最終章 1-4
最終章 1
『大規模密輸団摘発 〜野生動物専門、世界的組織とのパイプか!?〜』
権三郎がアジトを殲滅した翌朝、全国紙の一面をその見出しが飾った。
警視庁とS県警が連携して強制捜査令状を取得。昨夜のうちに密輸団の本拠地へのガサ入れが実施されていたのだ。
代表取締役を務める人物は帰宅中だったが、逃亡を防ぐため自宅にも捜査員が急行。代表はその夜のうちに最寄り署で任意同行を求められた。
当初こそ「私は何も知らない」と惚けていたが、S県の山中アジトがすでに制圧され、都内の社屋にも捜査が入っていると伝えると、観念したように同行を承諾した。
取り調べが始まっても、代表はしばらく口を閉ざしていた。だが次々と証拠物件が押収されている状況を知らされると、もはや抵抗は無意味と悟ったのか、驚くほど素直に語り出した。
彼の供述によれば、今回摘発されたS県の獣舎兼アジトは、関東ブロックの一拠点にすぎず、全国に同様の施設が十八箇所存在するという。
全貌の解明には時間を要するものの、密輸団の存在はもはや白日の下に晒された。今後は全国各地で摘発と本部施設の解体が進む見通しである。
こうして、名も定かでない“某密輸団”は、権三郎と颯太の暗躍によって壊滅への道をまっしぐらに進み始めた。
※ ※ ※
決着から一夜明けた正午すぎ。
権三郎は、依頼人・鳩森郁美に電話をかけた。
『もしもし、鳩森です』
受話器越しの声には、興奮と戸惑いが入り混じっていた。
「大山田です。ランチタイムにすみません、少しお時間いいですか?」
『はい、大丈夫です』
「では、手短に。まず報告ですが、事件は――ひとまず解決しました」
『えっ!? 本当ですか!?』
「はい。ただし“ひとまず”です。詳しく説明しますね」
『わ、わかりました』
「まず、密輸団摘発のニュースはご覧になりましたか?」
『はい。ネットで見ました。かなり大きな組織だったとか……それが父の件と関係あるんですか?』
「大ありです。ズバリ、あなたのお父上を死なせたのは、そいつらです――正確には、彼らに“近い存在”です」
『近い存在って……どういう意味ですか?』
「直接の実行犯は、ヒグマでした」
電話の向こうで、郁美が息を呑む気配がした。
『やっぱり……本当にクマだったんですね。でもヒグマって……どうして?』
「密輸団がヒグマをトラックで移送していたんです。М山へ続く林道を通過中、ドライバーが便意を催して停車。そのわずかな隙に、クマが逃げ出した」
『え……そんな理由で……?』
「ええ。本人から直接、証言を得ました」
『でも……いきなりそんな話を聞いても、ちょっと信じられません』
「当然です。日本で“密輸団”なんて言葉は、普通は映画や小説の中でしか出てこない。無理もありません」
郁美はしばし沈黙したのち、震える声で尋ねてきた。
『私……これからどうすればいいんでしょう?』
「そこです」
権三郎の声がわずかに強くなる。
「ただ“密輸団が捕まった”というだけでは、あなた個人にとって何の利益ももたらさない。たしかに事件の真相が分かっただけでも一歩前進ですが、それだけじゃ到底ワリに合わないでしょう?」
『……そうですね。スッキリしないままかもしれません』
「でしょう? だから、真の解決とは“モヤモヤを晴らすこと”です。つまり――悪党どもにきっちり償わせる。最低でも数百万単位の賠償金をぶんどるべきだ。お父上の命は戻らないが、それがせめてもの代償です。貴女にはその権利がある」
権三郎の勢いに、郁美は少したじろぎながらも聞き入った。
『……権利、ですか』
「そう。もちろん刑事罰も大事ですが、“組織そのもの”が罰せられるだけでは足りない。逃がした男には業務上過失致死、隠蔽を指示したリーダーには証拠隠滅――これらを追加すべきです!」
『それは……ぜひそうしてほしいです』
「さらに、捜査を怠り猟友会に丸投げした所轄署にも、ペナルティが必要だ!」
『それもすごく同意です!』
郁美は補償よりも、加害者たちへの制裁を望んでいるようだった。
権三郎は腕時計を見て、口調を和らげる。
「いけない、長くなりましたね。お昼の邪魔をしてしまった。とにかく――私は、あなたに“具体的な利益”をもたらします。少し待っていてください」
『でも……探偵さんにそこまで出来るんですか?』
郁美が遠慮混じりに問うてきた。
「出来ます。主犯の罪状追加はすでに手を打ちました。損害賠償も、知り合いの弁護士に頼んで、奴らの資金源から必ず引っ張り出します」
『あの……弁護士費用まではちょっと……』
「心配無用。刑事案件ですから、あなたの負担はゼロです」
『え……本当ですか?』
「本当です。法改正で、犯罪組織の資産から直接、被害者遺族への補填ができるようになったんですよ」
『そんな法律が……?』
「ええ。ようやく、まともな時代になったんです。今までの制度こそ異常でしたからね」
『……でも、どうしてそこまで親切にしてくれるんですか?』
「ふふ、“アフターサービス”ですよ。追加料金は取りません」
『アフターサービス、ですか』
「そう。請求するのは正式な調査費用だけ。私がここまでするのは――“公憤”、まあ正義感のようなものです」
『正義……』
「ええ。世の中、舐めた連中が多すぎる。だからこそ、一発かましてやる。それが私の流儀でしてね」
『そ、それは……心強いです』
「たかが探偵でも、やれることは山ほどある。そう思ってください」
『……はい』
「というわけで、今日の報告は以上。続報をお楽しみに」
『ありがとうございます。あ、そうだ。調査費用をお支払いしないと――』
「それは後で結構。契約は昨日で締結済みです。賠償金の支払いが確定した段階で、こちらにお越しください」
『そんなの、何ヶ月も先では?』
「心配無用。法改正で処理が早いんです。数日もすれば目処が立ちますよ」
『す、数日!? そんなに早いんですか?』
郁美はだいぶ驚いた模様である。
「ええ。世の中、日進月歩ですから」
『……あたし、そういうの本当に疎くて』
「なら、全部この大山田に任せてください。ウルトラハイパーの肩書は伊達じゃないと証明してみせます。それでは、また!」
そう言い残して、権三郎は静かに受話器を置いた。
終章 2
警視庁捜査一課第十一班を率いるキャリア警部補・神谷颯太は、その日、魂が抜けたように憔悴していた。
(うえぇ〜い……予想をはるかに上回るハードモードだぞこれ……。ゴンの奴、貸しはでっけぇぞ……)
昨夜、長年の友人である私立探偵・大山田権三郎から引き継いだ案件――それは、想像を絶する大仕事だった。
大規模密輸団のアジトを単独で制圧した権三郎は、なんと三十七名もの賊たちの“後始末”を、まるごと颯太に丸投げしてきたのである。
権三郎が現場を去った直後、三十名近い制服警官が駆けつけてきた。七割がS県警の所轄署、残りは警視庁の応援部隊。
颯太の指示で特別な武装は持たせず、代わりにトラックやワンボックスカーの荷台に大型照明機器を積み込ませた。暗闇を昼間のように照らすためだ。
やがて照明が点灯し、闇に沈んだアジトの全景が浮かび上がった瞬間、警官たちの間から驚きの声が上がった。
『神谷警部補、これは……どういう状況ですか!?』
『この数の賊は一体……!?』
『皆、拘束済みどころか口まで塞がれてますけど、誰がやったんです!?』
『機動隊ですか? まさかSATが出たとか!?』
質問が矢継ぎ早に飛んできて、颯太は思わず顔を引きつらせた。
「君たち、聖徳太子じゃあるまいし、一度にそんなに言われても答えられん! 順を追って話すから、いったん静かにしてくれ」
颯太は咄嗟に、前もって用意していた“公式説明”を持ち出した。
「えー、その……この賊たちはだな。今日の夕方、私が武装警官隊を率いて、一挙に制圧したというわけだ」
だが、その単純明快な説明を鵜呑みにする者はいなかった。
『その武装警官隊、どんな装備で臨場したんですか?』
『人数は?』
『相手は武器を持ってなかったんですか?』
『指揮官は神谷警部補以外に誰が?』
『ていうか、その武装隊、今どこに? なぜ警部補お一人しか?』
――質問ラッシュは止まらない。
もはや颯太は開き直った。理屈より勢いだ。
彼はメガホンを手に取り、声を張り上げる。
「説明はあとだ! 武装警官隊の連中は消耗が激しくてな、すでに撤収させた! 彼らを一次部隊とすれば、君たちは第二次部隊だ。拘束した賊どもを搬送するのが君たちの任務! 私はこれから環境課に連絡を入れて、このアジトの動物たちの保護を依頼する! さらに本拠地への強制捜査令状も申請しなきゃならん! 時間はもう二十二時半だ! 頼む、今だけは私を信じて全力で動いてくれ! どうか、お願いします!」
言い切ると、颯太は深々と頭を下げた。
天下の“赤バッジ組”がそこまで頭を下げて頼む姿に、警官たちは押し黙った。
やがて「了解です」「任せてください」「後で説明お願いしますね」と声が上がり、隊員たちは散開して拘束者の搬送を始めた。
颯太はその光景を見つめながら、ようやく胸をなで下ろす。
だが安堵も束の間、すぐ現実に引き戻された。
これから環境課への緊急出動依頼、本部への令状申請――どちらも今夜中に片づけねばならない。
あまりのタスク量に、颯太の視界がかすむ。
「神谷警部補、お疲れのようですが……大丈夫ですか?」
近くの若い警官が心配そうに声をかけた。
「大丈夫だ。すまん、少し連絡を入れてくる」
「了解しました!」
若い巡査が敬礼する。颯太も軽く返礼し、足を重く引きずりながらパトカーへ向かった。
運転席に腰を下ろすと、思わず天を仰ぐ。
「俺、この一件が片付くまで、身体もつかな……」
深く息を吐き、携帯を取り出す。
上司への報告を避けるわけにはいかない。
「一課長、神谷です。今、とても厄介な状況でして……」
現場の惨状をかいつまんで説明すると、受話器の向こうで、一課長が長いため息をついた音がした。
終章 3
神谷颯太は、電話の向こうから聞こえてくる一課長の深い溜息を耳にしながら、覚悟を決めて口を開いた。
「一課長、査問会議にかけられることは覚悟の上です。そのうえで、一つお願いを聞いていただけないでしょうか」
『言ってみろ』
「現在、私はS県西部T郡の山奥におります。そこで、大規模密輸団のアジトを制圧しました。いまは三十名ほどの制服警官隊を指揮して、拘束した構成員の移送作業を行っているところです」
『話が見えんな。どういう経緯でそうなった?』
もっともな問いだった。颯太は、昨日の夜に考え抜いた“架空の経緯”を、落ち着いた口調で語り出す。
「少し前に、私の車に一通の匿名の手紙が貼られていたんです」
『内容は?』
「はい。『S県H町のМ山山頂公園で起きた熊害事故には密輸団が関与している。アジトの場所を教えるから、即刻捜査すべし。 〜М山公園を愛する者より〜』と書かれたメモでした。封筒には、アジトまでの地図も同封されていたんです」
『ずいぶん具体的だな』
「そうなんです。最初は悪戯かと思ったんですが、気になって仕方がなくて……非番の日に確認に行ったんです」
『で?』
「外見は物流倉庫のようでしたが、シャッターも窓もなく、無骨なドアが一つだけ。街灯もなく、どう見ても普通の施設ではなかった」
『それで、お前の“趣味”である単独捜査を始めたわけか』
「はい……ご慧眼の通りです」
『平井が嘆いてたぞ。“神谷さんは私に隠れて行動するんです。注意しておいてください”ってな』
平井とは、颯太の教育係を兼ねたバディの新人刑事だ。
「平井には申し訳なく思ってます。今後は、誤解されるような行動は控えるようにします」
『“なるべく”控える、の間違いじゃないのか? まったくお前らしいな』
一課長の声に、呆れと苦笑が混じる。
『それで、その“趣味の捜査”の結果が今に繋がったというわけか』
「はい。現場周辺をパトロールしていた連中が妙に警戒していまして、それに大型トラックが頻繁に出入りしていた。しかも、壁の一部がスライドして搬入口になっていたんです。その瞬間、私はこのリークが本物だと確信しました」
もちろん、その場面を颯太が実際に見たわけではない。すべて権三郎が見てきた映像をもとにした、創作の報告だった。
『それで今日、お前は私に相談もせず、独断でガサをかけたわけだな?』
「申し訳ありません。一課長に余計な心配をかけたくなかったもので……つい」
『まぁ、お前の暴走癖は今に始まったことじゃない。驚きはせん。で、どうやって踏み込んだ?』
「ええと、懇意にしている制服組に協力をお願いしまして……」
『さしずめ“神谷親衛隊”か。何人連れて行った?』
「すみません、正確な人数は……かなり多かったです」
『ふん。小学生みたいな返事だな。その“かなり多い兵隊”を率いて突撃したと』
「はい。入口が一つだけで、呼び鈴もなかったものですから……」
語るほどに、嘘の綻びが滲んでくる。
『ドアをドンドン叩きまくった、ってところか?』
一課長の声色は、叱責というより、いたずらを見逃してやる父親のように柔らかかった。
「……という流れで、現在に至った次第です」
颯太が蚊の鳴くような声で締めくくると、受話器の向こうから静かな声が返ってきた。
『よし、話は分かった。それで、お前の“お願い”ってのは何だ?』
颯太は、思いがけず理解を示した一課長に驚きつつも、本題を切り出した。
「はい。先程申し上げたように、これは野生動物の密輸団に間違いありません。アジトには多数の動物が拘束・飼育されています。彼らを死なせないためにも、生活安全部の環境課に人員を急派していただきたいんです。できれば獣医師の同行もお願いします。正直、私も前例がなく、どこに協力を仰げばいいか分かりません!」
『だろうな。俺も分からんが……よし、すぐ生安に話を通す。お前は現場で待機しろ』
「ありがとうございます!」
『うむ。では――』
「一課長、もう一件だけ!」
『まだあるのか。まぁ予想はつくがな。手短に話せ』
「はい。密輸団の本部、本拠地についてです」
『やっぱりな。だがその辺の取調は、明日以降になるだろう』
「いえ、すでに場所は判明しています!」
『……神谷。もう吐かせたのか?』
「はい、吐かせました!」
『まさか拷問まがいのことはしてないだろうな?』
「ご安心ください」
『その証言、信頼できるのか?』
「確実です!」
そうして、権三郎から託されたUSBメモリ――密輸団本拠地のデータを格納したそれ――は、警官の一人によって即座に警視庁へ運ばれることとなった。
深夜零時を回る頃には、環境課の職員と獣医師チームが現場に到着した。
颯太は彼らを案内しながら、アジト内部の動物たちを一体ずつ確認していく。
午前二時、今度は一課長から連絡が入る。
『本拠地へのガサ、始まったぞ』
異例のスピード令状だった。颯太は思わず絶句する。
さらに、アジト周辺に転がされていた三十七名の賊たちも、各署へ分散して搬送されていった。
めまぐるしく進む現場に、颯太はもはや現実感を失っていた。
――そして朝。
徹夜明けの目をこすりながら、颯太は再び一課長に電話をかけた。
「おはようございます、神谷です」
『おう。お疲れさん。大変だったな』
声の調子からして、一課長もまた徹夜明けらしい。
「密輸団メンバーの移送は全て完了しました。動物たちの搬送や処遇はこれからですが、死亡報告はありません」
『それは何よりだ』
「一応、現場は落ち着きましたので、これから警視庁に戻ります」
『神谷、お前も限界だろう。二時間ほどパトカーで仮眠してから帰ってこい』
「よろしいのですか?」
『帰りに事故でも起こされたらたまらん』
「……ありがとうございます。では、そうさせていただきます」
報告を終えると、颯太はシートを倒し、目を閉じた。
(はぁ……俺の警察官人生、ここで終わりかもしれんな)
そんな独り言を胸の内で呟きながら、やがて静かな寝息を立てた。
終章 4
颯太は二時間の仮眠を取るつもりでアラームをセットしていたが、結局三時間も眠りこけてしまった。
時計を見ると午前九時。慌てて飛び起き、パトカーのエンジンを始動する。
搬入口の開閉スイッチの位置は、昨夜のうちに権三郎から聞いていた。どうやら、彼がアジトのボスを締め上げて吐かせたらしい。
建物の周囲では、搬入口やドアから人の出入りが絶えない。さらに驚いたことに、仮眠前にはなかった大型トレーラーが三台も停まっていた。
颯太は窓を開け、「それでは皆さん、あとはよろしくお願いします!」と大声で挨拶すると、アクセルを踏み込んだ。
帰庁の途上、ハンドルを握りながら今後の身の振り方を考える。
(今度ばかりは覚悟を決めなきゃな……。降格ならまだマシ。島流しの駐在所行きが現実的な線か。いや、懲戒解雇もあり得るな。そうなれば退職金もパー。転職っていっても、警察官って意外と潰しが利かないんだよな……)
暗澹たる思いが胸を満たしたが、不思議と権三郎を恨む気にはならなかった。
(元をただせば、あの所轄がちゃんと捜査してれば事件性ありと判断されたはずだ。ゴンは俺たちに代わって真相を暴いた。責めるのは筋違いってもんだ)
「まあ、なるようになるさ」
呟くと、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった。
道の混雑もあって、颯太が警視庁の刑事部に戻ったのは午前十一時過ぎだった。
デスクに直行し、颯太は深々と頭を下げる。
「遅くなってすみません。神谷、ただいま戻りました!」
「おう。事故ったんじゃないかと心配したぞ。まあ、頭を上げろ」
一課長は気さくに言ったが、颯太は十秒ほど頭を上げられなかった。まさに“顔向けできない”という言葉の体現だった。
「この度は勝手な行動をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした!」
颯太が顔を上げると、一課長は「まあ、とにかくお疲れ」と穏やかに労った。だが、すぐに表情を引き締める。
「神谷、本日午後一時からお前の査問会議が開かれる。俺は何も言えんが……とにかく、昼メシは食っておけ」
「承知しました。どんな処分も受ける覚悟です」
「神谷」
一課長は低い声で遮った。
「俺は“現時点では”何も言えんと言ったろう。とにかくメシを食え。倒れられたら困る」
「……分かりました。何か胃に入れてきます」
颯太は同僚たちの視線を背に、そそくさと部屋を出た。
もちろん、食欲などあるはずもない。
それでも倒れるわけにはいかず、庁内の食堂で消化の良いうどんを選ぶ。砂を噛むような味しかしなかったが、少しだけ体力が戻った気がした。
――そして午後一時。
いよいよ査問会議のときがやってきた。
颯太は死刑台へ向かう囚人のような気持ちで会議室の席に座った。
長テーブルの中央には刑事部長、その右に参事官と理事官、左には一課長と管理官。階級でいえば警視監、警視長、警視正クラスの幹部たちがずらりと並ぶ。
壮観な光景に、颯太は一瞬、現実感を失いかけた。
「では、査問会議を始める。君は神谷颯太警部補、本人で間違いないね?」
「はい、間違いありません」
刑事部長の声が響くたび、手が小刻みに震える。
「結論を言い渡す」
颯太は奥歯を噛み締めた。まるで死刑宣告の前置きのようだった。
「今回の件――貴殿を『戒告』処分とする。ただし……」
刑事部長は一拍置いて、口角をわずかに上げた。
「建前上は、だ。実質的には『訓告』で済ませる」
「……えっ!?」
颯太は驚愕のあまり、危うく椅子から転げ落ちそうになった。




