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14. 第1章 第14話 『無数の剣より、一本のツルハシ』

 折れて吹っ飛んでいた部分も含めて、破損した剣がさらさらと魔力の糸へと解(ほど)け、僕の彩晶石の中へと吸い込まれていった。

 純粋に魔力でできているから、リサイクルできるみたい。それも紫雫の魔力制御能力があってのことだとは思うけれど。


「武器を魔力から創りなおせるなら、これも大きな利点だよね。その上、僕自身の魔力が減らないって……すごい」


 こういう武器破壊モンスターによる不意の出費や、使うことによる装備の損耗だって低級探索者には馬鹿にならない出費で、生活を左右するんだから。


 うーん、でもどうしよう。ただの剣は紫雫のお気に召さなかったみたいだし。

 両親が他界して生活のために高校を中退するよりも前、まだ余裕があった頃に触れたいろいろなアニメや小説を思い出す。

 それに、昨日の秘匿配信で見た『星天の聖乙女』御堂さんの、宙に浮かぶ盾。


 あれを、剣でやってみたら? せっかくならこう、輝く光の剣みたいな感じで。


 背中に、翼のように広がる光の剣の群れをイメージする。

 4本、8本、16本……優美な曲線を描く片刃の剣。神聖で、荘厳なイメージ。


 背中に輝きが集まっている気がする。魔力の糸がさっきとは比べ物にならない勢いで彩晶石から放出される。

 虹色から、薄紫色に。魔力の糸の色も紫雫色に染まっていく。

 僕はイメージを固めるために目を瞑り、一生懸命、羽ばたく翼のような剣の群れを思い描いて……!


「で、できた!?」


 薄紫に輝く魔力の糸が消えるのに合わせて、後ろを振り向く。

 今回は渾身の作だと、思わず頬が緩むのを自覚しながら、抑えきれない笑みを浮かべる僕の目の前で。


 ズン、ズズンッ! キンッ! キキキィィン!!

 金管楽器かはたまた工事現場の鉄パイプか、金属製の重量物が次々と崩れ落ち、ぶつかり合うやかましい音。


「ひぃ!?」


 ストンッ! ストトンッ! と、僕のつま先1センチの至近距離に深く突き立つ鋭利な剣。


 あまりの恐ろしさに、また不覚の温もりと湿り気を下腹部に覚えそうになる僕の目の前。

 そこには上空から真っ逆さまに落下してきた何十本もの剣が無様に突き立ち、あるいは山のように積み上がっていた。


「――そっかぁ。そうだよねぇ。僕、念動力(テレキネシス)とか浮遊系の魔法も持ってなかった」


 素敵な案だと思ったのだけれど、危うく自滅するところだった。

 これはいつか、そういう魔法を手に入れた時のために取っておこう……うん。


 それなら、敵の頭上に生み出して、武器射出! ……は、やっぱりできないから重力任せの自由落下でズドン。みたいに運用するならアリかな、と一瞬思ったけれど、魔装の生成にはある程度時間がかかるからそれも難しそう。

 固定の標的に大質量兵器を創って落とすなら……まぁ、今考える事じゃないな。

 僕は白銀の髪をふわりと揺らして頭を振り、思考を散らす。


 なんて暢気な事をしていたからか、あるいはさすがに大量の剣が落下する音は目立ったみたいで、再びゴロゴロゴロ……と、重々しい地鳴りと共に何かが迫ってくる。


 散らばった剣を魔力に戻して、彩晶石の奥に納まる紫雫の魔晶核の欠片に吸い込みながら辺りを見回せば。


「ちかっ!」


 背後、わずか数秒の距離に転がる二つの塊。

 反射的に飛び退いて避けられたのは、奇跡だった。

 これなら紫雫に認めてもらえなくても、せめて剣を1本残しておくんだった。

 こういう咄嗟の判断に慣れていないのも、底辺採掘者(ギャザラー)な僕なのかな……って軽く自己嫌悪。


 しかも、敵のUターンが早い。時間差をつけて再び迫る二体のアイアンアルマジロに、僕は成す術もなく必死で避けるばかり。左右にひらひらするオーバードレスの裾を靡(なび)かせながら、向上した身体強化任せに逃げ惑う。もうちょっと余裕があれば、闘牛士みたいでかっこよかったのかもしれないけれど。


「いたいっ……!」


 ぶちぶちっ。頭をガクンと後ろに引っ張られる感覚の直後に、髪の毛を引き毟られる激痛が走った。

 首を折られずに済んだと思えば安いものだけれど、男だった頃はこんなに伸ばしたことがない膝裏まである白銀の髪の毛が、僕の回避運動について来られず、掠めるように転がっていたアイアンアルマジロの回転に巻き込まれたんだ。


 女の子の『可愛い』って、戦場ではただのハンデでしかないんだなぁ。

 なんて、思わず現実逃避しそうになるけれど、それどころじゃないと思い直す。


 一歩間違えれば、死に直結しかねないんだ。

 そう自覚するとともに、ぞっと背筋に冷や汗が垂れる感覚と共に、僕は反射的に武器を求めて『万華の魔装姫』を。彩晶石の内側に宿る紫雫の魔晶核のつながりを頼った。


 武器。

 とにかく、戦える武器を。


 無我夢中で願った僕の手に、何故かひどく馴染んだ感触が収まる。


 往復を繰り返したことで、二体の突進には少しの間があいている。

 意識して、自分の中の魔力を『眼』と感覚の強化に振り分ける。

 アルマジロの回転が少しだけ遅くなったように感じられた。


 後2メートル。

 グッと足に力を入れて、まずは1体目。


 ――避ける。


 すれ違うアイアンアルマジロ。

 丸まった体を覆う硬い殻、側面を高速でぐるぐる回る切れ目。それに、回転の中心部分。


『もっとしっかり“目”を読むんじゃ』


 権爺の言葉が、はっきりと思い出される。


『節目、流れ、弱いところをしっかりと見極めて……ほれっ!』

「ほれっ!!」


 記憶の中の、年老いてなおしっかりとした芯を感じさせる声に被せるように、手に持った『何か』を頭上から振り下ろす!


 ガッッ! グサリ!!


 腕ごと持っていかれそうな強烈な反動。反射的に手を離す。

 もう一体も、すぐそこまで来ている。

 もう一度、さっきと同じのを!


 手になじむ感触の正体を見る間もなく、生み出した魔装ですれ違いざまを狙う。

 二度目だからか今度はもっとはっきりと見えた、丸まった殻の継ぎ目。

 その中心めがけて、振り下ろす!!


 硬い礫砂漠を削りながら転がる二つの轟音が止んだ。


 倒した敵が消滅するとともに黒い靄がほんのり漂い、銀のチェーンで装飾された鎖骨の間の彩晶石へと流れ込んでくる。

 夕陽の下では『気のせいかな?』と思う程度に、ほんのり赤く色づいた僕の彩晶石。


 ずっとずっと空っぽだった。

 何も得られなかった、僕の石。

 今、そこには確かにモンスターを倒した証が吸収されて、蓄積され始めた魔力の輝きが宿っていた。


 カランッ。カランッ。

 硬い物が地面に落下する、控えめな音。


 振り向く僕の視線の先には、襲い来る二つの脅威を穿ち、滅した、僕の『武器』が転がっていた。


 魔力に還元する前の魔装。

 それはもうよく見知った、いかにも使い込まれてくたびれた感じの――『ツルハシ』が二本。




❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

【Mission Failed】

 失敗ペナルティー:お・し・お・き♡


 ぜったいに!

 ぜったいに!!

 ゆるさない!!!

❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖



 ぶるぶると小刻みに震えるひび割れたウィンドウを前に、僕は自覚した。


 あ、僕、死んだかも。


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