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セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第三章:青春

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第三十二話:死闘

「すごいね。まだ二人は、本領発揮できてないのに。でも……」


 レイロンが陰陽の気を放つと、青龍が現れた。

 しかし、ただの青龍ではない。封印術師としての力と、龍としての力が込められていて、その比和による力は絶大だった。


 黒銀龍は、金剋木龍の相克により有利なはずが、その青龍には相殺されるほどだ。

 それどころか、封印術の青龍がユウロンたちの目の前に迫ってくる。もはやなす術もなく、ユウロンたちは見惚れたかのように、動けなかった。


 こうなることはわかっていたはずだったのに、どうしてここまで力を尽くしてしまったのか。

 それでもユウロンは、思ったよりは悪くないと、今までとは違う薄ら笑いを浮かべたときだった。


 セイランの首飾りが、黄金のような輝きを放っていく。その光はユウロンとバツをも、包み込んだ。


 ──それは、結界だった。


 セイランの琥珀を中心に、結界が張られている。こんなことができるのは、この世に一人しかいない。


「間に合ったようだね……!」


 しかし、ケイリンの五行は土だ。

 青龍の木には不利で、結界がひび割れるように、崩れていく。衝撃を殺しきれずに、ユウロンたちは吹き飛ばされた。


 とはいえ、その衝撃はかなり和らげられていて、軽傷で済んでいる。ユウロンは口の中が切れて血の味がしたが、それを吐き捨てた。


「姉御、あれは……!」


 結界のことかと思いきや、ムシキは空を見上げている。

 ユウロンも視線を向けると、鳳凰に似た見た目の鳥らしき妖怪が、滑空してきた。


 炎を纏ったその妖怪は、地に降り立つと人のような姿になっていく。

 髪は朱色で、目の色は深紅、対の羽と長い尾羽がある。


 ──あれは朱雀、チーチェンだ。


「はじめまして。なーんて、言ってる場合じゃないね!」


 チーチェンが天真爛漫な笑みを見せると、ユウロンは体の変化を感じた。

 全身にできた傷がふさがり、背中の激痛が鎮まっていく。セイランたちの傷も治り、これほど広範囲で治癒術をつかえるのは、チーチェンくらいのものだ。


「ボクは飛べるから、加勢に来ました!」


 元気すぎて夏のように暑苦しい女だが、味方なら頼りになる。続けてケイリンが言った。


「ティエンとムトウのおかげだよ。二人が手を取り合ったおかげで、その琥珀の護石の力が強まったんだ」


 セイランの表情がいくらか柔らかくなり、琥珀に手を当てている。

 ユウロンにとっては人妖の絆など、鼻で笑うことでしかなかったというのに、どうやらあの二人はうまくいったらしい。


 セイランの目は、今までとは異なる色をたたえ、静観していたレイロンを真正面から見つめていた。


「今なら戦いをやめれば、命は奪わない」

「……私を含めて、四神が二人に麒麟まで。それにさっきから、四龍は勢ぞろいだね」


 レイロンは、セイランの言ったことには答えず、まるで憂うかのような言い方をした。

 その瞳は翳り、レイロンが数的不利になったからなのかという考えがよぎったが、ユウロンには含みがあるように聞こえて、眉間にしわを寄せた。


「……何が言いたい?」


 ユウロンの問いに対して、レイロンは簡単に折れてしまう小枝のような、儚い笑みを浮かべた。


「もし私とズァイロンが……いや、さっきも言ったでしょ?聞きたければ、倒さないとね」


 セイランと目が合って、ユウロンとバツは頷いた。ケイリンが叫ぶ。


「なるべくセイランを中心にして、戦いな! ズァイロンとムシキは、あたしとチーチェンに任せて、あんたたちはレイロンとの戦いに集中するんだよ!」

「そうはさせるかってよ!」


 ムシキがケイリンに首を伸ばして、頭突きをした。しかし、ユウロンからすれば、それは愚策でしかない。


「ぐあぁ! 硬すぎだろ、この女の頭」


 よろめくムシキに、ケイリンがすかさず顎を蹴り上げると、戦端が開かれて、一斉にそれぞれが動き始めた。

 ズァイロンの火龍が迫ってきて、チーチェンが体で受け止めるように火先を浴びた。


「おー、なかなかいい火加減ですね!」


 それをものともせず、炎の中で準備体操でもするかのように、伸びをしているようだ。

 ケイリンは格闘戦をムシキと繰り広げながら、主にセイランたちの側面に、結界を張っている。ズァイロンとムシキの邪魔が、入らないようにするためだろう。


 ──これなら、任せられる。


「俺たちもやるぞ! あの女をな!」


 しかし、それを妨げる大木が、次々と生えてくる。

 その怒涛の勢いに対して、セイランも高速で捌いていく。バツも生える前に大きな足で踏みつぶし、間接的な相生で炎の火力も高まっているようだ。


「わたしに任せて、二人は前に集中して!」


 バツの言う通り、もう戦況を把握するのは困難だ。


 ──しかし、とにかくレイロンを仕留めればいい。


 ユウロンはうなりを上げる黒龍を、出現させた。

 忌々しいほどの破壊をもたらす龍が、セイランの銀に包み込まれていく。


「くらえ!──金剋木(きんこくもく)・黒銀龍!」


 咆哮を上げるこの龍は、今までとは違う。セイランの力が主体だ。

 セイランが一瞬、目を見張るのが視界に入ったが、龍を追うようにレイロンの元へと颯爽と走っていく。


 もうユウロンの封印が戻りかけていて、桜の花びらが舞い散る中、すり抜けてきた枝が突き刺さってくる。


「──やれ、セイラン」


 こんな耳鳴りがするような戦いの中、もはや誰にも聞こえぬ声で、ユウロンは初めて名前を口にした。


 放った龍が青龍と衝突し、先ほどよりすさまじい衝撃波が襲ってくる。

 ユウロンは低く屈んで、歯を食いしばりながら、小さくなっていく体で見届けようとした。


「レイロン!」


 セイランは叫び、もう龍に乗るように駆けている。

 まだ二人の龍は、青龍の力には及ばない。相殺しきれないことを覚悟の上で、傷だらけのままセイランは飛び込んだのだ。


 ──そして、刺した。


 レイロンの懐に入って、確かにセイランの刃は刺さったようだった。

 セイランの後ろ姿でよく見えないが、ユウロンの目にはそう映ったのだ。


 次々と襲い掛かってきていた木や枝が止まり、つかの間の静寂が広がった。

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