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24. 第1章 第23話 『見えない敵と、最強のサポート』

「くっ……そこ!?」


 何もない空間から突然放たれた不可視の鋭い爪を、風鳴音を頼りに間一髪、大鎌の柄で受ける。


 あれから7日、休みなく毎日亀裂を攻略し続けて11個目。

 初挑戦のE級亀裂、敵はまんま大型狼の大きさと形をした、ミラージュ・ハウンドの群れ。


「さすがにE級になると、一段敵も厄介になる……っね!」


 二の腕に僅かな切り傷を受けながら辛うじてバックステップで回避。

 姿を完全に透明化させる厄介な能力のせいで、アタッカーとして未熟な私の目や魔力への感度では、攻撃の出がかりどころか敵の居場所すら捉えられない。


 見えない敵への恐怖に足がすくみかけた、その時だった。


『ふっふ~ん。所詮、光の屈折で姿しか消せないようじゃ、亜夢ちゃんの敵じゃないんだな〜。足音も空気の揺れもダダ漏れとか、ド三流のステルスだっし~』


 ピコピコと動く猫耳ヘッドホンから、全く緊張感のない、けれど絶対的な自信に満ちた亜夢さんの声が響く。


『随伴ドローン、超音波パルス出力最大! 反響定位(エコーロケーション)による空間マッピング・データを、黎ちゃんの視覚に直接オーバーレイさせるよっ!』


 みょん、っと猫耳ヘッドホンから映像照射用のミニアームが伸びる。

 ドローンが放つ人間の耳には聞こえない音波が、空間の障害物に当たって跳ね返る。その反響データを亜夢さんがリアルタイムで解析し、私の網膜にAR表示として映し出してくれる。


『ほら、丸見え♡ ざぁこ、ざぁこ』


 直後、何も無いと思っていた荒野の空間に、輪郭のぼやけた『薄赤色の靄(もや)』がいくつも浮かび上がった。

 完全な姿形までは分からない。けれど、どこに、およそどれくらいの大きさの敵がいるのかは、手に取るように分かる!


「……これなら!」


 薄赤色の靄が腰の高さに浮かび上がる。たぶん噛みつこうとしているのか、あるいは鉤爪で引き裂こうとしているのか、強靭な後ろ足のバネで地面を蹴って飛びかかってくる軌道だ。

 狡猾に後ろに回り込む数体も、俯瞰映像の光の点として視界の隅に映し出されている。

 まるで使いやすく工夫されたゲームのUIみたいな情報表示。


 これだけ手厚い支援で、おおよその位置まで見えていれば、短期間で急成長を遂げた私にとってなんの問題もない。

 ステップを踏んで正面からの跳躍を横に躱し、空を切った見えない敵の胴体があるはずの空間を、大鎌『終夜の紫刃』の鋭い刃で、くるりと身を回しながら無慈悲に両断する。


 ギャンッ……!


 手応えすらなく虚空から醜い悲鳴が上がり、透明化が解けた獣が真っ二つになって黒い靄へと変わっていく。


 首筋と、足首。

 異なる高さを狙って、左右から同時にとびかかってきた赤い靄の表示を、白銀の髪をなびかせ一閃と共に薙ぎ払う。


 回転の勢いが乗り始めた私はもう、止まらない。

 ぐるぐると、威嚇するように周りを取り囲むミラージュ・ハウンドの隊列に、楔を穿つが如く突っ込む。


 ひらり、ひらり。

 短いスカートが捲れあがらない程度に、優雅に舞い踊る私。

 紫雫に散々矯正してもらったおかげで、大鎌の舞いもかなり洗練されてきた。


 刃筋だって、ほら。

 するり。

 大した手ごたえも感じないほどしっかりと刃が敵を引き裂く。


 もはや透明化に意味がないと悟ったか、身体強化に魔力の全てを回したらしいひときわ大きな個体が、アッシュグレーの姿を現す。開かれた顎を、強化した視覚でしっかりと捉える。


 鋭い牙をするりと避けて、大きく開かれた口の両端を結ぶように、アメシストの刃を振るう。

 紫雫の魔力がもたらす超重量と圧倒的な硬度をもって、比較的脆弱な『目』として捉えた頭蓋の隙間、顎関節のつなぎ目へとすーっと刃を通す。

 抵抗一つ感じさせることなく、群れのリーダーであるE級亀裂のボスを上下二枚に捌く。


 血飛沫の代わりに黒い靄と化していくお陰で、心地悪さも感じずに済む。

 ――2日目のF級亀裂では、ちょっと思い出したくない目にあったから。


『おっけー! 撃破確認。黎姫、大鎌の扱いもすっごくサマになってきたね! 弱点看破も堂に入ってるし、やるじゃんやるじゃ~ん』


「亜夢さんのおかげだよ。見えない敵を見えるようにできるなんて、すごすぎるよ」


 ズンッと、無数の宝石花の薔薇に彩られた棺桶を呼び出し、大鎌をそっとしまえば初E級亀裂攻略――殲滅、完了。


『えへへ、もっと褒めていいよぉ? でもまあ、ランクが上がってスキル枠が解放されたら、きっとそういうのだって黎姫だけでも解消できちゃうと思うけどね~。さ、次行こ、次! 都市部の不人気亀裂お掃除は、世のため人のためにもなる善行だし~? ギルドは報償金が浮いた分、黎姫に感謝してもいいと思うにゃ~』


 あはは。

 まあその分は、雪奈姉の補助金でずっと、ずっと――むしろ、大変だった『僕』にこそ、返しきれないほどにしてもらっていたみたいだから。


「でも本当、不人気な亀裂って、連日攻略してもなくならないくらいあるんだね。遠征もしないとだめかと思っていたのに、富士魔導特区だけでこんなにあるだなんて」


 勿論、亜夢さんが優秀っていうのが大きいのはわかっているけれど。


『PRISMAの中で攻略者(アタッカー)になれるのは約25%。全世界どこにでも亀裂はぽこすか増えるのに、その3万人程度で攻略し尽くすには人数が絶望的に足りないの。ここまで縮小した人類生存圏だけを優先してすら、ね。あ、外に出る時、特区外壁のすぐ外でE級亀裂がスタンピード起こしたから、一応気を付けて』


「了解」


 亀裂核(宝箱)を開封して、亜夢さんの人形……メイド姿の等身大魔力駆動人形が運転してくれているコンテナに戦利品を格納。

 剥離する宝石みたいな煌めきが美しい。けれど、対照的に闇の世界が迫り閉じる閉塞の様子がちょっと恐ろしい、亀裂の終息と共に外に出ると確かに抑え目の警報が鳴り響いていた。


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