雷は絆を呼ぶ
「鈴堂寺については感謝しているが、それとこれとは話が別だ」
ああ、やっぱり逃してはくれなかったか。まあ、わかってたけどさ!
「まあ、そうですよね」
先ほどのピリピリとする空間の会議に戻ったことで生徒会メンバーの気も引き締まっているのだろうが、俺のケロッとした発言で皆さんにはめでたく眉間にシワがよりました。
「高嶺先輩が言ってましたよね?今であれば生徒会制度に則り、部外者でも発言できるって。それは緊急性を要する案件を持っているのであれば部外者が立ち入ることを許可するという意味ですよね」
「私がいつそんなことを言いました?」
「俺が入る前です」
「盗み聞きですか」
「偶然聞こえてきまして」
「あなたの持ってきた案件は緊急を要していましたか?」
「出なければ先輩のあの発言は矛盾してますよ?」
「・・・」
あ、目ぇ細めた。
「なるほど。では、突然の介入に関しては不問としよう。それで、高嶺に対する侮辱的言動についてはどうする?」
「俺にとっては審問、という方が正しいのですがまあ相手がそうやって受け止めれば侮辱に当たるんでしょうね」
「では、私に対するその言動を認めるというこ」
「ですが、これについても生徒会制度で免除していただこうかと」
「なんですって?侮辱的行為を許す制度なんてありませんよ」
「あるじゃないですか。その緊急性事項に」
「・・・」
そこ!生徒会長並びに副会長、そして水戸先輩と爽太!面白そうにニヤけるんじゃない!
「まず確認したいんですが、俺、高嶺先輩以外に何かそう受け取れる発言はありませんでしたか?」
「いや、ないね。扉を蹴破るのは問題だけどそれが直接の侮辱行為に当たるわけじゃない。それも生活指導室で反省文を書けばいいだけの話だしね。大丈夫だよ」
俺がわざとらしく生徒副会長に視線を送ると、期待通りの回答が待っていた。
この答えが欲しかったんでしょと言わんばかりの顔はやめていただきたいが、今は無視だ無視!
「ということで、この一点になるんですが。制度の中に、緊急性の案件であれば直接の審問の許可が下りるってありましたよね?これですよ」
「あれは審問ではなくて侮辱だと私は捉えているのですが」
「審問って詳しく聞き出すっていう意味ですよね?あれはその意味に当てはまっていると思いますが。第一侮辱というなら最初に先生が言った言葉にこそ使える言葉じゃないですかね?」
「なっ!事実を言って何が悪い!」
「ほら。これと一緒ですよ。俺が侮辱だと言っても相手がそれを真実だと思っている。俺からしてもさっき高嶺先輩に聞いた言葉は侮辱ではなくて単なる事実確認だったんですよ。んで、あれは緊急を要する場合だったためその事実確認は容認されるということです」
「そんなのただの屁理屈だろう!」
「その屁理屈をあなたもしているんじゃないですか。生徒会会議に例外があっては不公平じゃないですか。俺はあなたがそれを認めない限り俺も同じことをする権利がすでにあると思います」
「先生、認めますか?」
「・・・くっ。俺は認めない!」
「なら、俺も制度に守られますね」
問題児の俺を見下していたプライドの高い教師たちは、何やら悔しそうにしていたが、そんなもん知ったこっちゃない。むしろ今回は彼らのプライドがなければ成立しない内容だったんだが、ざまあ見ろ!である。
爽太からは会議後にお礼を言われた。あの時は内心ヒヤヒヤしたけど、かわれそうだったから黙くことにする。
蓮からは謝罪があった。あったにはあったのだが・・・。
「あんたが余計なことをするバカだとは知っていたけど、・・・悪かったわね。というか、もっと別の介入の仕方があったでしょう!あんな喧嘩売るような態度でドアを蹴破ってくるなんて!本当、バカじゃないの!」
お詫びという名の貶しであった。
ホームルームも終わって、やっと全てが終わったかという思いで帰宅準備をするものの。
「おい、天野。お前今日、日直だから書類と日誌の提出、忘れるなよ」
腰を浮かせたところで、先生に去り際、指をさされて忠告されてしまった。
そうだった!忘れてた!
「あ!日誌書いてない。プリントもまとめてない!」
しまった!団子三人組を摘発できてホクホクしすぎた。
「その様子じゃ、日直の仕事一つもしてなかったんだね?㝫」
「ばっかじゃないの!さっさとしなさいよ!」
爽太に苦笑され、蓮に怒鳴られた。
帰りたい。
鳴海におちょくられながらも帰りたい思い一心に仕事を終えた。疲れた肩をほぐしながら教室を出て鍵をかける。
結局、三人とも俺が終えるのを待っていてくれたのだ。
あの事件から、俺たちは極力みんなで行動するようになっていた。昔からそうだったんだけど、最近は特に意識するようになったというか。
「くそっ、鳴海のせいで集中できなかった」
「わぁ、人のせいですか〜。最低です、リュウっちが集中するなんてまずありえないですから、結局は同じことじゃないですか〜」
「お前、俺のことなんだと思ってんだよ・・・」
「えーと、面倒くさがり、サボリ魔、授業中寝てる、鈍感、ニート、ろくでなし、あとは・・・」
「わかった。お前もう喋るな。ていうか、最後のは何だ!ろくでなしはなんか違うだろ!」
廊下の窓からは赤い夕日の日差しが差し込んでいる。沈みかけてるから、もう夜になるか。廊下を歩きながらぼんやりと外を眺めていると、不意に声がかかった。
「柏木たちか。今日はお疲れ様だったな」
手を挙げたのは水戸先輩だった。前方に何人か見える。今日の会議の主要メンバーだった先輩たちだ。
先頭を歩くのは生徒会会長である宮寺秀清先輩、その後ろに水戸先輩、副会長の水谷彰先輩、会計の高嶺先輩と大友、書記の近藤先輩。庶務は今回いないらしい。
2年である俺らと同期の大友と庶務以外は、全員三年だ。
「先輩方、お疲れ様です」
爽太と蓮は腰を折って挨拶していた。役員になるとこうも堅苦しいのか。
目の前の光景にうんざりしていると、冷めた声が降りかかった。
「普段の行動は周りの信頼に関係します。あなたも柏木くんたちを見習って、慎重に行動しなさい」
高嶺先輩だった。もしかしなくても、粛然とした態度を崩さないまでも、威圧感がある。今日の会議のことを根に持っているんだろうか。怖い怖い。
苦笑を浮かべた水谷先輩の後ろで、近藤先輩はあたふたしながら仲裁しようとして、失敗していた。ちょっと忙しない人である。大友先輩はまたか、という感じでため息をついている。こういうことはよくあるのかね。苦労人の風貌だ。
宮寺先輩は無言。普段から滅多に口を開かないが、何か雰囲気がある。
結局、宮寺先輩はこちらに一瞥をくれただけで通り過ぎて行った。一瞬、鳴海を睨んだのは気のせいだろうか。鳴海は鳴海で珍しく険しい顔をしていた。
去り際に水谷先輩から「頑張れよ」とか言われ、大友にポンポンと肩を叩かれた。何を頑張るんですか。そして、何のフォローだ。
「鈴堂寺に関してはお手柄だったぞ。もう少しお前がおとなしかったらなお良かったが」
笑いながら水戸先輩が言った。そうですか、あなたたちも俺を問題児扱いですか。まあ、自覚はしていましたけどね。
「なんなの、あの嫌味な女」
仏頂面で蓮がぼそっとつぶやく。木刀を握りしめると更に迫力があるから、やめてくれ。いまにも振り回しそうで危ない。
「おいおい。一応先輩なんだから」
「そういう㝫も失礼だね」
「窿っちが失礼なのは、いまに始まったことじゃないじゃないですか〜」
「お前は俺に失礼だよな」
正門を抜けると、バス停に向かって道を下る。
あの駄菓子屋があった場所に差し掛かると、自然とみんなの口数が減ってくる。その道は一部、封鎖されていて立ち入り禁止となっているが黒く焦げた跡は当時を思い出させる。
ふと、吸い込まれるようにそこへ目を向けると一つの人影がうごめいていた。フードをかぶっていて顔は見えないが、なんか怪しい。あ、俺たちに気づいて、裏に続く細道へと入っていった。
「なあ、あれって・・・。あ、おい!」
誰に問いかけるでもなく口にしたが、瞬間、蓮が影を追って飛び出して行った。
「まったく!」
「あらら〜。クーちゃん、ちょっとは考えてから行動してくださいよ〜」
俺たちも駆け出して、蓮を追った。
角を曲がって。
「うお!あぶねっ」
蓮が不審者に向かって木刀を振り下ろしていたが、躱された挙句に肩を弾かれてこちらに倒れてきた。慌てて蓮の肩を掴んで支える。
つか、蓮の剣筋を躱すって、そんなことができる人間居たんだな。
不審者の動きが止まる。逃げるか迷っているようだったが、突然、鳴海が首を傾げた。
「敦子先輩?」




