだよ! 起きろ! セイラン!!」

「ユウ、ロン……?」


 ユウロンもいる。みんなもいる。

 助けようとしてくれている。体は微動だにしないが、涙だけはあふれた。


「こういう治癒は、稀だからね。気を渡したユウロン本人がやるのが一番だよ。もちろんボクたちも手伝ってるけど!」

「セイラン! わしを置いていくでないぞ!」


 チーチェンの声も、祖父の声も聞こえる。


「帰ってくるって、約束したでしょ!? セイラン!」


 バツの声も聞こえる。みんなの声が、聞こえる。

 姿がはっきりと、見えてくる。


 セイランは支えてもらっているのだと、その温かさを噛みしめていた。

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