第一の失敗、その真因
地竜が走るたびに、足元の土が跳ね、大地が揺れた。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
巨体に押しのけられた木々が、乾いた音を立てて折れていく。さっきまでの鈍い歩みとは違う。地竜は頭を低く下げ、息を荒らげながら、遮るものを踏み潰していた。
その目が、ときおり背後の森へ向く。
村を狙っているのではない。北にある何かから、少しでも遠ざかろうとしているのだ。
「ライオネル、右の前脚に気をつけろ!」
「承知しました!」
振り上げられた前脚を見て、ライオネルが横へ跳ぶ。直後、彼が立っていた場所に巨大な爪が突き刺さった。
「セシリアは足元を狙え! 村へ入れるな!」
「分かっています!」
アルフォードたち3人が、地竜と村の間へ散開する。
ライオネルが剣を地面へ叩きつけると、土が弾け、地竜の鼻先に土煙が広がった。セシリアがそこへ横風をぶつけ、砂を巻き上げる。
地竜は吹きつける風に目を細め、顔をわずかに横へ向けた。それでも歩みは止まらない。太い爪を地面に食い込ませ、土を掻きながら、強風に逆らって前へ進んでくる。
ズシンッ!
巨大な前脚が踏み下ろされ、足元の土が跳ねた。
「くそっ、これだけ風をぶつけても止まらないのか!」
アルフォードは歯を食いしばり、迫ってきた前脚を避けて横へ跳んだ。
「押し戻すには、まだ足りません!」
「分かってる! 少しくらい励ましてくれ!」
「あと少しです! そのまま押さえてください!」
アルフォードは一瞬だけ相手へ顔を向けたが、地竜はまた1歩、前へ出てきた。
「どこがあと少しだ! こっちに近づいてるぞ!」
セシリアは言い返しながらも杖を振り、地竜の足元へ次の風を放っていた。
こんな状況でも、父たちは騒がしい。
けれどルークは、いつものように口を挟めなかった。倒れた木の陰に身を寄せ、目の前の文字を見つめる。
《第1の失敗まで――残り3時間56分》
時間は減り続けている。
地竜を足止めしても、魔石で誘導しても、《北方5村の壊滅》という表示は消えなかった。村人の避難を進めても、まだ未来を変えきれていない。
「考えろ……」
ルークは震える指で地図を広げ、膝の上へ押さえつけた。
父は言っていた。目の前の危険に対処するだけでなく、失敗そのものを止める方法を探せ、と。
元の未来で起きた第1の失敗は、北方遠征の敗北だった。
補給が遅れ、予想を超える数の魔物が押し寄せた。父は命令を無視した責任を負い、王位継承権を失った。
けれど今回は、その遠征自体がなくなった。代わりに現れたのが、5つの村が壊滅する未来だ。
「起きることが、変わってる……」
ルークは地図に描かれた村を指でなぞり、北の森へ目を移した。
出来事は違う。それでも同じ失敗として表示されるなら、どこかに共通する原因があるはずだ。
森から逃げてきた魔物。今も暴れている地竜。そして、北の奥から立ち上る黒い光。
「……原因」
地竜がまた背後を振り返った。
アルフォードの剣よりも、セシリアの風よりも、北の森を恐れている。
ルークは地図を押さえていた手を止めた。
「地竜だって、原因じゃない」
灰牙狼も逃げていた。ゴブリンも、牙猪も、争うことさえ忘れて南へ向かっていた。
なら、元の未来で父が戦った魔物の群れも、本当は――。
「逃げてただけだったんだ」
ルークの背中を、冷たい汗が伝った。
王国軍は、南下してきた魔物を討伐すべき敵だと考えた。けれど、もし魔物が王国を攻めようとしていたのではなかったら。
北から逃げてきた群れと、それを押し返そうとした軍が、正面からぶつかったのだとしたら。
「最初から、止めるものを間違えてた……」
ルークは地図を握り、木の陰から立ち上がった。
「父さん!」
地竜の横で剣を構えていたアルフォードが振り向く。
「どうした!」
「地竜を止めなくていい!」
「何!?」
「逃げるのを止めちゃ駄目なんだ!」
そのとき、地竜の前脚が地面を大きく抉った。ライオネルが後ろへ跳び、飛んできた土を盾で受ける。
「少年! 説明は短く!」
「全部逃がす!」
「全部!?」
「魔物も、地竜も! 北にある何かが怖くて、逃げてるんだ!」
アルフォードは地竜から距離を取り、ルークへ顔を向けた。
「このまま南へ逃がしたら、村に被害が出るぞ!」
「だから、村を通らない逃げ道を作る!」
「どこへ!?」
ルークは地図へ目を落とした。村の位置を避け、山と鉱山の印を越えた先へ指を滑らせる。
「西! 西に大きな谷がある!」
ライオネルが地竜の爪を避けながら答えた。
「グレイス峡谷か!」
「そこ、人は住んでない?」
「廃村が1つあるだけだ! 20年以上前から無人だ!」
「じゃあ、そこへ逃がす!」
アルフォードは地竜を見上げ、荒い息を吐いた。
「魔石で誘導するのか?」
「それだけじゃ無理だよ! さっきも、魔石より逃げるほうを選んでた!」
ルークは西へ続く道を指した。
「怖いものから逃げてるなら、餌で引っ張るより、逃げやすい道を作ればいい!」
アルフォードは一瞬黙り、それから口元を緩めた。
「なるほど」
「分かったの?」
「俺だって、怖い魔獣に追われているときは、餌より逃げ道を選ぶ」
「父さんと魔物を一緒に考えないで!」
「分かりやすいだろ!」
「分かりやすいけど!」
ルークが言い返す間にも、アルフォードは西の街道を確かめていた。
「ライオネル! 西へ向かう道を開けろ! 荷車をどかして、避難中の村人がいないか確認しろ!」
「承知しました! しかし、地竜だけならともかく、魔物の群れまで誘導できるでしょうか」
「できる!……」
ルークが勢いよく答える。
3人の視線が集まった途端、少しだけ声が小さくなった。
「……たぶん」
「急に弱くなったぞ!」
「仕方ないでしょ! やったことないんだから!」
セシリアは地竜を警戒しながら、ルークの地図をのぞき込んだ。
「いえ、可能性はあります」
「本当?」
「魔物が南へ向かうのは、北が危険だからです。南へ進みにくく、西に道が開いていれば、そちらを選ぶかもしれません」
彼女は村へ続く道を指で押さえた。
「南側に風の壁を張り、西への道を残します」
アルフォードが眉を上げる。
「村全部を囲めるのか?」
「無理です」
「即答だな!」
「ですが、進路が絞られる場所だけなら」
セシリアは地図の3か所を順に指した。
「森の出口、街道の分岐点、村の北側です。南へ抜ける道を塞ぎ、西へ続く道は開けておきます」
「どれくらい持つ?」
「3か所を維持するなら、1時間ほどです」
「十分だ」
「殿下、その言葉がお好きですね」
「迷っている時間が惜しいからな」
アルフォードは剣を収め、地竜の正面から身を引いた。
「地竜を攻撃するな! 村へ進ませず、西へ流すぞ!」
「承知しました!」
3人の動きが変わった。
ライオネルは地竜の東側へ回り込み、盾を剣の柄で叩く。
ガンッ!
鋭い金属音に、地竜が頭を振った。
「こっちには来るなよ……!」
ライオネルは盾を構え、巨体が近づいても退ける距離を保つ。
その間に、セシリアが南側で杖を掲げた。
「《風壁》!」
ゴオオッ!
砂と落ち葉が巻き上がり、地竜の前に激しい風の帯が生まれる。鼻先へ吹きつけられた風に、地竜が脚を止めた。
南には強風。東には盾を鳴らすライオネル。北には、逃げ出してきた何かがある。
西へ続く道だけが、開いていた。
「行け……」
ルークは地図を胸へ押しつけ、地竜を見つめた。
巨大な頭が西を向く。
やがて前脚が、街道の方へ踏み出した。
「行ったぁ!」
「まだ喜ぶな! 道を空けろ!」
アルフォードが声を張り、自分も進路から離れる。
地竜は2歩、3歩と進み、風の弱い場所へ抜けると速度を上げた。長い尾が土煙を払い、巨体が西の街道を駆けていく。
「よし!」
ルークは思わず拳を上げた。
その目の前に、文字が浮かぶ。
《第1の失敗まで――残り3時間12分》
「……消えない」
上げた腕が、ゆっくり下がった。
森へ目を向けると、今度は灰牙狼の群れが飛び出してくる。その後ろにも、木々を揺らす影がいくつも見えた。
地竜を逃がしただけでは、まだ足りない。
「次はあっち!」
ルークが森の出口を指すと、アルフォードが肩で息をしながら振り返った。
「少しは休ませろ!」
「未来が休んでくれないんだよ!」
「それは困った相手だな!」
ルークたちは、次の分岐点へ走った。
ライオネルが避難路の安全を確かめ、作業に慣れた村人たちへ協力を頼む。南側の柵を閉じ、西側の柵は外して道幅を広げた。
荷車は南へ曲がる道の脇へ並べ、魔物が入り込みにくいようにする。作業を終えた村人から順に退避させ、その後をセシリアの風壁で守った。
南側では焚き火を増やし、煙を立ち上らせる。一方、西の道には少量ずつ魔石を置いていった。
「こっちは餌も使うんだ?」
ルークが尋ねると、セシリアは最後の魔石を置いて立ち上がった。
「使えるものは、何でも使います」
「さっきは失敗したのに?」
「魔石だけで引き寄せようとしたときは、駄目でした。でも今は、西へ逃げられる道があります。そちらを選ぶきっかけにはなるかもしれません」
彼女は風壁の強さを調整しながら続けた。
「失敗した方法も、使い方を変えれば役立ちます」
ルークは少しだけ目を見開いた。
その言葉が、父の7つの失敗と重なる。
森から出てきた灰牙狼が、南側の煙と風を前に足を緩めた。先頭の1匹が西へ顔を向けると、後ろの群れもそれに続く。
ゴブリンたちも、牙猪も、開いた道へ駆け込んでいった。
最初は数匹だった流れが、10匹、さらに数十匹へと増えていく。魔物同士がぶつかりながらも、村の手前で西へ曲がっていった。
「本当に、行ってる……」
ルークは地図を握ったまま、その流れを見守った。
アルフォードが額の汗を袖で拭う。
「逃げ道さえ分かれば、案外素直なんだな」
「父さんより素直かも」
「それは否定できない」
「そこは否定してよ」
そう返しながらも、ルークの肩から少しだけ力が抜けた。
だが、すぐに地図へ目を戻す。
西へ逃げた魔物が峡谷を抜け、別の村を襲えば、被害を移しただけになってしまう。
「グレイス峡谷の先は、どうなってるの?」
ライオネルが西の山並みへ目を向けた。
「広い山岳地帯です。そこから人里へ出るには、少なくとも2日以上かかります」
「じゃあ、大丈夫?」
「今すぐ別の村へ押し寄せることはないでしょう。その間に周辺へ知らせを送り、警戒させます」
「よかった……」
ルークが息を吐いた、そのときだった。
目の前の文字が揺らぐ。
《第1の失敗》
《北方5村の壊滅》
文字の輪郭が薄れ、向こうの景色が透けて見え始めた。
「消える……?」
ルークは息を止めた。
けれど、表示は完全には消えない。その下に、新たな文字が現れた。
《壊滅可能性――低下》
《被害予測――再計算》
「まだなの……?」
ルークは唇を噛み、周囲を見回した。
村人は避難した。地竜も、森から出てきた魔物も、西へ逃がしている。
それでも、失敗は解除されていない。
「何が足りないんだ……」
「殿下!」
遠くから蹄の音が近づいてきた。
ベルグ伯爵領の兵士が、土に汚れた顔で馬を走らせてくる。アルフォードたちの前で手綱を引くと、兵士は鞍から身を乗り出した。
「緊急報告です!」
「どうした!」
「北の森で、異常を確認しました!」
アルフォードの表情が険しくなる。
「黒い光か?」
「はい! ですが、それだけではありません!」
兵士は息を整える間も惜しむように続けた。
「森の北部で、地面が崩れています!」
「崩れている?」
「広い範囲が沈み始めています! 木が傾き、地割れも広がっています!」
セシリアの手が、杖を握ったまま止まった。
「地面まで……?」
彼女は北の森を見つめ、次に足元へ目を落とす。
「まさか、地下で……」
「何か分かったの?」
ルークが尋ねると、セシリアはゆっくり顔を上げた。
「木々から魔力が失われているだけではないのかもしれません。地下の魔力にも、異常が起きている……」
「地下?」
「森の下で、何かが地盤に影響するほどのことをしている可能性があります」
枯れる木々。失われる魔力。逃げる魔物。そして、沈み始めた地面。
ルークは地図の北の森へ、強く指を押しつけた。
「ここで、何かが起きるんだ……」
次の瞬間、足元から低い音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……。
地竜の足音とは違う。地面の奥深くから、振動が突き上げてくる。
ルークの膝がぐらついた。村の家々が軋み、窓ががたがたと鳴る。兵士の馬がいななき、前脚を跳ね上げた。
「全員、伏せろ!」
アルフォードがルークを抱き寄せ、その頭を庇いながら地面へ身を伏せた。
直後、北の森から凄まじい轟音が響く。
ドゴォォォン!
森の一部が、大きく沈み込んだ。
木々が根元から傾き、隣の木を巻き込みながら地中へ落ちていく。土煙が噴き上がり、空を覆った。
揺れが弱まってから、ルークは父の腕の下で顔を上げた。
「……何だよ、あれ」
土煙の向こうに、森が途切れた場所が見える。
そこには、巨大な穴が開いていた。
穴の底から漏れ出す黒い光が、崩れた土の斜面を不気味に照らしている。
セシリアが杖を支えに立ち上がった。その顔から、血の気が引いていた。
「魔力孔……」
「何、それ?」
「地下に蓄積した魔力が、地表へ噴き出す場所です」
「じゃあ、あれが原因?」
セシリアは穴を見つめたまま、慎重に首を振った。
「地下の異常につながっているとは思います。ただ、自然にできた魔力孔とは様子が違います」
「どう違うの?」
「周囲の魔力を奪いながら、あれほど急激に開くなんて……」
彼女は言葉を切り、黒い光へ目を凝らした。
「何者かが、無理に開いた可能性があります」
アルフォードが立ち上がり、服についた土を払う手を止めた。
「誰かが、地下の魔力に手を加えたのか?」
「おそらくは」
その瞬間、ルークの目の前に新たな文字が浮かんだ。
《第1の失敗――真因を確認》
《北方魔力脈の破壊》
《発生まで――残り1時間58分》
「真因……」
ルークは呟き、表示と巨大な穴を交互に見た。
ようやく、本当の原因が分かった。
地竜も、魔物の群れも、遠征の敗北も、地下で起きた異常から生まれた結果だったのだ。
「父さん」
「今度は何だ?」
「分かった。あれを止めないと、村人を逃がしても終わらない」
アルフォードは、ルークの強張った顔を見つめた。
「何が起きる?」
「北方の魔力脈が壊れる。そう出てる」
セシリアが息を呑んだ。
「魔力脈が……?」
「それが壊れたら、どうなるんだ?」
アルフォードの問いに、彼女は唇を結んでから答えた。
「魔力脈は、地下を通ってこの土地に魔力を巡らせています。それが広い範囲で壊れれば、土地を支える魔力の流れが失われます」
「森が枯れるだけでは済まないのか」
「はい。地盤の崩落が続き、畑や水源にも影響が出るかもしれません。人が戻って暮らせる土地ではなくなるおそれがあります」
アルフォードの表情が固まった。
「被害は、どこまで広がる?」
「5村だけではありません」
セシリアは黒い光を見つめ、声を落とした。
「北方一帯が、人の住めない土地になる可能性があります」
ルークは拳を握った。
少なくとも、自分が知っている未来では、北方全体が住めない土地になったとは聞いていない。
ならば、父は何かをしたのではないか。
遠征に失敗したと責められ、王位継承権を失ったあの日。誰にも認められないまま、もっと大きな災害を食い止めていたのかもしれない。
「……そういうこと?」
「ルーク?」
アルフォードが顔をのぞき込む。
ルークは父を見上げた。
「父さん、本当は失敗しただけじゃなかったんじゃない?」
アルフォードは黙って続きを待った。
「遠征では負けても、その後で、もっと大きな被害を止めてたのかもしれない」
ルークは再び穴へ目を向けた。
「誰も、それを知らなかっただけで……」
《第1の失敗まで――残り1時間52分》
文字を見て、ルークは息を詰めた。
考えている間にも、時間は減っている。
けれど今度は、何を止めるべきなのか分かっていた。
アルフォードが剣の柄へ手をかける。
「なら、行くぞ」
「どこへ?」
「穴の中だ」
「やっぱりそうなるの!?」
ルークが声を裏返すと、アルフォードは黒い光を指した。
「原因が下にあるなら、下を調べるしかないだろ」
「もっと安全な方法を考えようよ!」
「あるか?」
ルークは口を開いた。
穴へ入らずに、地下の異常を止める方法。
必死に考えたが、何も浮かばなかった。
「……今は、ない」
「よし」
「よくない!」
ライオネルが深いため息をつき、腰の剣を確かめた。
「結局、殿下は毎回こうなるのですね」
「未来でも?」
ルークが尋ねると、ライオネルは疲れた顔でアルフォードを見た。
「未来は存じませんが、今でも十分にこうです」
「僕、なんでこの人を助けようとしてるんだろ……」
「息子だからだろ?」
「そうだった……」
アルフォードが笑う。ルークも、困ったように口元を緩めた。
だが、父の表情はすぐに引き締まった。
「ルーク」
「何?」
「今度こそ、お前は残れ」
「嫌だ」
「即答か」
ルークは地図を畳み、父をまっすぐ見上げた。
「僕にしか見えない表示があるんだよ。近くへ行けば、また何か分かるかもしれない」
「何も分からないまま、危険に巻き込まれるかもしれないぞ」
「それでも、ここまで来て、最後だけ知らないところで失敗されたら困る」
「縁起でもないことを言うな」
「7回失敗する人が言う?」
「それを言われると弱いな……」
アルフォードは額に手を当て、短く息を吐いた。
しばらく考えてから膝を曲げ、ルークと目の高さを合わせる。
「連れていくなら、約束しろ。絶対に俺から離れるな」
「うん」
「危なくなったら、調べる途中でも引き返す」
「うん」
「俺が逃げろと言ったら?」
ルークは少し考え、真顔で答えた。
「文句を言いながら逃げる」
「文句は言うのか」
「そこは譲れない」
アルフォードは小さく笑い、ルークへ手を差し出した。
「分かった。逃げてくれるなら、それでいい」
ルークはその手を、強く握り返した。
ライオネルは兵士に避難の継続を頼み、西へ逃げた魔物についても周辺へ知らせるよう指示した。セシリアは風壁が弱まる場所を伝え、南へ抜ける道の警戒を引き継ぐ。
それから4人は、崩れた地面を避けながら北の森へ向かった。
第1の失敗を引き起こす、本当の原因へ。
穴の底から漏れる黒い光は、近づくほどに強くなっていた。
ルークはまだ知らない。
その底で待つ者が、父アルフォードの人生を狂わせる、最初の相手になることを。




