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セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第三章:青春

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第二十七話:陰謀

 人の皇帝は人だけの世を目指し、内乱を鎮圧して盤石の支配体制を整えるために、権力の象徴である龍を追い求めて、とある策を打っていた。

 しかし、それが裏目に出てしまい、足並みの揃わぬ人に対して、妖怪たちは青龍の元でまとまりつつある。中立的な北や南でも、どちらに加わるのかと意見は割れ、紛糾していた。


 四龍の最後の一人である青龍は、「レイ」と名乗る謎の女だった。

 そのレイは、封印術師としての青龍をも、継承した恐れがある。もし龍としての力と、封印術を十全に操れる存在なのだとすれば、歴史上でも例がなかったことだ。


 封印されている四凶や妖怪たちを、まとめて従えることすら不可能ではなく、シユウすらも封印が解かれるかもしれない。

 魑魅魍魎が各地であふれ出し、かつての戦争をも超える、動乱の兆しが大陸に広がっていた。


 春は、青龍が司る季節であり、「青春」とも呼ばれる。


 花が芽吹くかのように、ついに青龍が動き出し、次の「人妖大戦」の狼煙が上がろうとしていた。



 まだ日が出る前に、カイエンは周囲の様子を見ながら、後宮を抜けようとしていた。

 こっそり式神を飛ばすためだ。地面にも、後宮に生えている桜の木にも、やや雪が積もっているが、立春をすぎて蕾が膨らむ時期が近づいている。


 討伐に失敗したキュウセンは、なんとか死罪は免れたが、牢獄に入れられた。

 そのキュウセンの話によると、ズァイロンは帰途のさなかに、姿を消したらしい。そのことを知った直後、ランフーが秘密裏に接触してきた。


「カイエン皇子、あなたに調べてほしいことがある」


 ランフーは、そう言った。

 調べてほしいこととは、あの皇帝の寵愛を受けていた皇妃シンレイと、その娘のレイロンのことらしい。


 特にレイロンは、龍との関係があるのではないかと言う。

 カイエンはあまり知りたくないような、知りたいような、そんな迷いがあった。それをランフーには、見抜かれていたのかもしれない。


 ランフーは豪快に笑いかけて、隠れて会いに来ているのを思い出したのか、口元を抑えていた。


「ランフーよ。密告されるとは、思わないのか?」

「皇子はしないでしょうな。そういう方には見えない。されたとしても、わしは捕まりませんが」


 それからカイエンは、それとなく臣下や官女に探りを入れるようになった。

 仮にも皇后が母である、第一皇子なのだ。しぶしぶ口を開く者も多い。皇妃であるシンレイに仕えていた官女を見つけたときには、好奇心に突き動かされていた。


 皇帝である父は、以前から厳しく冷淡さはあったが、そこまで妖怪を敵視していたわけではない。

 しかし、あの皇妃が亡くなってから皇帝は豹変し、人による大陸の統一を目指して、龍の力を求めるようになった。


 それによって、強硬的な派閥のロウセンが台頭し、見慣れない怪しい者を見かけたこともある。


 その官女によると、シンレイは妖怪ともかなり交流があったようで、滅ぼされかけた大蛇の妖怪の末裔だったズァイロンが、シンレイには心を開いていたという。

 そのせいかただの人ではない、傾国の女なのではという噂が立ち、皇帝の威信を揺るがしかねない噂だったため、口を滑らせて消えた者もいた。


 そんなさなか、シンレイが妖怪たちと接触したある日、ズァイロンと護衛たちがいたにも関わらず、人に恨みを持った妖怪に殺害されたらしい。

 その事実は、公にはされずに伏せられていたようだが、皇帝の変貌ぶりはこのせいだったのかと、カイエンには腑に落ちるものがあった。


 ロウセンの命令によって、偵察の名目で、たびたび妖界への謎の遠征が行われるようになり、一度だけ戻ってきた部隊が騒がしくしていたことがある。

 カイエンは気になって、報告を受けているロウセンたちの近くを通りがかると、まるで口を閉ざすように静かになったのだ。


 レイロンのことは、わからないことだらけだった。


 皇帝の娘がもし龍との関わりがあるのなら、もっと権力を誇示するために民に喧伝するはずで、病にもならないだろう。

 しかし、幼い頃から病弱らしく、ずっと床に伏せっているとのことで、カイエンは会ったことがない。


 それでも探っていると、今はいるように装っているだけで、どうやら後宮にいないのではという、疑念が生まれていた。


 調べるようになってから、知っていたことと、知らなかったことが奇妙に一致する。

 何を隠しているのかはわからないが、皇帝やロウセンが四龍に固執するのは、何か理由があるのかもしれない。思えば黒龍のユウロンも、生け捕りにしたいようだった。


 ランフーによれば、誰が四龍としての力を発現するのかは、わからないらしい。ユウロンも誰かの言うことを聞くような者には、見えなかった。

 いくら権力の象徴である龍の力を求めたところで、人に与するとは限らないはずだ。それでもロウセンが四龍を手中に収めようとしているのは、何か味方にする算段があったということなのではと、カイエンは考えた。


 人は、妖怪より弱い。


 なんとか対抗するために、皇子であるカイエンにすら、隠さざるを得ない手段を取り、レイロンも何か関係しているのではないか。カイエンはその考えをまとめ、ランフーから受け取っていた式神に託した。


 式神はそう簡単に作れるものではない。まず本人が式神をつくれないとはじまらず、それを渡しておかないと、相手からは連絡が取れないのだ。

 カイエンのように、まだ式神をつくることができない者は、誰かに式神を渡しておくこともできないので、伝言を受け取ることができない。


 しかし、ランフーのように式神をつくれる者から受け取っていれば、一方的ではあるものの、カイエンは伝言を送ることができる。

 送るというよりは、つくった本人の元へ式神が返っていくという性質を、利用していると言えるらしい。


 見送るように空を眺めていると、頭に何かが降ってきて、カイエンはさらに上を見上げた。巨木から、雪解け水が滴ってきたらしい。早く後宮に戻ろうとしたとき、後ろから声がした。


「カイエン皇子、何をなさっていたのですか?」


 カイエンが振り向くと、そこには目を細めているロウセンがいた。

 まるで汗のように、先ほど落ちてきた冷たい水が、額から流れていく。表情を取り繕うのに慣れたカイエンでも、後ろに回した手は震えていた。


「散歩をしていただけだよ。少しは体を動かさないとな」

「そうですか。それはごもっともです。皇太子になられるかもしれない方には、健康であっていただかないといけませんから」

「そうだな。それでは、そろそろ帰るとする。これからも国に尽くすように」


 カイエンはそそくさと、来た道を引き返そうとした。


「……おっしゃる通りです。お国のためなら、どんなことでも。そう、皇子が望まれたように」


 その声で身の毛がよだつのを感じ、カイエンは後ろを振り向こうとした。しかし口を塞がれ、ロウセンだけではない、何人かの気配を感じる。


「ん、んーっ」

「知らない方がいいこともあるのです。カイエン皇子」


 慎重に探っていたつもりだったが、皇子には手を出すまいと、たかを括っていたのかもしれない。

 口を封じられたままカイエンは連れ去られていき、もがいた雪の跡が、日の出とともに解けていった。

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