表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第一章:白秋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/9

第三話:龍虎衝突

「はるか昔、戦神とも称されるシユウという不死身の怪物がいた。あまりにも強く、凶暴なシユウに対して、人と妖怪は手を組んで討伐しようとした。しかし、シユウには敵わず、ついには龍の出番になったのだ」

「……龍の?」


 男は鼻をほじっている。セイランは、シユウという名前は聞いたことがあるが、ことの顛末(てんまつ)は知らなかった。


「お前たちも五龍神(ごりゅうじん)のことは知っておろう。青龍(せいりゅう)赤龍(せきりゅう)黒龍(こくりゅう)白龍(はくりゅう)、そして黄龍(こうりゅう)だ」


 ランフーがちらりと男の方を見ると、男は顔を逸らしている。男にかまわず、ランフーは話を続けた。


「五龍の長である黄龍は、かつて応龍(おうりゅう)だった。応龍は龍の中でも別格で、シユウすらも倒すほどだった。しかしだ。シユウは不死身ゆえに、殺すことはできない。そこで五体は引き裂かれ、宝珠に封印されたと言われている」

「でもじいちゃん、応龍……というか黄龍は眠っているんじゃないの?」

「その通りだ。応龍は力をつかい果たし、黄龍として眠りについた。本来は四龍(しりゅう)が、シユウの封印が解かれぬよう守護するはずだった。しかし長がいなくなったことで、他に天敵などいない四龍は、力を持て余した挙句、龍同士で争って、天変地異を起こしたと言われている」

「龍でも、人みたいに同族同士で争うんだね……」


 ランフーは重々しく頷いた。男は苦々しげな顔をして、足を組み直した。


「四龍は青龍と赤龍が、黒龍と白龍が相打ちで倒れ、代わりに四神(ししん)と呼ばれる者たちが、シユウの封印を守護することになった。時が経って廃れてしまったが、わしが白虎の名を継承しているのも、この四神が源流だ」

「ふぉんとうにほまえはふっとうしい。むぐむぐ、ひつも邪魔ひやがって」


 男はぐちゃぐちゃと音を立てながら、鶏肉を貪るように食べている。

 流し込むように酒をあおると、げふっと噯気(あいき)を出した。その音を聞いて、セイランは顔を引きつらせた。


「しかし、シユウは死んだわけではない。何百年、何千年かに一度、封印が解けて復活すると言われている。予言と合致するように、シユウが封印されている宝珠に小さな亀裂きれつが確認できてな」

「封印が、解けそうってこと?」

「そうだ。封印術が廃れてきている今、万が一解封された場合、再度封印するにはいくらなんでもわしだけでは厳しい。そこで解封の防止と、最悪の場合に備えて協力を要請して回っていたのだ」

「それで、なかなか帰ってこなかったんだね。そのシユウはいつ復活しそうなの?」

「はっきりとはわからん。だが夏と秋の間、今ぐらいの時期だろうと言われている。一年後かもしれんし、数十年後かもしれんが」


 ランフーは一息つくように、一口だけ酒を呑んだ。セイランには現実味のない話だったが、本当なら深刻な事態だと神妙にして聞いていた。

 それでも、料理を次々と平らげていると、男には奇異なものを見るような目を向けられた。育ち盛りなのだから、仕方ない。


 その一方で、ランフーは酒にあまり口をつけていないようで、セイランは不思議に思ったが、ようやく健康に目覚めてくれたのかもしれないと、一人で納得していた。


「お前が手伝ってくれれば話は早いから、わざわざ呼んだのだ。報酬でうまい酒も飲める。シユウが相手なら、思う存分戦えるぞ」

「……ふん、知ったことじゃねぇな。俺は俺だけのために、力をつかう。人間が死ぬなら、むしろせいせいするね」


 男は鼻を鳴らして、傲慢な態度を崩そうとせず、一人で酒を飲みきって不敵な笑みを浮かべていた。


「そう言うだろうとは思っていた。しかしそれでは、お前も困ったことになるぞ」

「はぁ? この俺がか?」


 ランフーは人差し指だけを立て、封輪を指先で回し始めた。

 男の方は殺気だけでなく、陰の気があふれてきている。まさに一触即発といった様相で、セイランは息を呑んだ。


 そして、瞬きをした刹那、硝子の割れる音がした。

 目を開けると、あの男の姿がない。ランフーは足を蹴り上げていて、男はガラスごと吹き飛ばされたらしい。


 セイランは頭がついていかず、本当にとんでもないことになってしまったと、空いた穴を見てめまいを感じた。


 ランフーも飛び出していき、一瞬の静寂のあと、聞いたこともないような轟音が鳴り響いてきた。

 セイランは店員に謝ろうとしたが、人の姿が見当たらない。人払いの術が使われているようだ。


 セイランが追いかけるために外に出ると、大きな結界が見えた。

 結界は待ち合わせ場所だった、龍神像のある広場を覆っていて、二人の強大な気と術によって明滅しているのが見える。


 セイランは陽の気をつかって、走る速度を早めた。あとでひどい筋肉痛になるかもしれないが、そうも言っていられない。


 急いで広場に着くと、男は龍神像の前に立っていた。


 髪は漆黒に染まり、両目は闇のように暗い。

 立ちのぼる陰の気に妖気が混じって、禍々しい力が宿っている。セイランはここまで禍々しい気を感じるのは初めてで、また左腕に疼きを覚えた。


 男は何か呟くと、セイランが目を疑うような術を繰り出した。それは龍だった。陰の気による術で具現化した、大きな黒い龍。

 まるで龍神像が動き出したかのようで、闇のように暗いのに、あやしく輝いて見える。セイランはそれを見て、思い出していた。


 ──黒龍の化身と呼ばれる、ユウロンという名の男の存在を。


 セイランは体がすくんだまま動けずに龍に見入っていると、ランフーが大きな声で叫んだ。


「セイラン、わしに任せろ!」


 セイランはランフーの声で、我に返った。ランフーは拳を地面に当てると、陰と陽の気を放出していく。


 雷が落ちるような音が鳴り響くとともに、姿を現したのは虎だった。


 ──白い虎、白虎だ。


 陰の気だけではユウロンに敵わないとしても、陰陽の気を合わせることができれば、より大きな力を発揮することができる。

 ランフーの白虎を見ると、セイランの体の硬直は解けてきて、手を何度か閉じては広げた。


 相対する白虎と黒龍。


 龍虎はついにぶつかり合った。龍虎がもつれあう衝撃波で、セイランは立っていられずに尻もちをついた。


 加勢するどころか、足手まといになっているのかもしれない。

 せめてあの高慢ちきな男に、一撃くらい与えてやりたいと、立てないままじりじりと足を引きずるように、セイランはユウロンに近づいていく。


 セイランに気づいたのか一瞥したユウロンだったが、足元がふらついている。

 それでもあまりにも極端な陰の気に、ランフーの白虎は押されてきていた。黒龍がランフーに、今にも襲いかかりそうだった。


「くたばれ! ランフー!!」


 それを耳にしたセイランの中で、まるで逆鱗に触れたかのように、何かが決壊した。


 腕輪にはひびが入り、割れて地面に落ちていく。カランと音が鳴るのと同時に、左腕は焼けるように熱くなり、左目の疼きも止まらない。

 立ち上がったセイランは、銀髪をなびかせながら、祖父を傷つけることは許さないという一心で、拳を強く握りしめた。


 術に集中していたユウロンは、隙を見せていた。尋常ではない気を察知したのか、セイランに目を向けたが、時すでに遅し。


 ユウロンは「クソが」と呟き、セイランの怒りの拳を顔面にくらった。


 セイランは意識が途切れる寸前に見た、ユウロンのすさまじい形相を忘れることはないだろう。

 具現化された黒龍は消滅していき、意識を失った二人は、重なるように倒れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ