表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第三章:青春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/39

第三十七話:奥義

 応龍がいない今、シユウは間違いなくこの大陸で、最強の存在だ。


 セイランの初めての白龍も、いともたやすく消滅させられた。

 それにも関わらず、セイランの心は思ったよりも凪いでいた。その理由に、頭を巡らせる。


 旅が始まるまでは、祖父しかいなかった。


 しかし、よりにもよって、ユウロンと旅をすることになり、セイランは嫌で仕方がなかった。

 それでも、今となっては頼もしい存在になり、他にもたくさんの支えてくれる人や妖怪がいる。


 しかし、シユウは一人だ。

 どれだけ強いシユウでも一人ぼっちなのだと思うと、セイランは敵意一色にはなれなかった。


「そこの女! なんだ、その哀れみの目は!?」

「あなたは、寂しかった?」

「何……!?」

「あなたにも、かつては共に戦う仲間がいたんでしょう?」


 シユウは何かを思い出すように、動きが緩慢になった。ユウロンとズァイロンが、息を呑んでいるのがわかる。


「そうだ、一人ではなかった。しかし、戦いの中で失われていくものだ。不死の余だけが残った、封珠の中でな」

「やっぱり、寂しいですよね。私があなただったら、そう思うはず」

「……しかし、余は一人ではない。魑魅魍魎よ、手を貸すのだ!」


 濃霧や腐臭とともに、魑魅魍魎が湧き出るように現れた。

 空は黒雲で覆われ、その姿は醜く鼻をつまみたくなるが、魍魎は水を得て消えていったことがある。


 獣のような魑魅は、おそらく戦争による殺し合いで死にゆく、人妖の怨念や苦痛の残滓だ。

 幼児のように見える魍魎は、戦争や災害による飢餓や病で死んでいく、子供たちの未練によって生まれるのだろう。


 それらが山や川の大自然と結びつき、自然災害と同じ「現象」として、目にするようになったのだと、セイランは考えるようになった。


 セイランが持っていた、多くの魑魅魍魎を封じた封珠が、鈍色の光を放っている。這い寄ってきていた魑魅魍魎が、動きを止めた。


「何事だ、これは? まさか……?」

「シユウ、あなたは知っていたんですね。この世の見たくない暗い面が、魑魅魍魎として生まれていることに。それを感じ取った魑魅魍魎が、あなたに託そうとした。この戦いの連鎖を、止めてほしいと。それが血みどろの道であっても、大陸を統一するにはそれしかなかった」

「……臭い物には、蓋をしたがる。あまつさえなかったことにして、消し去ろうとするものだ。しかしお前は、それをしなかったのだな?」

「たまたまです。祖父のおかげで気づいただけで、あなたのように直視していたわけではありません」


 シユウは初めて腕を下ろし、真正面からセイランを見据えた。


「名前はなんという?」

「セイランです」

「覚えておくとしよう、セイラン。しかし、余も退くことはできぬ。どちらかが倒れなければ、終わることはない」

「わかりました。あなたを、止めてみせます」


 シユウはまた構えたが、魑魅魍魎は退いていく。しかし、その刹那、険のある表情が変わった気がした。


「かかってこい! セイランに、龍を継ぐ者たちよ!」


 突進してくるシユウに対して、セイランは巨大な盾を形成したが、紙のように引き裂かれていく。

 あの巨体で迫られればどうしようもないと、セイランたちは立ち尽くしかけた。


 ──そのときだった。


 楓の大木がそびえ立ち、シユウはけたたましい音を立てて、幹にぶつかった。


「時間がかかってしまいましたが、これからは私もご一緒します!」

「あたしに援護は任せな!」


 レイロンは封印に成功したらしく、ケイリンと一緒だ。四神によって他の四凶も、封じ込められつつあるようだ。


木火土金水(もっかどごんすい)の循環の力を、シユウに見せてやりな!まぁ黄龍の代わりがあたしと琥珀なのが、ちょっと弱いかもしれないけどね」

「いえ、そんなことはありません。大切なつながりを得て、立ち向かえるんですから! 奥の手を、つかいましょう!」


 セイランの呼びかけに、全員が頷く。


 奥の手、それは最終奥義──己の体を、龍にすること。


 四龍の姿は変わっていく。

 セイラン、ユウロン、レイロン、ズァイロンは、ついに真の龍として顕現した。セイランが見ながら育った、あの龍神像のように。


「紛い物のはずが、真の龍になるとはな。余も全力を出そう!」


 次の瞬間、真の四龍と琥珀に呼応するように、地面が大きく揺れて、地から天に昇るように現れたのは、黄色の龍だった。


 ──黄龍だ。


 黒雲から雷が轟き、衰えてなお黄金のような輝きを放っている。


「人妖の絆、四龍の調和を見届けた。五行の力を知るがいい、シユウよ」


 木は火を、火は土を、土は金を、金は水を、水は木を、相生で強める。


 ときには相剋が、大切になることもあるだろう。

 しかし今は、ようやく相生の循環を生かすことができる。かつて四龍は相打ちで倒れ、四龍の力を受け継いだ者もずっと争ってきた。


 その四龍、いや五龍がまとまり、五行のそれぞれの輝きを放ちながら、円を描いてシユウに向かっていく。


「──奥義・木火土金水龍!」


 シユウは対抗するように、六本の腕を振り、巨大な拳を疾風のように突き出す。


「──戦神・龍破拳!」


 そして──激突した。


 光がすべてを呑み込んでいく。

 それをあらゆる場所で見ていた人妖たちは、例外なく目を離すことができなかった。遅れてやってくる鳴動に、ただ耳を澄ませた。


 目が眩むような真っ白な世界で、セイランたちは倒れていた。

 人の体に戻ったセイランは、シユウに視線を向ける。シユウも力尽きたように倒れていて、セイランは白龍の力がつかえないことに気付いた。


 これが欠点であり、四龍はしばらくただの人や妖怪になってしまう。

 だから、奥の手なのだ。しかし、シユウはまだ立ち上がろうとしている。こうなってはもし気が残っていても、四龍は対抗できない。


 ──封印術などの術を除いて。


 セイランたちは立った。レイロンは四神として、力を振り絞ったのだろう。セイランも、そのつもりだった。


 ランフー、シェンウー、チーチェン、レイロン、そしてセイラン。


 セイランはもう、封印術師を継げるほどになっていた。

 その五人で、シユウを封印する。封珠ではなく、ユウロンのように五体を封印するということだ。四神であっても、四凶との戦いでかなり気を消耗している。


 しかし四神は、封印できるだけの気が何とか残っている。

 セイランだけが、気が足りなかった。まだその点では、四神には及ばない。


「ユウロン、気を受け取らせて」

「……言っただろう? 死ぬぞ」


 他の者から受け取っている猶予はなく、どうせ危険が伴うのなら、セイランはユウロンから受け取りたいと思った。その表情は、真剣そのものだ。


「それでも、やりたいんだ。死んでも、やり遂げたい」

「馬鹿娘が……」


 セイランとユウロンは、両手をしっかりと合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ