16. 第1章 第16話 『スパルタ指導と死の舞踏』
夕焼けの赤に染まる絹糸のような白銀の髪がふわり、扇のように広がる。
身の丈を超える大鎌が風切り音を上げ、軌跡を常に変えながら旋回を繰り返す。
左、右、左、右。ダンスのステップを踏むように軽やかに脚を組み替え、くるくると回りながら。
破壊の旋風を伴い、透けて消えてしまいそうに儚げな美少女が、荒野を進む。
しかし、そこに連なる音を聞けば、誰もが二度見をしてしまうこと間違いなし。
うん、僕自身、客観的に見たら絶対にそうするもん。
ドン……ドゴンッ。ズズゥン!
ドガァ……グシャッ。ズドバーーン!!
時に転がる礫を使ってジャンプするように空を舞い。
時に砲弾のように大岩の傾斜を滑り台代わりに使って上空から落下し。
時に連携攻撃とばかりに、高速突進を多方向から同時に繰り出す、アイアンアルマジロたち。
そのことごとくをギリギリ視認できる程度に、体内魔力を視覚強化に振り分けて見極める僕。
お陰でなんとか大鎌の旋回を、野球でバットをボールに合わせるみたいに『当てる』ことだけはできるようになった。
それもこれも破壊力は、紫雫の魔力で編み上げられた魔装自体に備わっていたおかげ。
この大鎌、僕自身には油断すると武器を持っていることなんて忘れそうな、せいぜい学校の掃除に使う箒くらいの重さしか感じていない。でも、相手のモンスターからすればS級の魔力濃度で圧縮された刃は、大型ダンプカーが突っ込んできたみたいな超重量の質量兵器に感じられるらしい。
こんな武器、それこそA級、S級の上位探索者だって手にできるかわからない、最高級アーティファクトみたいなもの。
そんなとんでもない武器をもってして、武器破壊特性で探索者達から嫌がられる魔力で強化された鋼鉄の外殻を、えげつない音をさせながらベコベコに叩き潰しては砲弾を打ち返すみたいにあっちこっちに跳ね飛ばしている。ホームランされたアルマジロが岩塊に突き刺さり、砕き散らし、次々と黒い靄になって消えていく。
そう、斬ってるんじゃない。ただ跳ね飛ばしているんだ……僕からすれば、バットを振り回してひたすらぐるぐると身体を回しているみたいなもの。
「せめて立ち止まって、振り下ろさせてよぉ……ひぅ……振り下ろさせてくださいぃ~~」
創り出した魔装、大鎌の優美さに見蕩れる僕めがけて突進してきた巨大カボチャみたいな大きさのアイアンアルマジロ。
接近に気が付いて、思いっきり腰を落として、脚を開いて、横薙ぎに振り切ろうとしたら、炸裂した紫雫のお仕置き。
あられもない悲鳴を上げて腰砕けになりかけたけれど、この身体が傷つくのも許せないらしい彼女は、僕の神経とは別の経路――魔力回路に勝手に魔力を流し込んで操作し、ギリギリのところで回避運動を強制発動させた。
これまでも何度か感じていた、ピリピリしたり、気持ちよくさせられるこの感覚。その正体は彩晶石から身体中に張り巡らされた魔力回路に、紫雫の魔力を無理やり流されて引き起こされているみたい。そうやって、操り人形みたいに僕の身体や感覚に介入してるんだ。
そして時には彼女の感情や意識を同じような仕組みで、それとなく脳内に伝えている、と。
脳に深刻な後遺症とか……発生したりしないよね?
兎に角、初めての大鎌の一振りはそんな滅茶苦茶な動き、力の入っていない情けない一撃だったわけだけれど。
それでも大鎌の先端は、地面に思いっきり叩きつけられると轟音と共に僕が数人は入れそうなクレーターを作っちゃった……。
そこからはもう大変だった。
ただでさえ大きな音を何度も出していたせいもあってか、次から次にアイアンアルマジロが押し寄せてきて。
まだ亀裂に入ってほとんど進んでいなかったから、当然のように背後にある薄赤色の出入り口に逃げ込もうか悩む僕を、紫雫は決して逃がさなかった。
素人の僕に、綺麗な刃筋を立てるとか、弱点になる“目”をいつでも的確に狙うなんてできるわけもなく。
とにかく必死で四方八方から突進してくる敵に当てることだけを考えた結果、大鎌は超重量級の鈍器として振るわれた。
たまぁにまぐれで刃が綺麗に通ると、それはそれで僕にとっても不意打ちになって、撃ち返される代わりに真っ二つに分かれたまま慣性を維持して突っ込んでくる敵の残骸と衝突しないように、変則的なステップを踏むことを余儀なくされる。
少なくとも30体は倒したころには、地面にそびえていた大岩は打ち返された敵の激突で軒並み粉砕され、視界はずいぶんすっきりしていた。
「うぅ……ひどい目にあった……。けど、戦えた……! 戦えたんだ!」
振り向けば、虚空に浮かぶ歪な裂け目――亀裂の出入り口も随分と後方になっていた。
たった一人で敵の群れを倒してきたおかげで、討伐報酬になる倒した敵から放出された靄(魔力)の一部を吸いこんだ僕の彩晶石は、夕陽の中でもはっきりとわかる薄赤色に染まっている。
簡単なダンス擬き(もどき)のステップでも、骨格から女の子に変わってしまった僕にとっては凄く難しかった。
関節の可動域とか、筋肉のしなやかさの違いなんだと思うけれど、頭で考えた動きと実際の身体の動きがすごくズレていて。その都度、姿勢を正すように魔力回路に干渉(お仕置き)してくる紫雫は、厳しいようで実は優しいのかも……なんて思うのは、ちょっと調教されてきているみたいで怖いかもしれない。
でも、実際。
そもそも、大鎌なんて教えてくれる人がまず見つからないと思うし……お金を出して武術を習うなんていう悠長な時間も経済的余裕もない僕にとって、動きを強制的に――女性らしくっていう絶対的な要素はあるにしても、補正してくれる紫雫は、最高の戦闘インストラクターなのかもしれない。
だって、そっとステータスを開いてみれば。
▶▶ PRISMA STATUS ―――――――――――
[Lv]1 ⇒ 2 ▲ 『頭を揺らさない、優雅に歩きなさい』
[魔力]5 『どんな時も息は乱さず、全てに循環を意識』
[干渉力]2 ⇒ 4 ▲ 『まだまだね、でも、いい子よ』
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まだまだ、駆け出しもいいところ。
でも、どれだけ頑張っても干渉力の上昇なんていう当たり前すら得られなかった僕が……急激に成長できているんだから!
『虚ろなる器』に間違いなく阻害されていた、干渉力成長の枷が外れて。
つきっきりで実戦指導してくれる紫雫がいて。
これならいつか、きっと、遥かな高みだって目指せる。
ずっとずっと先のことではあるだろうけれど、A級UMの討伐だって、決して夢物語じゃない。
迷いなく、まっすぐ前を向いた視線の先。
夕陽を背景に、岩で囲まれた小規模な渓谷が広がっている。
その中央で、もぞもぞと動く巨大な影。
距離があるから、さっきまでのアイアンアルマジロと同じくらいのサイズに見えるけれど、近づけばきっと2階建ての一軒家くらいの大きさがありそう。
いくら『万華の魔装姫』がもたらす紫雫の特別な武器があっても、ソロで真正面からあれの相手をするのは今の僕には無理がある。
それなら。
せっかくなら……大鎌だけでは満足してくれない紫雫をなだめるために生み出した、さらに趣向を凝らした『あれ』を使ってみようかな。




