↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/10

第一の失敗、その真因

 地竜が走るたびに、足元の土が跳ね、大地が揺れた。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ!


 巨体に押しのけられた木々が、乾いた音を立てて折れていく。さっきまでの鈍い歩みとは違う。地竜は頭を低く下げ、息を荒らげながら、遮るものを踏み潰していた。


 その目が、ときおり背後の森へ向く。


 村を狙っているのではない。北にある何かから、少しでも遠ざかろうとしているのだ。


「ライオネル、右の前脚に気をつけろ!」


「承知しました!」


 振り上げられた前脚を見て、ライオネルが横へ跳ぶ。直後、彼が立っていた場所に巨大な爪が突き刺さった。


「セシリアは足元を狙え! 村へ入れるな!」


「分かっています!」


 アルフォードたち3人が、地竜と村の間へ散開する。


 ライオネルが剣を地面へ叩きつけると、土が弾け、地竜の鼻先に土煙が広がった。セシリアがそこへ横風をぶつけ、砂を巻き上げる。


 地竜は吹きつける風に目を細め、顔をわずかに横へ向けた。それでも歩みは止まらない。太い爪を地面に食い込ませ、土を掻きながら、強風に逆らって前へ進んでくる。


 ズシンッ!


 巨大な前脚が踏み下ろされ、足元の土が跳ねた。


「くそっ、これだけ風をぶつけても止まらないのか!」


 アルフォードは歯を食いしばり、迫ってきた前脚を避けて横へ跳んだ。


「押し戻すには、まだ足りません!」


「分かってる! 少しくらい励ましてくれ!」


「あと少しです! そのまま押さえてください!」


 アルフォードは一瞬だけ相手へ顔を向けたが、地竜はまた1歩、前へ出てきた。


「どこがあと少しだ! こっちに近づいてるぞ!」


 セシリアは言い返しながらも杖を振り、地竜の足元へ次の風を放っていた。


 こんな状況でも、父たちは騒がしい。


 けれどルークは、いつものように口を挟めなかった。倒れた木の陰に身を寄せ、目の前の文字を見つめる。


 《第1の失敗まで――残り3時間56分》


 時間は減り続けている。


 地竜を足止めしても、魔石で誘導しても、《北方5村の壊滅》という表示は消えなかった。村人の避難を進めても、まだ未来を変えきれていない。


「考えろ……」


 ルークは震える指で地図を広げ、膝の上へ押さえつけた。


 父は言っていた。目の前の危険に対処するだけでなく、失敗そのものを止める方法を探せ、と。


 元の未来で起きた第1の失敗は、北方遠征の敗北だった。


 補給が遅れ、予想を超える数の魔物が押し寄せた。父は命令を無視した責任を負い、王位継承権を失った。


 けれど今回は、その遠征自体がなくなった。代わりに現れたのが、5つの村が壊滅する未来だ。


「起きることが、変わってる……」


 ルークは地図に描かれた村を指でなぞり、北の森へ目を移した。


 出来事は違う。それでも同じ失敗として表示されるなら、どこかに共通する原因があるはずだ。


 森から逃げてきた魔物。今も暴れている地竜。そして、北の奥から立ち上る黒い光。


「……原因」


 地竜がまた背後を振り返った。


 アルフォードの剣よりも、セシリアの風よりも、北の森を恐れている。


 ルークは地図を押さえていた手を止めた。


「地竜だって、原因じゃない」


 灰牙狼も逃げていた。ゴブリンも、牙猪も、争うことさえ忘れて南へ向かっていた。


 なら、元の未来で父が戦った魔物の群れも、本当は――。


「逃げてただけだったんだ」


 ルークの背中を、冷たい汗が伝った。


 王国軍は、南下してきた魔物を討伐すべき敵だと考えた。けれど、もし魔物が王国を攻めようとしていたのではなかったら。


 北から逃げてきた群れと、それを押し返そうとした軍が、正面からぶつかったのだとしたら。


「最初から、止めるものを間違えてた……」


 ルークは地図を握り、木の陰から立ち上がった。


「父さん!」


 地竜の横で剣を構えていたアルフォードが振り向く。


「どうした!」


「地竜を止めなくていい!」


「何!?」


「逃げるのを止めちゃ駄目なんだ!」


 そのとき、地竜の前脚が地面を大きく抉った。ライオネルが後ろへ跳び、飛んできた土を盾で受ける。


「少年! 説明は短く!」


「全部逃がす!」


「全部!?」


「魔物も、地竜も! 北にある何かが怖くて、逃げてるんだ!」


 アルフォードは地竜から距離を取り、ルークへ顔を向けた。


「このまま南へ逃がしたら、村に被害が出るぞ!」


「だから、村を通らない逃げ道を作る!」


「どこへ!?」


 ルークは地図へ目を落とした。村の位置を避け、山と鉱山の印を越えた先へ指を滑らせる。


「西! 西に大きな谷がある!」


 ライオネルが地竜の爪を避けながら答えた。


「グレイス峡谷か!」


「そこ、人は住んでない?」


「廃村が1つあるだけだ! 20年以上前から無人だ!」


「じゃあ、そこへ逃がす!」


 アルフォードは地竜を見上げ、荒い息を吐いた。


「魔石で誘導するのか?」


「それだけじゃ無理だよ! さっきも、魔石より逃げるほうを選んでた!」


 ルークは西へ続く道を指した。


「怖いものから逃げてるなら、餌で引っ張るより、逃げやすい道を作ればいい!」


 アルフォードは一瞬黙り、それから口元を緩めた。


「なるほど」


「分かったの?」


「俺だって、怖い魔獣に追われているときは、餌より逃げ道を選ぶ」


「父さんと魔物を一緒に考えないで!」


「分かりやすいだろ!」


「分かりやすいけど!」


 ルークが言い返す間にも、アルフォードは西の街道を確かめていた。


「ライオネル! 西へ向かう道を開けろ! 荷車をどかして、避難中の村人がいないか確認しろ!」


「承知しました! しかし、地竜だけならともかく、魔物の群れまで誘導できるでしょうか」


「できる!……」


 ルークが勢いよく答える。


 3人の視線が集まった途端、少しだけ声が小さくなった。


「……たぶん」


「急に弱くなったぞ!」


「仕方ないでしょ! やったことないんだから!」


 セシリアは地竜を警戒しながら、ルークの地図をのぞき込んだ。


「いえ、可能性はあります」


「本当?」


「魔物が南へ向かうのは、北が危険だからです。南へ進みにくく、西に道が開いていれば、そちらを選ぶかもしれません」


 彼女は村へ続く道を指で押さえた。


「南側に風の壁を張り、西への道を残します」


 アルフォードが眉を上げる。


「村全部を囲めるのか?」


「無理です」


「即答だな!」


「ですが、進路が絞られる場所だけなら」


 セシリアは地図の3か所を順に指した。


「森の出口、街道の分岐点、村の北側です。南へ抜ける道を塞ぎ、西へ続く道は開けておきます」


「どれくらい持つ?」


「3か所を維持するなら、1時間ほどです」


「十分だ」


「殿下、その言葉がお好きですね」


「迷っている時間が惜しいからな」


 アルフォードは剣を収め、地竜の正面から身を引いた。


「地竜を攻撃するな! 村へ進ませず、西へ流すぞ!」


「承知しました!」


 3人の動きが変わった。


 ライオネルは地竜の東側へ回り込み、盾を剣の柄で叩く。


 ガンッ!


 鋭い金属音に、地竜が頭を振った。


「こっちには来るなよ……!」


 ライオネルは盾を構え、巨体が近づいても退ける距離を保つ。


 その間に、セシリアが南側で杖を掲げた。


「《風壁》!」


 ゴオオッ!


 砂と落ち葉が巻き上がり、地竜の前に激しい風の帯が生まれる。鼻先へ吹きつけられた風に、地竜が脚を止めた。


 南には強風。東には盾を鳴らすライオネル。北には、逃げ出してきた何かがある。


 西へ続く道だけが、開いていた。


「行け……」


 ルークは地図を胸へ押しつけ、地竜を見つめた。


 巨大な頭が西を向く。


 やがて前脚が、街道の方へ踏み出した。


「行ったぁ!」


「まだ喜ぶな! 道を空けろ!」


 アルフォードが声を張り、自分も進路から離れる。


 地竜は2歩、3歩と進み、風の弱い場所へ抜けると速度を上げた。長い尾が土煙を払い、巨体が西の街道を駆けていく。


「よし!」


 ルークは思わず拳を上げた。


 その目の前に、文字が浮かぶ。


 《第1の失敗まで――残り3時間12分》


「……消えない」


 上げた腕が、ゆっくり下がった。


 森へ目を向けると、今度は灰牙狼の群れが飛び出してくる。その後ろにも、木々を揺らす影がいくつも見えた。


 地竜を逃がしただけでは、まだ足りない。


「次はあっち!」


 ルークが森の出口を指すと、アルフォードが肩で息をしながら振り返った。


「少しは休ませろ!」


「未来が休んでくれないんだよ!」


「それは困った相手だな!」


 ルークたちは、次の分岐点へ走った。


 ライオネルが避難路の安全を確かめ、作業に慣れた村人たちへ協力を頼む。南側の柵を閉じ、西側の柵は外して道幅を広げた。


 荷車は南へ曲がる道の脇へ並べ、魔物が入り込みにくいようにする。作業を終えた村人から順に退避させ、その後をセシリアの風壁で守った。


 南側では焚き火を増やし、煙を立ち上らせる。一方、西の道には少量ずつ魔石を置いていった。


「こっちは餌も使うんだ?」


 ルークが尋ねると、セシリアは最後の魔石を置いて立ち上がった。


「使えるものは、何でも使います」


「さっきは失敗したのに?」


「魔石だけで引き寄せようとしたときは、駄目でした。でも今は、西へ逃げられる道があります。そちらを選ぶきっかけにはなるかもしれません」


 彼女は風壁の強さを調整しながら続けた。


「失敗した方法も、使い方を変えれば役立ちます」


 ルークは少しだけ目を見開いた。


 その言葉が、父の7つの失敗と重なる。


 森から出てきた灰牙狼が、南側の煙と風を前に足を緩めた。先頭の1匹が西へ顔を向けると、後ろの群れもそれに続く。


 ゴブリンたちも、牙猪も、開いた道へ駆け込んでいった。


 最初は数匹だった流れが、10匹、さらに数十匹へと増えていく。魔物同士がぶつかりながらも、村の手前で西へ曲がっていった。


「本当に、行ってる……」


 ルークは地図を握ったまま、その流れを見守った。


 アルフォードが額の汗を袖で拭う。


「逃げ道さえ分かれば、案外素直なんだな」


「父さんより素直かも」


「それは否定できない」


「そこは否定してよ」


 そう返しながらも、ルークの肩から少しだけ力が抜けた。


 だが、すぐに地図へ目を戻す。


 西へ逃げた魔物が峡谷を抜け、別の村を襲えば、被害を移しただけになってしまう。


「グレイス峡谷の先は、どうなってるの?」


 ライオネルが西の山並みへ目を向けた。


「広い山岳地帯です。そこから人里へ出るには、少なくとも2日以上かかります」


「じゃあ、大丈夫?」


「今すぐ別の村へ押し寄せることはないでしょう。その間に周辺へ知らせを送り、警戒させます」


「よかった……」


 ルークが息を吐いた、そのときだった。


 目の前の文字が揺らぐ。


 《第1の失敗》


 《北方5村の壊滅》


 文字の輪郭が薄れ、向こうの景色が透けて見え始めた。


「消える……?」


 ルークは息を止めた。


 けれど、表示は完全には消えない。その下に、新たな文字が現れた。


 《壊滅可能性――低下》


 《被害予測――再計算》


「まだなの……?」


 ルークは唇を噛み、周囲を見回した。


 村人は避難した。地竜も、森から出てきた魔物も、西へ逃がしている。


 それでも、失敗は解除されていない。


「何が足りないんだ……」


「殿下!」


 遠くから蹄の音が近づいてきた。


 ベルグ伯爵領の兵士が、土に汚れた顔で馬を走らせてくる。アルフォードたちの前で手綱を引くと、兵士は鞍から身を乗り出した。


「緊急報告です!」


「どうした!」


「北の森で、異常を確認しました!」


 アルフォードの表情が険しくなる。


「黒い光か?」


「はい! ですが、それだけではありません!」


 兵士は息を整える間も惜しむように続けた。


「森の北部で、地面が崩れています!」


「崩れている?」


「広い範囲が沈み始めています! 木が傾き、地割れも広がっています!」


 セシリアの手が、杖を握ったまま止まった。


「地面まで……?」


 彼女は北の森を見つめ、次に足元へ目を落とす。


「まさか、地下で……」


「何か分かったの?」


 ルークが尋ねると、セシリアはゆっくり顔を上げた。


「木々から魔力が失われているだけではないのかもしれません。地下の魔力にも、異常が起きている……」


「地下?」


「森の下で、何かが地盤に影響するほどのことをしている可能性があります」


 枯れる木々。失われる魔力。逃げる魔物。そして、沈み始めた地面。


 ルークは地図の北の森へ、強く指を押しつけた。


「ここで、何かが起きるんだ……」


 次の瞬間、足元から低い音が響いた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 地竜の足音とは違う。地面の奥深くから、振動が突き上げてくる。


 ルークの膝がぐらついた。村の家々が軋み、窓ががたがたと鳴る。兵士の馬がいななき、前脚を跳ね上げた。


「全員、伏せろ!」


 アルフォードがルークを抱き寄せ、その頭を庇いながら地面へ身を伏せた。


 直後、北の森から凄まじい轟音が響く。


 ドゴォォォン!


 森の一部が、大きく沈み込んだ。


 木々が根元から傾き、隣の木を巻き込みながら地中へ落ちていく。土煙が噴き上がり、空を覆った。


 揺れが弱まってから、ルークは父の腕の下で顔を上げた。


「……何だよ、あれ」


 土煙の向こうに、森が途切れた場所が見える。


 そこには、巨大な穴が開いていた。


 穴の底から漏れ出す黒い光が、崩れた土の斜面を不気味に照らしている。


 セシリアが杖を支えに立ち上がった。その顔から、血の気が引いていた。


「魔力孔……」


「何、それ?」


「地下に蓄積した魔力が、地表へ噴き出す場所です」


「じゃあ、あれが原因?」


 セシリアは穴を見つめたまま、慎重に首を振った。


「地下の異常につながっているとは思います。ただ、自然にできた魔力孔とは様子が違います」


「どう違うの?」


「周囲の魔力を奪いながら、あれほど急激に開くなんて……」


 彼女は言葉を切り、黒い光へ目を凝らした。


「何者かが、無理に開いた可能性があります」


 アルフォードが立ち上がり、服についた土を払う手を止めた。


「誰かが、地下の魔力に手を加えたのか?」


「おそらくは」


 その瞬間、ルークの目の前に新たな文字が浮かんだ。


 《第1の失敗――真因を確認》


 《北方魔力脈の破壊》


 《発生まで――残り1時間58分》


「真因……」


 ルークは呟き、表示と巨大な穴を交互に見た。


 ようやく、本当の原因が分かった。


 地竜も、魔物の群れも、遠征の敗北も、地下で起きた異常から生まれた結果だったのだ。


「父さん」


「今度は何だ?」


「分かった。あれを止めないと、村人を逃がしても終わらない」


 アルフォードは、ルークの強張った顔を見つめた。


「何が起きる?」


「北方の魔力脈が壊れる。そう出てる」


 セシリアが息を呑んだ。


「魔力脈が……?」


「それが壊れたら、どうなるんだ?」


 アルフォードの問いに、彼女は唇を結んでから答えた。


「魔力脈は、地下を通ってこの土地に魔力を巡らせています。それが広い範囲で壊れれば、土地を支える魔力の流れが失われます」


「森が枯れるだけでは済まないのか」


「はい。地盤の崩落が続き、畑や水源にも影響が出るかもしれません。人が戻って暮らせる土地ではなくなるおそれがあります」


 アルフォードの表情が固まった。


「被害は、どこまで広がる?」


「5村だけではありません」


 セシリアは黒い光を見つめ、声を落とした。


「北方一帯が、人の住めない土地になる可能性があります」


 ルークは拳を握った。


 少なくとも、自分が知っている未来では、北方全体が住めない土地になったとは聞いていない。


 ならば、父は何かをしたのではないか。


 遠征に失敗したと責められ、王位継承権を失ったあの日。誰にも認められないまま、もっと大きな災害を食い止めていたのかもしれない。


「……そういうこと?」


「ルーク?」


 アルフォードが顔をのぞき込む。


 ルークは父を見上げた。


「父さん、本当は失敗しただけじゃなかったんじゃない?」


 アルフォードは黙って続きを待った。


「遠征では負けても、その後で、もっと大きな被害を止めてたのかもしれない」


 ルークは再び穴へ目を向けた。


「誰も、それを知らなかっただけで……」


 《第1の失敗まで――残り1時間52分》


 文字を見て、ルークは息を詰めた。


 考えている間にも、時間は減っている。


 けれど今度は、何を止めるべきなのか分かっていた。


 アルフォードが剣の柄へ手をかける。


「なら、行くぞ」


「どこへ?」


「穴の中だ」


「やっぱりそうなるの!?」


 ルークが声を裏返すと、アルフォードは黒い光を指した。


「原因が下にあるなら、下を調べるしかないだろ」


「もっと安全な方法を考えようよ!」


「あるか?」


 ルークは口を開いた。


 穴へ入らずに、地下の異常を止める方法。


 必死に考えたが、何も浮かばなかった。


「……今は、ない」


「よし」


「よくない!」


 ライオネルが深いため息をつき、腰の剣を確かめた。


「結局、殿下は毎回こうなるのですね」


「未来でも?」


 ルークが尋ねると、ライオネルは疲れた顔でアルフォードを見た。


「未来は存じませんが、今でも十分にこうです」


「僕、なんでこの人を助けようとしてるんだろ……」


「息子だからだろ?」


「そうだった……」


 アルフォードが笑う。ルークも、困ったように口元を緩めた。


 だが、父の表情はすぐに引き締まった。


「ルーク」


「何?」


「今度こそ、お前は残れ」


「嫌だ」


「即答か」


 ルークは地図を畳み、父をまっすぐ見上げた。


「僕にしか見えない表示があるんだよ。近くへ行けば、また何か分かるかもしれない」


「何も分からないまま、危険に巻き込まれるかもしれないぞ」


「それでも、ここまで来て、最後だけ知らないところで失敗されたら困る」


「縁起でもないことを言うな」


「7回失敗する人が言う?」


「それを言われると弱いな……」


 アルフォードは額に手を当て、短く息を吐いた。


 しばらく考えてから膝を曲げ、ルークと目の高さを合わせる。


「連れていくなら、約束しろ。絶対に俺から離れるな」


「うん」


「危なくなったら、調べる途中でも引き返す」


「うん」


「俺が逃げろと言ったら?」


 ルークは少し考え、真顔で答えた。


「文句を言いながら逃げる」


「文句は言うのか」


「そこは譲れない」


 アルフォードは小さく笑い、ルークへ手を差し出した。


「分かった。逃げてくれるなら、それでいい」


 ルークはその手を、強く握り返した。


 ライオネルは兵士に避難の継続を頼み、西へ逃げた魔物についても周辺へ知らせるよう指示した。セシリアは風壁が弱まる場所を伝え、南へ抜ける道の警戒を引き継ぐ。


 それから4人は、崩れた地面を避けながら北の森へ向かった。


 第1の失敗を引き起こす、本当の原因へ。


 穴の底から漏れる黒い光は、近づくほどに強くなっていた。


 ルークはまだ知らない。


 その底で待つ者が、父アルフォードの人生を狂わせる、最初の相手になることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。