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セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第三章:青春

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第三十四話:決戦前

 レイロンは、ランフーを封じた封珠を解封した。

 重症だったが、まだ生きている。セイランは祖父の傍で、懸命に治癒術をつかった。


「ボクも手伝うからね!」

「ありがとうございます! でも、私にもやらせてください。見ているだけなんて、嫌なんです」

「もちろん!」


 セイランはチーチェンに教えてもらいながら、ランフーの傷を癒していった。火傷や裂傷、古傷もたくさんある。


「私にも、手伝わせてください。元はと言えば、私のせいなのですから」


 セイランが大きく頷くと、そのレイロンの瞳が輝いていた。

 ケイリンも何も言わずに、同じように手を貸してくれている。セイランの瞳から、また涙がこぼれた。


「お、おぉ……これは夢か? 幻か?」


 その声で、さらに大粒の涙が落ちていく。

 普段よりは弱々しくても、セイランが聞きたくてたまらなかった声だった。


「じいちゃん! 夢じゃないよ!」

「セイラン、世話をかけるな」

「それは私の台詞だよ。生まれてからずっと、そうだったんだから……」


 セイランはランフーの手を握りながら、声をかけ続けた。みんなも見守ってくれている。次第にランフーの傷は、癒えていった。


「セイラン、ありがとうな。他の者にも、感謝を」


 セイランたちに支えられながらも、立ち上がったランフーは小さく頭を下げて礼を言った。


「申し訳ありません。私のせいです。均衡を保ちたいという心とは別に、この力を存分にふるって、こんな世界なんて壊してしまいたい。そういう気持ちがあったのです。ずっと床に伏せっていたときから、芽生えていたものでした」


 そう言って深く頭を下げたのは、レイロンだった。

 ランフーは豪快に笑って、そのせいでまた痛みを感じたのか、顔を顰めた。


「謝らずともよい。まだ若いお前が、ずっと外にも出られぬまま、自由に外で生きる者への羨望を抱えながら、人妖の暗い面を目にしてしまえば、闇が膨らんでいくのは詮無いことだ。踏みとどまっただけでも、褒めてやらねばならん」


 レイロンの宝石のような瞳は潤んでいき、まるで幼い少女のように見える。

 一筋の涙が頬をつたい、また頭を下げた。あれだけ強かったレイロンでも、葛藤や苦しみを抱えていたのだろう。


「私が檄文で煽ったことで、朱夏を前に中央で戦争が起きるでしょう。妖怪たちに募っていた恨みや火種は、私でも止められないところまで来ていて、檄文で鬱憤を晴らさせ、遅らせるのが精一杯でした。すでにシユウの封珠のひびは深く入り、復活は目前です」

「わしの封珠もそうだったな。おそらく四神の封珠は、すべてそうなっておるのだろう。一つでも解ければ、連鎖的に解けてしまうはずだ。四凶の封印はどうなっておる?」

「解いてはいませんが、こちらの封印もかなり古いもので、効力を失いかけています。もしシユウが復活すれば、その強烈な妖気によって、呼応するように封印が解けてしまいかねません」


 ランフーは顎に手を当てながら、いつもより伸びた白い髭を触っている。そこで何かを閃いたのか、明るい表情になった。


「いっそのこと、あの手でいくとしよう。シェンウーも呼ばねばならんが、おのおの準備を済ませて、中原に再集結するのだ」


 ランフーは、その作戦を告げた。


 誰もが驚くような作戦で、全員が言葉を失っている。

 しかし、この作戦しかない、と思わせるような説得力があり、それぞれが納得したように頷くと、いったん散開していった。


 この場に今、残っているのはセイラン、ユウロン、バツ、ランフー、チーチェンだけだ。セイランは言い淀みながらも、ランフーに言った。


「じいちゃん、ユウロンの封印を解いてあげて。あれからずっと手伝ってくれて、じいちゃんを助けられたのも、ユウロンの力があったからなんだ」

「……ふむ、お前も変わったな。ユウロン。狙い通りと言いたいところだが、礼を言わねばならん。ありがとう」


 ユウロンは照れくさそうに、またそっぽを向いている。セイランとバツは目を合わせて、にっこりと笑った。


「しかしな、ユウロン。どうせならセイランに、解いてほしくはないか?」

「……ふん。戦いが始まるまでには、解封しろ。でないとまた暴れるからな、小娘」

「ものわかりがよくなったな、坊主! がはははは!」


 ユウロンは待つ、と言ってくれている。

 セイランは目を剥きながらも、そう言ってくれるんじゃないかという気もしていた。


「ありがとう、ユウロン」

「だが、時間がないぞ。チーチェンに教えてもらえば、第四封印までなら解けるだろう。しかし最後の封印を解けるようになるには、まだ時間がかかるはずだ。本当にできるのか?」

「わからない。気の総量は、そう簡単に増えないよね?」

「そうだな。陰陽の気を釣り合わせるとなると、要する気は膨大な量になる。あの手段は普通、やらねぇからな」


 セイランは何のことかわからず、頭をひねった。


「どういうこと? 他にやり方があるの?」

「知らんのか?他者から気を借りるって方法だ。しかしかなりの危険を伴う。拒絶反応が起きるかもしれん上に、お前は人だ。妖気を伴った気を借りれば、それは人にとっては毒でしかない。妖怪同士でも、死に至りかねない負担になるからな。だから普通は、やらないんだよ」


 ユウロンはぶっきらぼうに、そう答えた。確かにそれで倒れてしまったら、元も子もない。


「間に合わなければ、わしが解く。しかしその琥珀、かなりの力を感じる。もしかすると、ケイリンの補助とその護石があれば、土の相生で気を増幅できるのではないか?」

「なるほど! それならいけそうだね! 第四封印を解けるようになれば、最後の一押しになると思う。ボクが教えてあげるから、一緒に頑張ろ!」


 チーチェンに背中を後押しされ、セイランは気を引き締めて、唇を結んで心を決めた。


 ──最後の封印を、解いて見せると。


 ユウロンは「相変わらず、うるさい女だ……」と愚痴をこぼしていたが、チーチェンの底抜けの明るさに、セイランは元気があふれてくるのを感じた。

 それだけでも陽気になれて、陽の気まで大きくなりそうだ。バツも陽の気が扱いやすいらしく、その力のことを考えれば納得するしかない。


「セイランに封印してもらってから、出す力の要領が掴めてきたみたいで、封輪が解けてからもかなり調整できるようになったの。セイランが力を制御しようとしているのを、ずっと見てきたから、なおさらね!」


 バツが眩しいほどの笑顔を見せると、チーチェンも太陽のような笑みを浮かべた。


「もう二人ともほとんどできてるから、ボクが教えることなんてないくらいだよ!陽にしても、陰にしても、欠かせないものではあるけど、どちらの気も暴走することはある。でも冷静に受け止めて、一緒に歩いていけば大丈夫!」

「ありがとうございます。チーチェンさんに、皆さんのおかげですから」


 どちらも過ぎれば、焼け焦げてしまったり、凍りついて動けなくなってしまったりする。

 どちらも合わせることで、ちょうどいい塩梅を保つことができるのだろう。バツの力も戻ってきたようで、ボウテンコウの姿と切り替えられるようになったらしい。


「わしが乗ると、重すぎるだろう。セイランとユウロンはバツに連れて行ってもらうとして、わしは地上から行く。チーチェン、この子たちを頼む。またあとで会おう!」

「わかった! 任せてよね!」


 チーチェンは、はつらつとした返事をして、セイランたちも頷いた。もう次の人妖大戦は、間近に迫っている。

 バツの背に乗せてもらい、チーチェンは朱雀の姿になって、それぞれが飛び立っていく。


 太陽に照らされる桜の大樹の下で、虎の背に乗ったランフーに手を振りながら、セイランたちは最終決戦の地、中原に向かって行った。

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