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セイラン解封記  作者: 遠野圭人
第二章:玄冬

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第十七話:再会

 セイランは思わず、大きな祖父の胸に飛び込んだ。


 会いたくて仕方なかったランフーを見上げると、涙が出そうになる。

 そんな嬉しさとは別に、いじけたときのような、軽く睨みたくなる気持ちも湧いてきた。


「おぉ、セイラン。そんな怖い顔をしおって、かわいい顔が台無しだぞ。がはははは!」

「……だって、隠しごとしてたでしょ?」

「すまんすまん、確信がなかったんでな。そうかもしれんとは思っとったが、あのズァイロンを退けたと聞いたときは、たまげたわ。すごいぞ、セイラン!」


 ほめられていると、はぐらかされているように感じても、セイランはそれ以上聞こうという気には、不思議とならなかった。自然と口角が上がってしまう。


「ジジイ、てめぇは何やってたんだよ。こちとら大変だったんだが?」

「まぁ、色々とな。皇帝には抗議したいところだが、わしもどういう扱いを受けるかわからんし、他にも気がかりなことがあってな」


 ランフーは、セイランの頭をなでながらも、目は遠く東の方を見ているようだ。その視線が飛んでいるバツの方に向くと、わずかに表情が強張った。


「この子が例の……」

「そう、バツだよ!じいちゃんにも紹介したかったんだ。おいでおいで」

「セイランの、おじいちゃん……?」


 ランフーは寄ってきたバツの緑色の目を見つめると、ケイリンと同じように真顔になり、顎に手を当てて髭を触っている。バツは萎縮してしまったのか、セイランの後ろに隠れた。


「ユウロン。ズァイロンに襲われたとき、何かなかったか?」

「はぁ? 何かってなんだよ」

「あいつはお前と同じで、力のままに暴れてきたやつだ。何も磨いてこなかった相手だから、お前たちでもなんとかなったのだろう。しかし四龍が本当に追い詰められたとき、本気を出せばあの奥の手があるはずだ。それはしなかったのか?」

「…………そうだ、それはしなかった。なぜかは知らんが、そのガキを気にしてるみてぇだった」


 セイランには奥の手が何かはわからなかったが、ユウロンはその奥の手を出す前に気を失い、封印されたのだろう。

 しかし、記憶を失った間のことを聞いた話では、ズァイロンにはまだ余裕が残っているようだったのに、撤退していったらしい。


「なるほどな……」


 得心がいったような顔をするランフーとは違い、セイランは話についていけず、ユウロンとランフーを交互に見ていた。


「どういうことなの? じいちゃん」

「……いや、なんでもない。バツ、怖がらせてすまんかった。セイランを助けてくれて、ありがとうな」


 いつものような調子になったランフーは、柔らかい表情を浮かべている。セイランとバツは目を合わせた。

 セイランが頷くと、バツはふわふわと近づいていく。ランフーは「高い、高―い」と言って軽く持ち上げ、バツは宙を舞いながら無邪気な笑い声を上げた。


「おい、クソジジイ。遊んでねぇで、早く俺の封印を解けよ。小娘も危ねぇんだぞ」

「お前の封印をすべて解いたら、余計に危ないわ。そんなことよりだ。人界も妖界もきな臭くなってきておる。かつて西方に封じられたはずの四凶(しきょう)が、持ち出されたという噂もあってな」

「四凶だと……!? ちっ」


 ユウロンは驚きを隠せないようで、舌打ちをした。セイランには、聞きなじみのない言葉だ。


「四凶って、何?」

「かつて大暴れしていた、悪逆非道な妖怪たちがおってな。その四柱は封印されて、西に追いやられた。しかしもし封印が解かれたり、持ち出されて封印されているシユウと結びついてしまったりすれば、とんでもないことになってしまうかもしれん」

「そ、そんなことってあり得るの?」

「まず、ない。ないはずなんだがな……」


 ランフーは険しい顔をしていて、ユウロンも黙っている。セイランは不安そうなバツを腕に抱いた。


「わしは、これから東に行く。四龍も青龍だけはまだ誰か不明な上に、四神の青龍の継承者の行方がわからんのでな」

「青龍と青龍……?」

「あぁ、青龍だけはややこしくてな。お前たちのような龍である青龍と、わしのように四神として青龍の名を継承する者がいて、名前が被っておる。ただでさえ東は妖怪の縄張りで、シユウを封印した際に人妖は協力し合ったが、今となっては危うい。どちらの青龍にしても、四凶やシユウにしても、妖界の動向を探らねばな」


 何が起きているのか、何が起きようとしているのか、セイランには見当もつかなかったが、嵐の前の静けさなのかもしれない。風が急に吹いてきて、流れた髪をかき上げた。


「北に行くというのはいい案だ。あの頭の固いシェンウーが助けてくれるかはわからんが、亀みたいに北に引っ込んでおる分、懐に入れば安全かもしれん。だが寒く山々は険しい。気をつけて行くように。何が起きるかわからんからな」

「うん。じいちゃんこそ、気をつけてね」

「心配するでない、わしは白虎だからな……セイラン、腕輪を見せてみなさい」


 セイランは一瞬ためらいながらも、腕輪を外した。もう封印の力はないらしいが、セイランにとっては思い出の詰まった腕輪だ。わずかな間でも外すと、そわそわとしてしまう。


太陰太陽暦(たいいんたいようれき)だとずれるときもあるが、二十四節気(にじゅうしせっき)の秋分の日がセイランの誕生日だ。今年は祝えなかった分、これを贈るとしよう。おめでとう、セイラン」


 ランフーが気を込めたようで、白くまばゆい光が見えた。そして渡されたのは、瓜二つの銀の腕輪だった。しかし、以前から持っている白虎が彫られた腕輪とは違い、もう一方の腕輪には白龍らしき姿が彫られている。


「ありがとう、じいちゃん!」

「その腕輪は封輪としてではなく、解放の力を込めた。もう封じるのは無理がある。ならば制御しやすい程度に、解放してやった方がいいだろう。初めてつくったが、解輪とでも言おうか……」

「解放って、白龍としての力を?」

「そうだ。今までなら封じることができていたが、力を増しているのに無理に封じようとすると、力の逃げ場がなくなって暴走の要因になりかねん。十全に扱うのはまだ無理でも、その腕輪を通すことで、両手で扱えるくらいの気なら、白龍としての力を使えるはずだ」


 セイランが腕輪をはめて、眠っていた気を感じていると、腕輪と共鳴していく。目をつぶり、剣と盾をつくる想像をしてまぶたを開けると、左手に剣を、右手に盾を握っていた。


「おぉ、さすがわしの孫だ。実戦では銀より鉄や鋼の方が向いとるだろうが、白龍の銀は特別だな」

「すごーい! セイラン、かっこいいよ!」

「ありがとう。じいちゃん、バツ」


 胸が高鳴るのと同時に、まだこれがないと制御できないというのは、唇を噛みそうになる。

 ユウロンが腕輪があると力を使えない一方で、セイランは腕輪がなければ使えない。


 それでも、ユウロンの二つ分の解封くらいの力を使えそうで、これなら誰かを守れるかもしれない。

 セイランは迷いを振り払うように、剣で空を切った。


「ちっ、俺にもよこせよクソジジイ」

「お前にやったら暴れるに決まっとる。それにしても……冥界か」


 わずかにランフーは物憂げな表情になり、セイランと目が合った。

 セイランは冥界に詳しくもなければ、特に関心があるわけではない。


 ユウロンは腕を組んであらぬ方向を見ているが、そんな顔をつつくバツのことも鬱陶しそうにするだけで、いつものような剣幕にはなっていなかった。


「……セイラン。わしは何があっても、お前の味方だ。忘れるでないぞ」

「え? うん、ありがとう。私もだよ」


 セイランはきょとんとしていた。ランフーがユウロンをちらっと見た次の瞬間には、豪快な笑い声が響き、セイランの肩に手をポンと置いた。


「では、またな。セイラン。バツも……坊主もな」

「……ふん」

「またね、じいちゃん!」


 ユウロンは鼻を鳴らすだけだったが、セイランとバツは颯爽と去っていくランフーを見つめ、手を振っていた。


 その後ろ姿を、心に刻むように。

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