雷より断罪
バンッ!
「しっつれいしまーっす!」
ドアを勢いよく開くと全員が豆鉄砲を喰らったように目をひんむいた。
静まった空間の中、痛いくらいの視線が突き刺さる。
いやぁ、こんなにも注目されると恥ずかしい。
俺の目の前には全学年委員長と生徒会メンバー、担任教師。
後ろには団子三兄弟。三人とも肩や足、頭などをさすっている。
「おい、サボリ魔が何をしている!会議中だ!出ていきなさい!」
いやいや、会議はあと10分後でしょ。先に始めてたのはあなた達でしょうが。
しかしこの後ろにいるBクラス委員長をさし置いて会議を始めてると言うことは、それほど必要とされていないんだな君。
哀れみを込めてそいつを見ると怪訝な顔をされてしまった。
それにしても、名前も知らない先生にまでサボリ魔扱いされるとは。
しかし、他の担任達も同意のようで、きつく睨まれてしまった。
それより...、
蓮さん、その木刀を持った手を下ろそうね?
怖いから。たぶんその一撃喰らったら死んじゃうよ?
爽太は蓮の殺気を感じてこちらに苦笑いを送ってきた。
爽太に目線を合わせながら答えた。
「いえね、Bクラスの委員長が時間を勘違いしてらっしゃったので案内させてもらっていたんですよ」
すると、爽太の苦笑いが不敵な笑みに変わった。
お前また何かやらかす気だな、と。
失礼な!俺はトラブルメーカーではない!
しかし、頭の中で突っ込みを入れた俺に返ってきた言葉は意外なほどに無感情だった。
「部外者に発言権はありません。退出してください」
「部外者ねぇ。むしろ当事者だと思うんですけど、生徒会会計の高嶺さん?どうせ話し合ってたのって一週間前の事件についてでしょう?ご自身らで事件を解決するつもりですか?警察ですら犯人を捕まえられていないのに?」
眼鏡の奥にある黒目が猫のように鋭くなった。
獲物を睨むように。どうやって仕留めるか考える捕食者のように。
これは憶測だったんだが意外といい線行っていたようだ。だって、プライドの高い生徒会。これを解決できなければ生徒会の恥です、とか高嶺先輩行ってそうなんだもん。
「発言失礼いたします!いい加減にしなさい、嶐」
俺たちが睨みあっていると、いきなり怒声が飛んできた。
声の主の近くにいたものはビクッと肩を跳ね上がらせた。
蓮だ。
髪を揺らしながらつかつかと俺めがけて歩いてくる。
木刀を握りしめながら。
「ええっと...。ちょっと落ち着こうか、蓮さん。」
なぜだろう。蓮の後ろに般若の顔が見える。
「なにを、どうやって、どうして、落ち着かなければ、いけないの、かしらっ!」
「うおっっ!」
蓮が最後の一歩と同時に木刀を斜め斬りの要領で瞬時に振り下ろす。
あっぶな!!!
右足に全体重をのせて体を傾かせ、その勢いで後ろに後退する。
「っと。おいっ!当たったらどうするんだ!」
「当てるつもりで斬ったのよ!なんで避けるの!あんたが乱入してきたら爽太がさらに責任を問われるのがわからないの?!」
真面目で何でもそつなくこなすエリートの爽太
それに対し、サボリ魔でいつもやる気のない問題児
2人が一緒にいるのは教師や委員会からも良く思われておらず、言っても聞かない俺のしわ寄せが爽太にいくのだ。
そして最後にはみんな揃ってこう言う。
あんなやつとは縁を切れ、と。
そのうえ会議の妨害、侮辱的な発言をしたとなると、俺はもちろん爽太にまで被害がでるんだろう。
そんなことがわからないのかと、蓮は言っているのだ。
もちろん、わかってる。
わかってて、今ここにいる。
「俺、そこまで馬鹿じゃないよ?」
少し真顔になって言ってみた。
蓮は、その顔を見て俺がふざけてここに来たのではないと悟り戸惑うが、納得いかなかったようだ。
それもそのはず。
俺、まだここに来た理由、皆に言ってないからな。
大丈夫、アフターケアもちゃんとするからさ。
「なら、何でここに来っっ?!」
というわけで、説明しようと思ったが面倒くさくなったので手っ取り早くいこうと、録音機を蓮の前にずいっと持ち出し、再生ボタンを押した。
カチッ
ザザザッ
――――――――――――
『ほんっと、粘り強いなあいつ。さっさと引退しろよあの堅物が!』
『マジそれだね』
『で、でもさ、あれだけ噂ながしとけば、な、なんとかなるんじゃないかな』
『なんとかなるって、柏木が自滅するとか?』
『う、うん。』
『なるほど。あの変な噂はお前らが元凶だったんだ』
『はあ?お前俺の計画ちゃんと聞いてたのか?あいつがいなくなればBクラス委員長である俺が昇格できるんだ。どうせ親の七光りかなんかでセンコーどもに媚びうって卑怯な野郎を俺が公正させて何が悪い!俺の方が!・・・って、なんで今更聞くんだウゼェな!』
――――――――
そのあとで俺がこいつらをねじふせて引っ張ってきたのは秘密だ。
途中、不快感を表すざわめきが起る。それほど爽太はメンバーから信頼は獲得していると言うことなのだろう。
が、俺がテープを切ると気まずい沈黙が部屋に行き渡った。
コチッコチッコチッ
時計の秒針が誰か何か喋れと、急かしているようだ。
「あれは本音か、鈴堂寺?」
重々しい空気のを切り裂いたのは、水戸進吾、風紀委員長だ。
その怒っているともとれる低音の声と自分の名前が呼ばれたことに、今まで下を向いて手を握りしめていた他クラス委員長は飛び上がった。
「で、でっち上げです。あんなもの!僕はこいつに脅されてっ!」
俺を指差しながら懸命に逃げ道を探しだす鈴堂寺。
「もし、」
鈴堂寺の話を遮り、水戸先輩がゆっくりと口を開いた。
「お前が天野に脅されたとしよう。だがお前はその証拠を持っているのか?」
「そ、それは」
自分の首を絞めるとはまさにこの事だな、と心の中で苦笑する。
「ぼぼ、ぼ、僕は鈴堂寺くんに無理やり噂を流すように指示されただけです!」
「そ、そうだ!俺達は関係ないんですよ!」
何を思ったのか、鈴堂寺クラスの腰巾着が急に無関係を主張し出した。
仲間の裏切り行為に目を見開いた鈴堂寺は、桜餅のように顔を紅潮させ、激怒した。
鈴堂寺が怒鳴り散らそうと口を開きかけたその時。
「うるさいなぁ」
大きな声で言ったつもりはないだろう。だが、その声はマイクを通したようによく響き渡り、あらゆるものを抑制した。
みんなの視線の先には、薄ら笑いの爽太がいた。ただ、その目には静かな怒りが燃えたぎっている。
鈴堂寺はその声に勢いを殺され何に怒っているのかも忘れてポカーンとしていた。
「君たちの言い訳なんてどうでもいい。仲間内で争うのなら後で存分にやっていいよ。
それよりもさ、なんで窿までも犯人って言う噂流したわけ?」
誰も答えるものはいない。
殺気とも呼べる鋭い視線を直に受けている鈴堂寺は、いつもと違う雰囲気の爽太に青ざめている。
他の出席者、教師も含めみんなが爽太の豹変に驚いていた。
「窿がそんなに邪魔だった?ムカつくのは俺だったんだろう?なんで巻き込むわけ?噂でみんなが混乱するってわからないのかな?
・・・。
あのさ!聞いて」
「爽太」
声量を上げだした爽太に呼び掛ける。ハッとした爽太は俺の視線で落ち着きを取り戻した。
あぶないあぶない。優等生である爽太が一方的に怒鳴り散らすのはマズイ。
爽太は自分の失態に顔をしかめるが、イケメンは何をやっても様になるようだ。
しっかしまぁ、怒ってますなー、爽太くん。
昔からコイツは変わらない。
自分は何を言われても涼しい顔をしているくせに、友達が悪口を言われただけで激怒する。
あら、自分で友達と言ってしまった!少し照れるな。
まあ要するにそれほどいいヤツなのだ。こいつは。
優等生のイメージを壊してもいいほど仲間を思える純粋さがある。
教師が言いたかったことを爽太に言われたからなのか、そのあとは質問もそこそこにテーマは事件から鈴堂寺の行き過ぎた行動についてとなった。
「で、君は今回の乱入についてはどう責任を取るつもりなんだ?」
録音内容を認めた鈴堂寺がすごすごと生活指導の教師に引き連れられて退場するのを待ってから、水戸先輩が相変わらず渋い声でおっしゃった。
「鈴堂寺については引っ張ってきてくれて感謝はしているが、それとこれとは別問題だ」
ああ、やっぱり見逃してはくれないですよね。




