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15. 第1章 第15話 『お・し・お・き♡』

 何が起きるのだろうと、警戒すると同時に腰が引けてしまった僕。


「うひ!? ……ぅえ……ぁ……ぁ」


 まずは外に開き気味になっていた脚、膝。

 何が起きてもいいように、軽いファイティングポーズみたいに力んで構えていた腕、肘、手首。


 次々甘い痺れのような、ピリッと静電気が走るみたいに痛みがあるのに、じんわりとした心地よさがしみ込んでくる。

 自分の中に何かが入り込むような怖い感覚に、神経とも別の身体中に張り巡らされた経路に沿って、彩晶石を中心とした脈動と共に身体が強制的に動かされる。


 脚はつま先を内向きに、膝もちょっと内股気味に。

 広げていた腕は胸を下から押し上げるコルセット風ビスチェに肘を添えるように内向きに。手首を軽く胸に沿わせて、緩く結んだ手を胸の上に添えて。

 ピリピリと走る甘い痺れに無理やり整えられた態勢はなんとも女の子らしい、上目遣いに、開いたままのウィンドウを見上げる仕草。



「えと……その、紫雫さん? ぼ、僕に……あひゃあぁっ!?」


『僕』と言った瞬間、強烈に官能的な電流が背筋を駆け抜け、腰が砕けてへたり込んでしまう。

 反射的にガサツに膝を開いて尻餅をついたのがお気に召さないのか、さっきよりも強い痺れが彩晶石からつま先までを駆け抜けて、両膝をぴったりとくっつけた『女の子座り』へと強制的に移行させられる。


「こ……れ、もしかして、ぼ……ひゃぅ! わ、わたし? ……男っぽい言動に駄目だしされてる、とか?」


 もしかしなくても、そうとしか思えない。


 両親もまだ健在だった頃のこと。

 ネットゲームとかに手を出していた時は女の子キャラクターばっかり使っていたけれど、それはどちらかというとほら、可愛い子が動いているのを見るのが楽しいとか、こんな子と仲良くなれたらなぁっていう憧れが強くて。

 弱気で、男らしくないなんて言われてばかりだった僕だけれど、べ、別に、本当に女の子になりたいなんて思ったことはないし。


 って、心の中で僕っていう分には怒られない?



❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

 わたくしのモノという自覚を、持ちなさい。

 さもないと……!

❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖



 尻餅をついてへたり込んだままの僕を頭上から見下ろすウィンドウ。

 失敗扱いになっていたミッション画面の文字が、書き換わる。


 とりあえずこうしていても振動も来ないし、アイアンアルマジロが傍にいる事も今はなさそうだけれど……。



❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

【Mission】

 ①:わたくしが納得する動きで『F級亀裂』を単独攻略すること。

 ②:まずは、大鎌を組み込んだ魔装を『1種類』創造すること。


 どうしても、『突き刺したい』なら、せめて優雅に、大鎌でも手に舞い踊りなさいな。


 成功報酬:い・い・こ・と♡

 失敗ペナルティー:身体の自由

❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖



「大鎌って……あんな難しそうなの、扱えるわけがないよ……! それにあれって本来は農具だし、武器だとしても引き斬る動きになるんじゃ……ひんッ、あぁぁぁっ!」


 待って待って待って、こんな甘く痺れる不思議な感覚、知らない……本当にむり、むりいぃぃ! おかしいおかしいおかしい。


「ぉ、おねがい、やめてっ。わかりました、わたし、わたしやります、やりますからぁぁ!」


 悲鳴混じりに『わたし』と口走った瞬間。嘘みたいに、全身を支配していた甘い痺れがスッと引いていった。

 う、うぅぅ。やっぱり絶対に関わっちゃいけない相手に、誓いを立ててしまった気がする。

 躊躇していたらまた何をされるかわからないし。って別に傷つけられたわけでもないのだけれど、とにかくこれ以上機嫌を損ねて魔装を創造する魔力を貸してもらえなくなったら、雪奈姉を治す、強くなるという目的が遥かに遠のいてしまう。


 ていうかそれ以前に、気持ちよすぎて頭がおかしくなる。


 それに、いくら最低難易度のF級とはいってもここはダンジョン、亀裂の中。

 いつまた敵が襲ってくるかもわからない。


 まずはそう、これは僕だけど、僕じゃない。

 画面の向こうで見るキャラクター。うん、今はそう考えることにしよう。



 近未来要素も盛り込んだドレス姿の白銀の美少女が戦うなんて、創作物語なら定番中の定番。

 現実になってみたら、いっそ恐れ多く感じるくらいの美少女だけれど、憧れを現実に。なんて考えたら色々思い浮かぶ。


「大鎌、おおがまだよね。使えるかはいったんおいておいて……せっかくなら紫雫をイメージして」


 まだ昨日のこと。あの日、絶望の淵から掬い上げてくれた……そう、彼女は僕と、仲間の命の恩人なんだ。


 それに……。


 唇に感じた口づけの感触、切ない疼きを感じる甘い匂い。


 思い出す。

 透き通るような薄紫色の、ツーサイドアップの髪。

 白い肌を露出した魅惑的な双丘。

 ほっそりとした身体を包み込む、ゴシックロリータなドレス。


 虹色の輝きを秘めたアメシストの瞳。


 S級のバケモノに……僕は……心を奪われた。

 紫雫に向かう僕の感情、僕たちの関係性。そこに在るのは断じて恐怖や支配だけじゃない。

 あと僅かな時間で僕という存在が終わりを迎える。そんな危機的状況の中、確かな『憧れ』と共に心を奪われたのは、本当だ。


 すごく、自然に。

 彩晶石から薄紫に輝く魔力の糸が解き放たれる。

 今の僕では到底その全てを一人で制御できるはずがない濃密な魔力が渦巻き、僕の右手に極上の死の象徴を形作っていく。


 収束した魔力の糸が弾け、僕の身の丈を超える巨大なシルエットが現れる。

 柄(え)を形作るのは、鈍く艶光りする漆黒の金属。そこに、黒紫の薔薇を模した茨のレリーフが、生き物のように絡みついている。

 圧倒的な存在感を放つ巨大な刃は透明感のある極上の『アメシスト(紫水晶)』で構成されていた。

 内側に向かう緩やかなカーブは首を刈り取るための極薄の刃。

 先端は両刃剣のように鋭く研ぎ澄まされていて、穿ち、突き刺すためにも使えそう。

 大刃の反対の背側は重心を整えるように、分厚い刃が斧みたいに突き出している。けれど、それは相手を断ち割るための鋭い1枚の刃を成してはいなくて、茨が獲物を捕らえ絡め取るかのように、いわゆるソードブレイカーを模したギザギザの加工が施されている。


 脳裏に描いた武器としての創造に、紫雫のイメージが重なって生まれた、恐ろしくも美しい大鎌(デスサイズ)。


「……綺麗」


 芸術品と見紛うほどの死の象徴が、僕の小さな手に、吸い付くように馴染んでいた。


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